第3話唯一苦手な生徒

監督になって1ヶ月─────

なんだかんだ、俺はこのチームにすっかり慣れている。そもそも俺は子供が好きだし、子供も俺にあだ名をつけるくらいには仲良くしてくれている


そのおかげで、この1ヶ月で殆どの生徒たちの名前とか特徴などを覚えることができた。


コンコン、コンクリートの音を小さく鳴らしやがら1人の小学生がやってきた


そのとき、「あ」と思わず声が出た。このクラブで唯一あまり特徴を知らない子供だ。名前は堂又健(どうまたけん)。ちなみに俺が一番苦手なタイプの生徒だ


思えば俺の中の印象はまだ、それくらいだ。一番苦手な生徒、ただそれだけだ。理由は単純で当たりが少しきついからである


というか、普通にもうウォーミングアップ始まってるんだけど...まあ俺も人のこと言えないけど。


俺は彼に近寄って、挨拶をした


「おはよう。もうウォーミングアップ始まっちゃってるから参加しよ?」


「っせえな」


舌打ちされちゃったし•••


「せんせいー!ミーティングしよー!」


「あれ?もうウォーミングアップ終わったの?まじか。」


「みんなもう集まったからやろー」


俺はずっと座っていたベンチから立ち上がった


「おう。じゃあ今日はー」

「練習メニューどうする?ねえねえどうする?」


早く練習したそうに言ってきたのはチーム最年少で小学3年生の松井大輔だった


その声に重ねるようにみんな同じことを言った


「シュート練習したい!」


「あ、そう?今日、パス練習しようと思ってたんだけど、」


「えー?つまんない」

ちょっとしゅんとした雰囲気になるのをすぐに直したのはキャプテンの蒼だった


「先生困ってるからみんなやめて。先生が決めるから」


「んー。」

渋々飲み込んだようである


「よーし!じゃあシュート練習しよう!」


「やったあ!ありがとう先生!」


「先生いいの?」


「いいよいいよ!全然、練習時間はあるからね。」


「よし、じゃあみんなボール準備して練習開始!」


「はーい」


俺がそう言うと子供たちはグラウンドの中心にすぐ走っていった


「さあてと、今日もやるか」

少し息を吐いて移動をしようとしたその時、俺は偶然、リフティングをしている堂又を見つけた


俺は流石にそろそろ練習に参加させなきゃという焦りだけで彼のもとに走っていった


「堂又くん!堂又くん!そろそろ練習開始!ほら、シュート練だよ?みんなやるから行こ?」

俺はまた遠慮して怒れない────こんなんだから舐められているのかな...


「ほっといてくれよ。」

「え?なんで?」


堂又は俺の本が置いたままのベンチに駆けていった


「はあ...何でだろ。」


「せんせー!早くやろーよー!」


生徒たちが遠くから呼んでいる声がようやく聞こえた。俺はとりあえず堂又は置いといて、ゴールネットの前へ移動した








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