第14話 狩人先輩からの助言

「ゆうちゃーん、今日遅刻したんだって?」

「な、なんでそれを」

「そりゃあ、副会長ですから」

「そ、そうですよね……」


 ふふんっと胸を前に突き出す春姉のおっぱいが魅力的に感じなかったのは、今日が初めてだ。


「荒風から聞いたよー、度胸のある後輩がいるなって」

「はは……そうですか――――って、先輩?」

「うん、先輩だよ?」


 それがどうかしたの? という何気ない顔で聞いてくる。

 いやいや、荒風さんが春姉よりも先輩だったら、3年生という事になる。


「荒風さんって、3年生?」

「そうだよー、しかもあの人風紀委員長だから、すごい人だよ」

「え、待って? もう一回言って?」

「小春ちゃんが可愛い?」

「何言ってるの? 風紀委員長?」


 俺がそう言うと、春姉はコクコクと首を縦に振る。


「だからあの人、生徒会長に電話で話してたのか……」

「まぁ、明日から強制参加になっちゃうかもしれないけれど、しょうがないね」

「俺が悪いし、それは仕方ないことなんだけど……」

「どうしたのさ」

「俺絶対つけられてるよな」


 恐る恐る、聞いてみると春姉は考えてから、苦笑いしながら頷く。


「はぁ、だよなぁ」

「ま、まぁ私と一緒の日は起こしに来てあげるから」

「…………お願いします」

「はい、お願いされましたっ!」


 なんて心強い味方が俺に着いたのだろうかとそんなことを考えていた。


「てか、そろそろ家に帰った方がいいんじゃない?」

「んー、もうちょっといるー」

「なんでだよ」

「ゆうちゃんが悲しんでると思って」


 春姉はニヤついた表情をしているが、その後、フワッとした微笑んだ笑みを見せる。


「どうしてこういう時は……」

「ん? 何か言った?」

「別に……プリンあるけど食べる?」

「食べるー!」


 俺は自分がデザートに残していた、プリンを春姉にあげた。

 春姉は美味しそうにプリンを頬張る。


 自分が食べたわけではないのに、その姿を見ていると、頑張ろうと思えてくる。


「お、おはようございまーす……」


 俺は朝5分前に正門に行ったときに挨拶をする。

 周りにも何人かチラホラ人数が見える。


「あ、君が先輩が言ってた子か」


 一人の男子生徒が話しかけてきた。

 怖そうな人ではなくて良かったと安心した。


 狩人先輩みたいな人ばっかりだと思っていたから、ホッとした。


「はい、本当すみません」

「全然大丈夫だと思うよ」

「まぁ、あの人まだ来てないですよね」


 狩人先輩が来てないことに安心している俺がいる。

 そんな話をしていると、背後に気配がした。


「お、もう来ているようだな、たかむら」

「い、いま来たんですか?」

「なわけなかろう、お前が来るよりもっと前に来ている」

「そ、そうですか……お疲れ様です」


 狩人先輩の狩りをするような目つきが怖いが、挨拶をする。

 というか、この人どんだけ早く来てるんだよ。


「サボらずに今日はしっかりと来たんだな」

「そりゃあ、来ますよ」

「まぁ、サボっていたら鉄拳をくらわしてやるところだ」

「う、うっす……」


 たぶん、本当に殴られるんだろうな、どのくらい痛いだろうななんて考えていた。


「あの、それで具体的に何するんですか」

「挨拶を促すだけだ」

「それだけですか?」

「それだけ……か」

「……?」


 俺がそう聞くと、狩人先輩はフッと笑った。

 何かまずいことでも聞いたんだろうか。


「たかむら、お前はこの仕事をそれだけと言ったか?」

「は、はい……」

「どんな仕事でも、精一杯やれば辛いものだ、それだけという、軽い言葉が出てくるのはお前がこの仕事を舐めているからだ」


 狩人先輩のその言葉になにも言う事ができなくなってしまった。

 俺は今日が初めての仕事だし、何も知らないのだ。


「舐めているわけでは……」

「まぁ、風紀委員の仕事内容だからな、制服が乱れていたりしたら注意してやってくれ」

「わかりました!」

「返事はいいな」


 そう言われて俺は正門で準備をする。

 準備と言っても、旗のようなものを持って、挨拶をするだけなのだが。


「――――どうだった? 今日初めてやってみて」

「いや、案外この学校の生徒って挨拶返してくれないんだなって」

「ハハッ、そうだな」


 俺の言葉に狩人先輩は笑顔を見せる。

 その顔に俺は不思議に思ってしまった。


「自分の知らないことがあったし、それだけかと思っていたことがかなり大変だっただろう」

「……た、たしかにそうですね」


 俺は自分の考えを改め、先ほどの発言をとても恥ずかし感じた。


「すみません、こんな1年で……」

「一年生はそれでいい、上の学年が、3年生が皆を引っ張っていくのだ」

「……先輩ってかっこいいですね」


 俺は本当に心のそこからそう感じた。


「なんでだろうな、よく言われる」

「だって本当ですもん」

「女なのにか?」

「女性だからこそじゃないですか?」


 狩人先輩は女性からの支持がとても多そうだ。

 当の本人は、自分がなぜそう思われているのか、分からないみたいだった。


「明日も来ます」

「あぁ、また明日もよろしく頼む」

「はい。よろしくお願いします」


 そう言葉を交わして、教室へ戻った。

 明日の仕事が楽しく思えてきた。

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