終盤で裏切る悪役騎士団長に転生したので真の勇者である追放少女と一緒に偽勇者パーティーを辞めようと思いますっ!〜主人公を近くで見守ってたら、いつの間にかシナリオをぶっ壊してた〜

ナガワ ヒイロ

第1話 悪役騎士団長、勇者パーティーを辞める






「やったぞ、レッドドラゴンを倒した!!」



 金髪の少年が巨大な竜の亡骸の上に立ち、高らかに宣言する。


 彼の名前はアレン。


 アズル王国の第一王子であり、勇者パーティーのリーダー。


 つまりは勇者ってことだ。



「流石はアレンね!! まさかレッドドラゴンを倒しちゃうなんて!!」


「この調子なら魔王だって倒せるはずですぅ」


「二人とも褒めすぎだよ。この勝利は二人がいたからだ」



 勇者パーティーの一員である二人の少女たち、賢者ドロテアと聖女マリアがアレンの勝利を称えて群がる。


 その様子を俺は離れた場所で見ていた。



「……はあ。死ぬかと思った」



 俺の名はラース。


 デウラギール伯爵家の嫡男であり、アズル王国騎士団の団長。

 今は勇者パーティーの一員としてアレン王子を守るために戦っている。


 要するに子供のお守りである。


 勇者アレン、賢者ドロテア、聖女マリア。

 この三人はたしかに類稀に見る才能を持った実力者だ。


 しかし、所詮はまだ子供。


 より確実に魔王を退治するため、王国は騎士団最強である俺をパーティーに加入させた。


 三人とも性格に難があるから、ぶっちゃけ苦手なのだが……。

 王国騎士団の人間である俺が国の命令に逆らうことなどできるはずもなく。


 今や勇者パーティーの前衛として、勇者アレンが必殺技を放つための溜め時間を稼ぐタンク扱いである。



「あの、ラースさん」


「む? どうした、シエル」



 そして、勇者パーティーにはもう一人いる。


 荷物運びや金銭管理など、主にパーティーの雑用をしている少女。

 商人から物を買う時の値切りを始め、交渉を担っている。


 純白の髪と黄金の瞳を持った、顔立ちは綺麗な女の子だ。


 ……少し垢抜けてない感じはするけども。


 勇者の好みではなかったらしく、ドロテアやマリアと違って雑に扱われているのが可哀想だった。


 彼女の名前はシエル。


 何故か勇者パーティーの一員に選ばれてしまった、平民の女の子である。



「これ、治癒のポーションです。途中でドラゴンに吹き飛ばされて、怪我してましたよね?」


「見られていたか、恥ずかしいな」



 盾でドラゴンの振り下ろした爪を受け止めたは良いが、そのまま吹っ飛ばされて地面に激突してしまったのだ。


 その際に頭を強く打ち、とても痛い。


 勇者パーティーを守る盾が一撃で吹っ飛ぶなどカッコ悪いことこの上ないな。



「いえ、カッコ良かったです」


「……そうか? そう言われると、気も楽になる。ポーションはいただこう」



 シエルからポーションを受け取り、兜の隙間から一気に飲み干す。


 すると、幾分か痛みが和らいだ。


 毎度彼女から渡されるポーションを飲んで思うのだが、なんて凄まじい効き目だろうか。

 騎士団で支給されるポーションでもここまですぐ効果が表れるものはない。


 あと単純に美味しい。


 シエルはこのポーションをどこから仕入れてくるのか、気になって夜しか眠れない。


 と、その時。


 不意に想像を絶するような凄まじい頭痛が俺を襲った。



「うっ、ぐっ」


「え、あ、あの、ラースさん!? 大丈夫ですか!?」


「す、すまない、頭が痛くて……ぐあっ!!」



 激しい痛みに悶え、その場で蹲る。



「なん、だ……頭の中が、掻き混ぜられるみたいな……」


「た、大変っ、マリアさん!! た、助けてください!! ラースさんが、ラースさんが!!」



 シエルが慌ててヒーラーのマリアを呼ぶ。


