第17話 Chapter(章) 15

 当時の回想……。


 高い崖がせり立つ場所に追い詰められた妖魔神グランダ。

魔道士達にバーストフルの攻撃を浴びている。

効果はあまりなくかすり傷程度だったが、最上級魔道士の目的はそれではなかった。


 仲間の攻撃の隙を突いて、グランダにシンクロ、更に最上級複合魔術パワーブースト=シンクロ=テクで操る為だった。


 「皆んな!そのままバーストフルで動きを止めていて。私はその隙に……。パワー!ブースト!シンクロ=テク!!」

「や、止めろ!うくくっ、右腕が操られる。止めろー!貴様、誰だ!名を名乗れっ!」

「私は最上級魔道士ミランダ。妖魔神グランダ!お前の息の根を止めてやる!」

「や、止めろ!くそっ、右腕がーっ。」

右腕が操られ、鋭い爪は自らの胸へ突き立てようとしている。


 それをこらえたグランダだったが、すぐにガシュッ、ズブリ。……鈍い音と共に、グランダの左腕がごろっと地面に落ちた。


 「うおぉぉぉっ!」

あまりの痛みに叫ぶしかないグランダ。

バースト攻撃を避けながらよろよろと逃げていく。


 「くそぅ、き、貴様の意識は忘れん!必ずこの左腕の復讐をしてやる。覚えておけ。」

強い意識を送りながら去っていったのだった。


 「皆んな!グランダの左腕を焼き払いましょう。」


 バーストで焼き払われたグランダの左腕は、長い爪だけが残った。

その爪の1本を取り、ポケットに収めたミランダ。


 「これで当分現れないでしょう。次こそは息の根を止めてやる。……皆んなお疲れ様。街に戻りましょう。」


 場面は現世に戻り、ガイラ邸リビングに……。


買い物から戻ったミランダはキッチンに立っていた。

レイラとライラは魔術の練習。


 「あっ、レイラに意識を掴まれて腕が動かない。」

「ライラ。なんとなく分かってきた。乗り移った感覚と共に、心の中で自分が動く感じよ。交代しましょ、やってみて。」

「うん。……意識を掴んだわ。このまま乗り移る感じ?……うん、分かる。で心の中の自分が動くみたいに……。」

操られたレイラはパンッと手を叩いた。


 シンクロで見ていたミランダがキッチンから駆け出てくる。

「2人共!それでいいのよ。ママ感激したわ、最上級魔術に近い状態よ。さぁ、その要領を忘れないで続けて。見た目や聞いた音を感じる練習。」


 レイラとライラが交代交代に意識を掴み合っている。


 「うん。ライラが私を見てるのが分かる。」

「キッチンのママの支度の音も聞こえてるわ。」

「ライラ、外に出てやってみましょ。少し距離を離して練習。」


 そして家の外。


 2人が距離を取って座っている。

陽は傾き、2人の影が長く伸びている。


 「ライラ、意識を掴まれたら、どこか1点を見つめてみて。答えを話すわ。」リンクで話しかけるレイラ。

言うと目を閉じてライラの意識を掴みにいく。


 ライラは遠くの木立を見つめていた。

「ライラ。木立を見つめてるわね。」

「ピンポーン、正解よ。じゃ交代。」


 ライラは目を閉じ、レイラの意識を掴んだ。

「レイラ。麓の教会を見てるわね。」

「当たったわライラ。」

「やったー。出来る様になったー。」


 ライラはレイラに抱きついた。

「もう少し離れてみよう、ライラ。」


 30メートル程離れただろうか、レイラがリンクを送った。

「さ、今度はライラが先にやってみて。」


 同様に目を閉じてレイラの意識を掴みにいくライラ。

「レイラの意識!……鳥のさえずりが聞こえる。山の方を見てるのね。」

「ライラ凄い!シンクロしながらリンクで答えてきた。交代交代―。」


 次はレイラが目を閉じてライラの意識を感じる。

「掴んだ。……何?うつむいてどうしたの?」

リンクも併せて送っているレイラ。

「足元なんか見たり……。バ、バッタ?なんかライラっぽいわね。……確かに鳥が鳴くのも聞こえるわ。私の方に歩いて来る……どうしたのライラ。」


 レイラの所まで歩いて来ると、言葉を使う。

「お腹空いてきた。」

ライラは言ってもたれかかってきた。


 「私もなんかお腹空いてきたわ。もしかすると、シンクロは体力を消耗するのかも。後でママに聞いてみましょ。」


 するとパカパカと馬の蹄の音。ガイラが戻ってきた様だ。

ガイラから2人に向かってリンクを送ってきた。


 「ただいまレイラ、ライラ。今日は外でシンクロの練習だったかな?上達してるかい?」


 そのままゆっくり向かって来るガイラの馬。


 「パパおかえりなさい。私もレイラもシンクロが上達してきたわ。」

2人はガイラの意識を掴み、視界を確認している。

遠くから2人と家を見ては馬のたてがみを撫でている。


 ガイラは意識を掴まれているのに気付いているのか、視線を方々に変えながら家に向かって来る。

その間、姉妹はシンクロの強さを調節しながら見た目を観察していた。2人の所にやって来ると馬を降りたガイラ。


 「2人共凄いな。シンクロの強さを変えながらずっと状態を崩さないなんて。練習の成果は言わなくても分かる。さ、もう陽が暮れる。家に入りなさい。」


 家に入る2人。馬小屋に入るガイラ。

 外は陽が落ちて薄暗くなっていた。

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