幼なじみだった王太子殿下が婚約をするようで
スカイ
第1話
「ルシアン殿下のご婚約が、決まったそうよ」
ある日の午後、突然王妃様が訪ねてきたかと思うと、挨拶もそこそこにその件を告げてきた。
「...............まぁっ!お相手はどなたですの?」
「どうやら隣の国の第二王女のようね」
隣国の王女様とな!さすが王道!ベタな展開だものー! あ、いや違う、王道展開はわたしがぶち壊しているんだった。
「ということは、先日の舞踏会でルシアン殿下と踊ったあの御令嬢かしら?」
「...............そうみたいねぇ」
王妃様は扇子で口元を隠しながら言うと、おもむろにわたしに視線を向けてきた。
そして意味深な笑みを浮かべると、こんなことを言いだしたのだ。
「ねぇレイラちゃん。あなた第二王女の侍女ならない?」
いや待て。どうしてそうなる?というか、王妃様ったらもう完全に他人事モードに入っていませんこと!?
「ちょ、ちょっと待ってください、王妃様。どうしてわたしが第二王女の侍女に?!」
「だってルシアンには貴女がぴったりだと思うのよ」
「それは............そうですけど...........っなんて、言うことはできません!」
確かに、前世のゲームのローズマリー様は、隣国の第二王女だった。
今、わたしと同じ年くらいの彼女がゲーム通りなら、17歳の時に隣の国の王子と婚約して、この国へ留学するはずだ。
そして、留学先の国で開催される舞踏会で主人公と出会うのだ。
でもって、当然その舞踏会にはわたしも出席している。
「だからルシアンの婚約相手の侍女には、あなたがいいのよ」
「いや、でもわたし王族の側近なんて無理です..............っ!」
この国唯一の公爵令嬢という肩書すらいっぱいいっぱいなのに、これ以上荷が重くなるようなことはしたくない。
ただでさえ、先日の舞踏会でルシアンを突き飛ばしてしまって、国外追放一歩手前になったところなのだ。
もうこれ以上問題を起こさないように、と陛下からも釘を刺されているというのに.............。
「それにほら、わたしじゃとてもじゃないけれどその第二王女様の侍女は務まりません」
「どうして?」
だってゲームの中のレイラは隣国の王子と婚約が決まっている設定で、どのルートでも悪役令嬢としてヒロインの前に立ちふさがる。つまりわたしが隣国へ留学したり、正式に王妃になったら彼女も付いてきてしまうわけで..............。そんなの、めんどうくさい!わたし今世はごくごく普通の一般庶民として、生きていきたいのだもの!
「だって、わたしは殿下に嫌われているんですもの」
そう言った瞬間、王妃様の表情はピシリと固まった。そして彼女はわたしを見ると深いため息を吐いた。
「そんなことは.............」
王妃様はこめかみを押さえながらぶつぶつと愚痴を零し始める。いや、あの、わたし王妃様の娘じゃないですよ?王妃様が育ての親ですけどもね?
「レイラちゃん」
「は、はい」
突然名前を呼ばれてわたしは思わず姿勢を正す。王妃様はにっこりと微笑んでこう言った。
「その噂は嘘よ」
「.............はい?」
わたしの聞き間違いだろうか.............今なんて言った?
「だから、ルシアンがレイラちゃんを嫌っているという噂は嘘よって言ったの」
いやいや...........そんな馬鹿な。確かにゲームでも言っていたわよ?わたしは嫌われているって。前世のわたしがね!
「えっ!?どうしてですか!?」
「............それはまぁ..............色々とね?」
なんですか、その含みを持たせた言い方は!教えてくださいよ!気になるじゃないですか!!王妃様ってば思わせぶりな態度が得意なんですから!
「ルシアンったら小さい時からずっとあなたのことが大好きだったのよ?」
「............はい?」
いやいやいやいや。ちょっと待ってください、王妃様!!!その情報は、初耳ですけれども!?
