第9話 Chapter(章) 7
そしてその晩の事。
クッキーは焼き上がり美味しそうにバスケットに収まっている。
ケーキも素晴らしく上出来で、山羊のミルクのクリームがたっぷりと飾り付けられている。
「パパが戻るまで、リンクとシンクロの練習をして待ってましょう。2人共ママの意識を掴んでみて。」
姉妹はミランダを見つめている。
ライラがパワーを増幅させるとレイラが話し始めた。
「ママ、そう愚痴らないで。パパは妖魔退治が仕事でしょ?」
どうやらミランダは、ガイラの帰宅時間を心の中で呟いていた様だ。
更にライラは自分のリンクにパワーを加えて、ミランダにリンクした。
「大丈夫よママ。今までも誕生日なんて特別じゃなかったもの。いつものパパで帰宅するわ。」
ミランダからリンクで答えるものの、力がまだ弱く姉妹に届かない様だったので、普通に会話する事になった。
「2人共凄いわ。リンクしてきたのがよく分かる。もちろん言葉までしっかり伝わってきたわ。ママも力を取り戻さなきゃね……さて、次はシンクロ系の鍛練といきましょうか。」
ムーブでお茶を継ぎ足しながら話すミランダ。
「相変わらずママのムーブは器用ね。私のムーブじゃカップを割ってしまいそう。」
「レイラは攻撃タイプだからねー。とは言っても私のムーブ系だってママの様にコントロール出来ないわ。」
「全ての術式はコントロールのバランスが違うの。パワーやブーストの力を感情でコントロールする。バーストやムーブで強い感情を入れてコントロールしたら、それは破壊に繋がる。相手が妖魔ならそれでも良い。でもティーカップが相手では、コントロールの仕方を変えなきゃ壊してしまうのよ。」
「バーストのコントロールは出来るんだけどなぁ。ママみたいなムーブはライラが得意そうだわ。」
「ムーブ系のコントロールは難しい。私はまだまだママみたいに器用には使えない。」
3人が話していると、馬の蹄の音が聞こえてきた。
「パパが戻った様ね。明かりをロウソクだけにしましょう。
」
馬小屋から聞こえてくるガイラの足音が近付いてくる。
ドアの
「ミランダ、戻ったぞ。……んーなんだい?この暗さは。」
「パパおかえりなさい。」姉妹が声を揃えて迎えた。
「あなた、座って。」
明かりを点けるミランダ。
「おや、皆んなでお茶会だったのかな?」
「違うわパパ。ね、ライラー。」
「おっと皆んなすまん、馬小屋に忘れ物をした。今取りに行ってから話そうレイラ。」
言うと馬小屋に忘れ物を取りに戻るガイラ。
「お茶会してると思われちゃったみたいね。2人共パパの意識を掴んだら戻った理由が分かったと思うけどね。」
リビングに戻って来たガイラの手には、短剣が2本。
「レイラ、ライラ。16歳の誕生日おめでとう。パパからのプレゼントだ。これは有名な術具を作る職人の短剣だ。攻撃魔術を助けてくれるだろう。」
2本の短剣はお揃いの物。飾り石の色だけ違う。
「このパワーストーンも魔術をサポートしてくれるものだ。2人の得意魔術に合わせているよ。手にしてごらん。」
「剣でもショートソードなら振り回せる。」
「ちょっとライラ。気を付けてよ。……危ないったらー。」
以前の回想……。
「いらっしゃいませ……!ガイラ様でしたか。お久しゅう。」
古びた佇まいの術具屋にガイラが入っていった。
「久しぶりに寄らせてもらったが、相変わらず暗い店だな。」
「まぁまぁそう言わずに。店の雰囲気ですから。……ところで今日は何故突然ここへ?」
「短剣を2本。同じ物で、飾りストーンだけ別々の物を作ってもらいたい。1本はバースト系をサポートするショートソード、もう1本はサンダー系をサポートするショートソードにして欲しい。飾りストーンもそれに合わせたパワーストーンを頼みたい。」
「2本と言いますと、娘さん達が使う剣ですか?」
「あぁ、そうなるな。仕事の代金は奮発する。だから最高の短剣を頼む。」
「承知しました。でも10日程頂きますよガイラ様。」
「分かった。……前金を置いていくよ。残りの代金は10日後に。……良い仕事を期待しているよ。」
ガイラは娘達の誕生日祝いに、ショートソードをプレゼントする事にしていたのだった。
そして今の時節……。
「レイラにはバースト系をサポートするストーン。ライラにはサンダー系をサポートするストーンが収まっている。この2本の短剣はパパの剣より強くなるかも知れないよ。でもそれはお前達の努力次第。さぁ、腰に下げて抜いてごらん。」
レイラとライラは言われるままに、腰に下げ、剣を抜いた。
レイラの剣は赤く輝き、ライラの剣は黄金に輝いている。
「パパ、凄い!バーストを使わないのに赤く輝いてる。しかもなんて軽々持てるのかしら。」
「私も同じよレイラ。見て!何も力を加えないのに黄金に輝いてるわ。」
「だからここで振り回すなー。」
「良かったわね2人共。素晴らしいプレゼントだわ。さ、剣を収めて食べましょう。」
「その短剣は、お前達の得意魔術を更に強くする剣。振りかざすだけで妖魔が切り刻まれるかも知れないよ。」
「ありがとうパパー。」
姉妹は声を揃えて喜んだ。
「あなた。ケーキやクッキーを召し上がってくださいな。この子達の渾身(こんしん)のケーキとクッキーよ。」
「こ、渾身の……。まさかフォークを刺したら、顔めがけて弾けたりしないだろうね。ははは。……じゃ、頂こうか。」
笑いを誘ったガイラの一言で、皆はケーキやクッキーに舌鼓を打った。
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