第3話 Chapter(章) 1

 「2人共―、いつまで遊んでるのー。レイラー、ライラー。ランチの支度が出来たわよー。」

 姉妹の母親ミランダは、裏庭で遊ぶ姉妹を呼ぶと家に入って行った。

 しばらくして、姉妹は摘み取った花を片手に、手を繋いで家に戻ってきた。

 色違いの服を着て、容姿ようしが瓜二つ。

そう。姉妹は双子である。


 「全く2人共、ママのお手伝いの約束はどうしたの?チキンのアヒージョが冷めてしまいますよ。」


 姉妹は並んで椅子に腰掛けると摘んだ花をテーブルに置いた。

座る姿も仕草もシンメトリーだ。


 「ママごめんなさい。ライラと綺麗な花を見つけて、一緒に摘んでたの。」

「食べ終わったら、小さい花瓶を出してあげるから差しておきなさい。」

「ママー。私もレイラと同じ花瓶がいいー。」

「同じ花瓶はないの。別の花瓶で我慢しなさい。」

妹のライラはいつも姉レイラと同じ物を欲しがる。


 着ている服が色違いで同じ物なのは、父親ガイラにとっては、まだ2人の見分けが付かないらしく、ミランダによく愚痴っていた為だ。


 「パパは今日は帰りが遅いって言ってたから、2人共少しお勉強よ。簡単な魔術は覚えなきゃね。」

「まだ杖が無いと出来ない……。」

「あら。ライラはもう杖無しで魔術が使える様になってるわよ。あなたも頑張りなさいレイラ。」

そう言ってキッチンに引っ込むミランダ。


 出てくる時には紅茶のトレーを片手にテーブルについた。

ミランダは手振りだけで紅茶を淹れている。

姉妹はそれをじっと見ていた。


 「ママは物を動かすムーブ系魔術をたくさん勉強したわ。はい、レイラ、ライラ。お茶を飲みながら勉強しなさい。」

「分かったわママ。これからは杖はもう使わない。だって私、パパみたいになりたいもん。」

 姉のレイラは杖をテーブルに置いた。

「私もパパみたいになれる様に頑張るー。」


 2人共、魔術の絵本を見ながら手を動かしている。

妹のライラは、摘んできた花を一輪ずつ隣に動かす。

2人を交互に見ていたミランダ。


 「ライラ、その調子よ。頑張って。レイラもあと少し、気持ちを込めてみて。」

レイラの摘んだ花の一輪だけ、静かに浮いては落ちた。

「レイラ。心の中で思い描くの。花を浮かべて隣に動かす想像をするのよ。」


 ライラは摘んだ花を、全部隣に動かし終わると、絵本を見始めている。

レイラはやっと一輪を隣に動かせた。


 「やったー。ママ、動かせたー。」

「ちゃんと心の中に描けたからよ。さぁ、続けてレイラ。」

ミランダは優しい眼差しを向けている。


 レイラのムーブ系魔術は、ゆっくりだが上手く花を隣に動かせた。

最後の一輪。目線と同じ高さに浮き上がり、更に高く浮いていく。

レイラの手に少し力が掛かった。


 「フンッ!」

ボッと赤い炎に包まれ最後の一輪が燃え尽きた。

ミランダと、絵本を見ていたライラは、ボッという音に驚き、目を見張った。

「レイラ、すごーい。花、燃えて無くなっちゃった。」

「凄いわレイラ。あなたはバースト系魔術の方が得意なのかも知れないわね。」


 ライラも真似して高い位置まで花を浮かせた。

「えいっ!」

一輪の花は、ピュンと窓際に飛んでいった。


 「あらあら、ライラは炎を出すつもりだったのでは?」

「心の中で赤い炎が描けなくて、飛んでいく想像をしたの。」

「どうやら2人は違う得意魔術が身に付きそうね。」

向かいに座って2人を見ていたミランダは、優しく微笑んだ。


10歳の双子姉妹の魔術覚醒だった。

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