「なのに、あなたはあの子ことを邪険にするものだから、てっきりレイラちゃんはルシアンのことが嫌いなのかと思っていたのだけど.............」
「それはわたしの台詞ですよ!?」
むしろ嫌われていると思っていたのはわたしですけれども!?え?じゃあなに?わたしは無意識のうちに盛大な勘違いをして、勝手に悪役令嬢への道を突き進んでいたってこと?我ながらなんてアホなの..........。
後日、わたしは第二王女様である、ローズマリー様の侍女として仕えることになったことは、言うまでもない。
「レイラちゃん、私の部屋へ来てちょうだい」
「はい?」
突然、王妃様に呼び出されたかと思ったら、そんなことを言われてしまった。
もうすでに嫌な予感しかしない。だが、ここで拒否することはできない。なぜなら、相手は王妃様だ。身分が違いすぎる。
「.............わかりました」
素直に王妃様の部屋へ向かうと、彼女は既にお茶の準備をして待っていた。
「あの............わたしにお話があるとか...........?」
すると、王妃様はにっこりと微笑むと言ったのだ。
「最近ルシアンの様子がおかしいのよ」
.............それは今、初めて知りました。
「ローズマリーちゃんと、婚約したあたりからかしらね?」
「え?」
ちょっと待って。それは一体どういう意味ですか!?王妃様は何を仰っているんですかね?!もしかして、ルシアンがわたしのことを好きかもしれないとか思っちゃってる?いや、でもそんなこと...........あるはずないですよね!?だって侍女ですもの。
というかわたし的には、このまま嫌われた状態を貫いてくださる方が有り難いのですが! そんなことを考えていたらば、突然王妃様が目の前に顔を突き出してきた。距離感近いわ!
「ねぇレイラちゃん、あなた一体どんな魔法を使ったの?」
「...............はい?」
魔法の類は一切使っていませんし、強いて言うなら前世の知識くらいしか持ってませんけれども?あ、でもそれが原因でルシアンに避けられているんだった! もうわたしどうしたらいいのかしら。
そんなわたしの心の叫びは、誰にも届かないまま、月日はあっという間に過ぎ去った。
気が付けばわルシアンが隣国へ留学する日がすぐそこまで迫ってきていた。
そしてそれは、同時にわたしの侍女としての役目が終わることを意味していた。
「レイラちゃん、顔色が悪いわよ?大丈夫?無理はしないようにね」
「はい............問題ありません、王妃様」
わたしがそう言うと、王妃様は納得していないような顔でわたしを見ていたけれど、それ以上何も言わなかった。
いよいよ出発の日がやってきた。わたしは、ルシアンが留学する船に乗り込む前の見送りにきていた。
(本当にこれで良かったのかな..............)
いや、どう考えても良い方向に進んでいるだろう。だってわたしの目標は、平和にのんびり暮らすことであって、ルシアンと一緒にいることではないのだから!
(でも............)
チラッとルシアンを見る。
彼は、いつもと変わらぬ様子でわたしを見ていた。その表情からは何を考えているのか、全くわからない。というか、そもそも彼はわたしのことなど眼中にないだろう。
(あれ?わたし、もしかしてルシアンが行ってしまうことが寂しいのかな............?)
どうしてそう思うのかわからないけれど、思わずそんなことを考えてしまったことに、驚いてしまった。どうやらわたしは、思っていた以上に彼に恋い焦がれていたらしい。自分の意外な感情に気づいて呆然としていたら、ルシアンが突然話しかけてきたのだ。
「レイラも、見送りに来てくださったんですね」
「あっはい」
「どうかしましたか?」
「いえ、その..............」
わたしは何を言えばいいのか分からなくて、口籠ってしまった。するとルシアンは少し屈むと、わたしの目線に合わせて言った。
「そんなにも私の側にいたかったですか?」
(っ..........!?)
