第79話 Memories Returned (戻った記憶) 4

 「あの日、家の裏で術式の鍛錬をしていたの。その後しばらくすると、目が眩む程の光に包まれて。」

「気が付いたらラビンの狩場近くにいたわ。その時は何も思い出せず、記憶を失くしているんだとドクターに言われた。」


 「そして今に至ったのだな。そうかそうか。」

聞きながらゆっくり頷くワンドル。


 ライラがバッグからグランダの爪を取り出すと、

「これはご存知ですか?」

「いかにも。それはグランダの爪。この時代に来る前、そしてこの時代に来てからも、時折、薄青く光っていただろう。気が付いていたと思うが?」


 ワンドルも持っている爪を姉妹に見せた。

「同じグランダの爪だよ。お前達のママから預かっている。


「私達、光っていたのはこの時代に転移されてから知りました。でも何故光るのかは、分かりません今でも。」

「そうだったのか。ライラ、その爪はグランダが意識だけになっても尚、その力を示すもの。グランダの意識が近付くと光りだす。この時代でも光っていたのだね……恐るべしグランダの意識の強さよ。」

「グランダは現世の時代、パパに討伐された……。それでも意識は過去にまで影響しているの?」

「そうなるよレイラ。この時代にはグランダはまだ存在しない、にも拘わらず現世の時代のグランダの意識で爪が光るのだからね。」

「もし私達が、出現した時代のグランダを仕留めたら、現世のパパは死なずに済むの?」

「それは叶わない事だろう。グランダの意識が消えるだけで、それ以外何も起こらない。」

「でも現世ではグランダの意識は残っているのでしょう?」

「うむ。ライラの思う通り、現世では、今も意識だけで妖魔達を差し向けてくる。」

「じゃあライラと一緒に、出現間もないグランダを仕留める。そうすれば現世で何事も無くなるでしょ?」

「しかしいつの時代にグランダが現れたのか、それは私にも分からない。」

「グランダの事はどうでもいい。肝心の私達は、どうやったら現世に戻れるの?」

「それは難しい。魔術を最大限まで習得し、最終的に転移術式マタスタシス=テクを習得しなければ。」


 倒木に腰掛けるワンドル。それに合わせて、両隣に座った姉妹。


 「パパはもう亡くなっている。ママは1人で私達を待っている。今のママは転移術式は使えないみたいだし、私達がどうにかするしかなさそう。このまま鍛錬して転移術式を習得することは可能?」

「お前達はガイラの子供達。そして私の姪だ。同じ遺伝子を持つ者。それは努力次第で叶うだろうさ。その前に、リンクを最上級まで覚醒せねば。そうすれば巨人の槍で現世と繋がれる。」

「さっきのように岩の輝きに合わせてリンクするのね。」

「その通りだよ。ライラはママと話したいだろう?レイラも同じだね?」

「えぇ。必ず実現しなきゃ。」

「よしっ。それではサンドラさんに今後もお世話になる事を伝えに行かなければ。2人が離れてしまうことを寂しく思っている。記憶が戻った今、全て伝えて今まで通りに、この地で過ごしていくことだ。術式の鍛錬は2人で。時には私がここへ戻るから、その時にな。」

「先ずはママとリンクね、分かったわワンドルさん。」

「私が叔父だと分かってくれたかな、レイラ。……お前達には急な話だが分かっておくれライラ。」

「私達が無事で、記憶が戻ったんだもの。今ママは心配してくれているのが分かった。早く直接リンクしたい。」

「二人共、大きくなったものだ。私は2人が産まれた時に立ち会っただけ。意識を感じるに、今のままで上級魔術。術式を思い出したのなら、すぐに前の状態になる。巨人の槍でリンクするのはそう遠くないさ。さすがガイラの子供達。頑張りなさい。」


 ワンドルは姉妹の肩を抱き、励ました。

3人は立ち上がり、山を下りていくのだった。

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