 しかし、彼女が来る前に頭痛は引いて、代わりに俺は衝撃を受けていた。


 俺はある事を思い出してしまったのだ。



「シエル、俺は大丈夫だ」


「え? ラースさん? で、でも、凄く顔色が悪いですよ?」


「本当に大丈夫だ。その、少し思い出したことがあってな」


「?」



 シエルが首を傾げる。


 こんなこと、言ったところで誰にも信じてもらえないだろう。


 俺は思い出してしまったのだ、前世の記憶を。



「……はあ、まじかよ」



 そして、気付いてしまったのだ。


 この世界が、前世の俺が執筆してアニメ化までした『勇者パーティーを追放された元雑用係の私が実は真の勇者だった件。〜今更戻ってきてと言われてももう遅い。私はもふもふとスローライフを満喫します!!〜』の世界ということに。


 長い。タイトルが恐ろしく長い。


 でも俺がネット小説を書き始めた頃はこのくらいの長さのタイトルが普通だったのだ。


 いや、今はその話は横に置いておこう。


 何より驚くべきは、俺の転生してしまったラースという青年。

 ラースは勇者アレンが魔王と戦う手前で裏切り、魔王に味方する悪役騎士団長なのだ。


 最終的には真の勇者として覚醒した少女の手で殺されるキャラである。


 そして……。



「ほ、本当に大丈夫ですか?」



 俺を心配そうに見つめてくる勇者パーティーの雑用係、シエル。


 彼女こそが真の勇者。


 俺が作った世界の主人公であり、魔王を倒す本物の勇者なのだ。


 無駄に長いタイトルから分かるだろうが、シエルはこれから理不尽にも勇者パーティーを追放されてしまう。


 いや、その方が彼女は幸せになるから良いけど、問題はシエルが抜けた後の勇者パーティーだ。


 勇者アレンは本物の勇者ではない。

 今まではシエルが無意識に使っている強化魔法のお陰で無双していただけ。


 シエルが勇者パーティーを追放されたのを機に、アレンたちは破滅へと向かう。


 それでも魔王のお膝元まで辿り着くのだから大したものだが、シエルのいなくなった後、使い潰される寸前だったラースが裏切るのだ。


 結果、勇者パーティーは全滅してしまう。


 魔王に寝返った俺も、最後はシエルの手で死ぬ羽目になるし……。


 よし、決めた。


 シエルが勇者パーティーを追放される時が来たら、俺も一緒に勇者パーティーを辞めよう。

 そして、あわよくばシエルの仲間にしてもらおう。


 彼女はいずれ全てを手に入れる。


 富も名声も権力でさえも、魔王を倒した彼女は手に入れるのだ。


 その時、シエルの側にいたら、その恩恵を受けられるかも知れない。


 あとは単純に――



「あ、あの、私の顔に何か着いてますか……?」



 こてんと首を傾げるシエル。


 あとは単純に、シエルがどちゃくそ俺の好みで可愛いから。


 純白の髪も黄金の瞳も、着痩せするタイプだから分かりにくいが、実は巨乳という抜群のスタイルも。


 今はまだ垢抜けてないが、ある人物に出会うと一気に可愛くなる。


 とにかく俺のドストライクなのだ。


 化粧の濃いドロテアや偽物の勇者に媚びを売るマリアとか要らん。

 いや、物語の上では必要な存在ではあるけれども。


 俺はシエルを、この世界の主人公を、近くで見守りたい。



「……ふむ」



 たしかシエルが追放されるのは、レッドドラゴンを退治した直後だったな。


 雑用係である彼女は戦闘の邪魔にならないよう、物陰に隠れているのだが、それがドロテアの癪に障ってしまう。


 役に立たない無能はパーティーを辞めるべきとアレンに懇願し、アレンもアレンで言われるがままにシエルを追放してしまうのだ。


 本当はシエルがいるからこそ、レッドドラゴンを倒せたとも知らずに。


 いやまあ、それに関しては前世の記憶を思い出さなかったら俺も知り得ないことだったし、無理もないとは思うが。


 ……あれ?



