第32話 Hint(ヒント) 2

 ミランダは一晩中姉妹の気配をリンクで探っていたが、その甲斐もなく無駄に終わった。


 「ミランダ様。少し休みましょう。これ以上は身体が持ちません。僕は一旦シュトランに戻って、古い書物を持ってきます。術式のヒントが得られるかも知れません。」


 ミランダをベッドに寝かせると、ガムはシュトランに戻っていった。


 2日程経った朝。

 ガムがミランダの家に戻った。多くの書物を抱えてリビングに入ってくる。


 「ガムがシュトランに行っている間、色々考えてたの。ガイラと知り合ってまもなくの頃。……ガイラは言ったわ。習得するべきではない術式も存在すると……。それがグランダが使った術式なんだわ、きっと。」

「ガイラ様は存じていたのですね。マタスタシス=テク、クルスオブメモリーロスの事を。……ガイラ様は古い書物をお持ちでなかったですか?」

「分からない。待って、探してみるわ。」


 ガイラの部屋の書棚から古い書物を探すミランダ。棚にはそれらしいものは見当たらなかった。


 肩を落とし座り込んでしまう。

 ふと目を向けると、書棚の1番下は引き出しになっていた。取手の金具が無く小さな穴だけが残っていた。


 「引き出し?」

座り込んだまま、ミランダは引き出しを開く。案外スムーズに引き出せた。


 中には、古びた本と、割と新しい本の2冊が収まっていた。

ミランダはその2冊を抱え、リビングに戻った。


 「ミランダ様、何か見つかったんですね。」

2冊をテーブルに置き座った。


 「書棚の引き出しにこれが有ったわ。あなたの方はどう?」

「僕の書物にはヒントは有りませんでした。」

「この2冊に何かヒントがあれば良いけど……。」


 古い方をミランダが、新しめの方はガムが目を通す事になった。


 新しめの方はガイラが日記の様に記したノートの様で、やはりガイラもマタスタシス=テク、クルスオブメモリーロスに関して色々調べていたのがうかがえた。

 古い書物の方はというと、ガイラが代々受け継いだ書なのだと理解出来た。術式に関する書で、当然巻末にはマタスタシス=テク、クルスオブメモリーロスの事まで書かれていたのだった。

 マタスタシス=テク、完全習得すれば、別世界を自在に転移移動が可能となる。

 クルスオブメモリーロス、対峙した妖魔に対して有効。記憶を消し去ることにより、戦う意志すら忘れてしまう。


 古い術式の書物の文章は、この様にくくられ、最後のページは綺麗に切り取られていた為、2人は気が付かなかった。


 「ガイラ様は妖魔神グランダがマタスタシス=テク、クルスオブメモリーロスを完全に習得してしまうのを危惧きぐされていた様です。妖魔神グランダがガイラ様によって滅ぼされた。グランダの術式はまだ完全ではなかったと考えます。」

「マタスタシス=テク、クルスオブメモリーロス。どちらも並のパワーでは使える術式ではない様ね。ガイラが代々受け継いてきたのは、その存在のみ。身に付けるすべは書かれていないわ。」

「グランダは未完成の術式を放ったのでしょう。彼女達の記憶に影響が無ければ、グランダから受けた意識やパワーを少しでも記憶に留めているかも知れません。」

「あの子達が2つの術式を完成させられると考えてるの?」

「彼女達は記憶力は良いでしょう。であれば、いずれはそう望みたいものです。」

「別世界で記憶が残っている事を祈るわ。せめてリンクだけでも……あの子達と繋がっていたい。」

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