その動画はいつか素敵な思い出に。
K.night
第1話
「今日何するー?」
高田悠馬は慣れたように俺のベッドに横たわり、スマホを取り出した。中学生になってから俺はほぼ毎日悠馬とゲームしている。他の友達も来ることはあるけれど、俺も悠馬も親が共働きで帰ってくるのが遅いので、なんかもう兄弟みたいな感じだ。俺はゲーミングチェアに座り、マウスを動かしPCをつける。
「俺さ、ゲーム系YouTuborになりたいな、っていったことあるじゃん?」
「あ~俺もなりたいよ~。ゲームで金稼げるっていいよなぁ。あ、昨日のきよし。の動画みた?」
「俺らもそういわれるかもしれない。」
「どゆこと?」
悠馬はスマホから顔を上げる。
「ちょっと見てみろよ。」
俺はPCにYouTuboの画面を開き、「テスト」とかかれた非公開の動画を再生した。『テストです。テストテスト。オッケースタート。』
「おースゲー!ちゃんと撮れてんじゃん。てかなんだよ。チャンネル名そら。てさ。きよし。のパクリじゃん。」
「パクリじゃなくてオマージュ!本名にパクリもなにもあるかよ。ほら、アイコンとかは俺らの写真だろ。」
「おい、勝手に使うなよ。」
「後ろ姿だからいいだろ。てかチャンネル名は俺らの名前にする気だからさ。お前どうする?」
「えー、じゃあY・Yとか?」
「いいねー。じゃあそら。とY・Yにチャンネル名変えようっと。」
「はあ?ださくね?」
「いいんだよ。二人のチャンネルなんだし。名前なんて変えられるし~。」
俺は名前の変更をするためにPCを操作する。
「ってか動画なんてあげてどうするんだよ。なんか今お金になるの厳しいんだろう。」
「1000人の登録者と再生時間が年間で4000時間あればいけるらしい。」
「きびしー!」
「いや、余裕だろ。俺らそれなりに友達いるじゃん。チャンネル登録してもらうよう、友達の友達にもお願いしてさ。ちょっと時間かかっても1000人とかすぐだよ。しかもさ今さ、ゲーム実況1時間越えとか当たり前だし、長いの出しちゃえば再生時間なんてすぐだよ。何よりさ、俺らのゲーム超楽しいじゃん!!」
「間違いねぇ!」
「だろ!」
「やべぇ!俺らもしかしてきよし。とコラボできるようになっちゃたり?」
「うおー!いいじゃん、それ目標にしようぜ!きよし。とコラボ!」
「俺大ファンなんですーって!」
「あ?そら。?パクリじゃねええええかあああ!って」
「うおおー!ありそう!やばい、面白くなってきた!」
「おっしゃ!ここから俺らの伝説スタートだ!」
挨拶どうするよ、なんてわいわい言いながら俺らは動画をとった。3時間くらいいろんなゲームで撮って、二人で聞いて一番面白かったやつを1時間3分くらい切り取った。投稿ボタンを押すときはちょっとドキドキして、動画がアップロードされて悠馬のスマホでも画面が見られた時はハイタッチした。
次の日から俺は友達にチャンネル登録してもらうようお願いして回った。悠馬のやつは全然だ。なんだよあいつ。
動画は毎日投稿がいい、って聞いたから毎日上げようとして、2日目も一緒に撮った。3日目は悠馬はどうしても用事があるって断られた。だから自分でフリーホラーゲームで撮ってみたんだけど、全然うまくいかない。聞き直して見て絶望。ぜんぜんきよし。みたいじゃない。なんというか、何言ってんだ俺?って感じで。だから3日目は動画を上げずに、4日目に悠馬がうちに来たから動画をとろうと言った。
「なあ、お前、再生数見た?」
言われてチャンネルを見てみる。チャンネル登録者数35名。再生25回。
「見たけど?こんなもんじゃない?」
「もう一つの見てみろよ。一昨日あげたやつ。再生数3回。」
「最初なんてこんなもんじゃない?」
「翔のやつに言われたんだよ。これ面白いのお前ら二人だけだろうって。」
「だからなんだよ。俺ら二人の動画楽しいって。昨日自分で撮ってみて思ったんだ。俺だけだと面白くないけど、二人で撮った奴は間違いなく楽しいって!」
「・・・ごめん、俺、恥ずかしい。」
「え・・・。」
「なぁ、動画止めていつもみたいにまた二人で遊ぼうぜ。いいじゃん。それで十分楽しいんだから。」
「だって、お前きよし。とコラボって。」
「ちょっとな。まあそうなったら楽しいかなって。でもほらYouTuborって何かと大変じゃん。炎上とか。」
「・・・でも、俺、楽しかったよ。」
「わり。普通に遊ぶのはこれからももちろんOKだから。今日は帰るな。」
そういって、悠馬のやつはさっさと帰っていった。俺はどうしたらいいかわかんなくて、PCの前に座った。「目標:きよし。とコラボ!」って書いて張った付箋を剥がす。PCの画面にはYouTuboのきよし。の最新動画が上がってた。コラボだ。再生してみる。面白かった。でも、悠馬ととった動画も絶対、絶対楽しかった。
小学校の頃、俺は学校が終わって、家でずっといろんなゲーム実況を見た。楽しかったんだ。誰かと一緒にゲームをしている感覚になって。寂しくなかった。きよし。の動画は全部見た。中学校で同じきよし。が好きな悠馬と仲良くなって、毎日みたいにゲームした。楽しかった。この楽しいは、誰かにも伝わるものだって、俺はそう思うのに。昨日、やってみたフリーゲームを立ち上げてみる。マイクを、録画ソフトを立ち上げてみる。ソフトもマイクも頑張って貯めたお金で買った。ちゃんと撮れるように、音声とかゲームの音量の調整とか、全部できるように何回もやってみた。
「どうもー、そら。でーす。今日はこちらのゲームをやっていきたいと思います。」
つまんねぇな。なんか全然つまんねぇ。でもさ、恥ずかしいってなんだよ。楽しかったのに。俺、本当に楽しみにしてたのに。うまくいったらさ、俺ら大人になってもずーっと二人でゲームし続けられるじゃん。
悠馬、俺さ、お母さんとお父さん、離婚しそうなんだよ。
その動画はいつか素敵な思い出に。 K.night @hayashi-satoru
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