第36話 Another World (異なる世界) 3
「2人共記憶を無くしている様だ。特に外傷は見られない。時期に記憶が戻るだろう。何か異常が見られたら私の診療所に来なさい。サンドラ、よろしくお願いしますよ。……私はこれで失礼します。」
医師が帰った後、初老の女性が自己紹介した。
「私はサンドラと言います。あなた達、記憶を失っているなんて……。可哀想に。ここへは何処から来たの?」
「草原から森を歩いて来ました。家が点々と見えて、煙突から煙が。それで訪ねて来ました。」
「2人共短剣を下げている。猟師でもしてたのかしら?」
「それも分かりません。さっき話していた双子とは何ですか?」
「時を同じくしてこの世に生まれた2人の事。ほとんどが瓜二つの顔立ちや背丈なのよ。あなた達はまさしく双子。」
「双子とはそういう意味なのですか。と言う事は私達は……。」
「あなた達は姉妹よ。分かる?血の繋がった姉妹。この分じゃ、両親も思い出せないかしら。」
「両親……。」
「あなた達の親よ。一緒に暮らしていなかった?」
「分かりません……。」
「今日はここに泊まっていきなさい。ゆっくり休むといいわ。」
空き部屋の隅に、干し草を盛り上げてシーツを被せたベッドに案内される2人。
「寝る時はロウソクの火は消してね。じゃ、ゆっくりお休み。」
静かな夜の町に、虫の声だけが聞こえている。
「私達は姉妹。両親もいる。……何も覚えていない、思い出せない。」1人の少女が心の中で呟いた。
「ねぇ。またあなたの心の声が聞こえる。何故?」
「私に言われても分からないわ。あなたも心で呟いたらどう?」
もう1人の少女も心の中で呟き始めた。
「このまま何も思い出せないでいるのは不安だわ。」
もう1人が話し始めた。
「どうして?あなたの心で呟く言葉が分かる。」
「本当?」
「えぇ。何も思い出せないで不安なんでしょ?」
「その通りよ。私達、このまま心で話せるのかしら。」
2人は心で他愛もない事を話し始めた。お互いに返答を心で呟く事を少し繰り返した。
2人は顔を見合わせ、口を揃えて言った。
「私達、心で話せる。不思議ね。」
「この事はしばらく誰にも言わないでいましょう。」
2人の部屋の明かりが消え、家の周囲は暗闇に包まれた。
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