「……シエル。俺たちが倒したのは、レッドドラゴンだったな?」


「え? あ、はい。レッドドラゴンです」



 ということは――



「ちょっとシエル!! 話があるからこっち来なさい!!」


「え、は、はい!!」



 ドロテアが怒鳴り、シエルを呼びつける。



「あんたは今日で追放よ!!」


「え!? そ、そんな、追放って……」


「あんた、いつも隠れてばかりで何もしてないじゃない。雑用なんて誰でも出来るし、無能は必要ないのよ。ここでお別れね」



 よりによって今かよ!! いや、別に何も問題はないけどさ!!



「そ、そんな!! 家族になんて説明すれば……」


「知らないわよ。そもそも平民なんだし、元あった鞘に収まるだけじゃない」


「そ、それは、そうかも知れませんけど……。せ、せめて街までは一緒に連れて行ってください!!」


「ふふっ、イ・ヤ。魔物がレッドドラゴンの血の匂いに吊られて来るだろうし、無能はここで死ねば? あ、生きて街まで戻ってきたらまた仲間にしてあげても良いわよ」


「あぐっ」



 そう言いながら、ドロテアはシエルに低威力の失神魔法を食らわせた。


 気絶したシエルがその場に倒れ伏す。



「こんな失神魔法も防げないなんて、本当に無能ね」


「なんだか可哀想ですぅ」


「いや、どのみちここで死ぬようなら、シエルは魔王討伐の旅に付いて来るべきじゃない。これは彼女のためでもあるんだよ」



 あ? こいつらマジ殺して良いかな?


 いや、こいつらを作ったのも俺だから俺のせいでもあるんだけどさ。



「早く街に戻って宿屋に行きましょ♪」


「あ、ドロテア様ずるいですぅ」


「ははは、二人とも引っ張らないでくれ。ラース、何をしてるんだ。早く行くぞ」



 よし、やめよう。こんなクソパーティー、秒で辞めてやる。



「すまないが、俺はここに残る」


「は?」


「ん?」


「え?」



 ドロテア、マリア、アレンが硬直する。


 俺の言葉を理解できなかったのか、アレンが目を瞬かせて言う。



「な、なんだって?」


「俺はここに残る。勇者パーティーは今日限りで辞める。祖国にはアレンの方から……いや、アレン王子から報告しておいてくれ」


「きゅ、急に何を言うんだ!! 悪い冗談はやめろ!! 騎士団長の地位も失うことになるぞ!!」


「冗談ではない。それで構わない」


「なっ……」



 しばらく沈黙の時間が流れる。


 その静寂を破ったのは、シエルを魔法で失神させたドロテアだった。



「ふん。別に良いじゃない、アレン」


「ドロテア?」


「盾を持って私たちを守る木偶の坊なんか、代わりがいくらでもいるわ。前々から邪魔だと思ってたのよ。最強の騎士だか何だか知らないけど、いつも偉そうに。私たちに意見したりして」


「同意見ですぅ。行きましょ、勇者様ぁ」


「あ、ああ、そ、そう、だな」



 こうして、三人はレッドドラゴンの森から去って行った。


 俺は晴れて勇者パーティーを辞めたのだ。



「……取り敢えず日も暮れるし、火でもおこすか」



 失神しているシエルがいつ目を覚ましても良いように、俺は枝を拾い集めるのであった。





――――――――――――――――――――――

あとがき

ワンポイント各キャラのイメージ

アレン→アホ

ドロテア→化粧濃い

マリア→イエスマン


シエル→垢抜けてない

ラース→全身鎧


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