突然のことに驚いて慌てて距離を取ると、彼は面白そうに笑っていた。くそうっからかわれた............っ!でもなんだか悔しいので、わたしは開き直ることにしたのだ。そして、彼に言い返してやったのである。
「そうです。なんだかんだ幼少期からの仲なので、少し寂しくなりますね。」
ルシアンは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにいつもの冷静な表情に戻ってしまった。
「そうですか.............。」
それだけ言うと、彼はゆっくりと船の中へと消えてしまった。
(あれ?)わたしは首を傾げる。おかしいな..........いつもならば、ここで何かしらの嫌味の一つや二つが返ってくるはずなのに。
そもそも、彼にしては珍しく素直に引き下がったような...........?気のせいだろうか?まあいっか!とりあえず無事に船の中に乗り込めたようだし!めでたしめでたし!良かった!
翌日から、また私は王妃様専属の侍女としての仕事が始まった。すると、今度は陛下に呼び出された。
かと思ったら、突然こんなことを言われた。
「レイラ、ルシアンのことなのだが...........その、何か知っているだろうか?」
「はい?」
(一体なんのことでしょう?)
首を傾げるわたしを見て、陛下は困ったように眉を下げた。
どうやら、本当に困っているようである。一体何があったというのだろうか?
「いや..............なんでもないんだ」
(いやいやいや!ここまで話をしておいてそれはないでしょう!?)と心の中で突っ込んでいたらば、陛下にじっと見つめられてしまったので、渋々言葉を発する事にした。
(ああ、この親子はそっくりなんだからっ!)「いえ、全くわからないのですが、何かございましたか?」
そう答えると、陛下はあからさまにホッとしたような表情を浮かべた。不思議な方ねと思ったけれど、口にはしなかった。
「そうか.............実はルシアンからレイラに婚約を申し込むつもりだと聞かされていたんだが............」
(え...........?なにそれ、初耳)
いや、でもちょっと待ってほしい。
それは一体いつの話なのだ?少なくとも、わたしがローズマリー様の侍女になる前の話ですよね?それだと、さすがに今のわたしにその話をするのは遅すぎないだろうか.............。
というわたしの考えを無視するように、陛下の話は続いていく。
「それで、レイラにも婚約について確認したかったのだが」
「はい?」(この親子は揃いも揃って同じことを考えていらっしゃるのね)と思ったけれど、またもや口にはしなかった。
これ以上突っ込んだら、陛下が可哀想に思えてきたから、やめなきゃと思った。
(でもなんだろう.............やっぱりこのお二人はつっづく似てるな)と思いながら、陛下の話を黙って聞いていたわたしは、知らなかったのである。
この数日後に、王妃様がルシアンの部屋を訪れたことも、王妃様が暴走した挙句に部屋の扉を、思いっきりドロップキックしたことも............。
そんなこともつゆ知らず、今の私はきっぱりと答えた。
「私は平和に過ごせたらそれで満足です。」
すると陛下は少し考えるような素振りをした後、にこりと笑った。
「レイラ」
「はい」
嫌な予感しかしないのですが。
「無理にとは言わないが、もし君に前向きな気持ちがあったら、ルシアンと結婚しなさい。君なら素晴らしい妻になれる。」
「................お断りします!」
(なんでそんな話になるんですか!?)と思いながら断ると、残念そうな顔をした陛下がいらっしゃたっ。
「君なら、ルシアンの支えになると思っていたのだが..............。実を言うと、今回は自由恋愛のものじゃなくて、お相手方のご両親がかなり無理を言った婚約でね。」
「そうだったのですか..........」
なるほど。つまり陛下がおっしゃるところの『政略結婚』というものですか。でもそれなら、なおさらわたしでは力不足なのでは?と思ったので、そうお伝えしたところ...........。
「そんなことはないよ。君は、ルシアンにとって貴重な存在だと思うし、それにほら..............幼い頃から知っている相手だから、気も楽だろうし」
(いやいや!わたしにとっては全然気楽ではないのですが!?)
むしろ、相手がルシアンなら話は別でしょうよ!だって、将来有望株な国の跡取りですよ?それに、容姿端麗。しかも性格もいいときてる。
そんな御曹司に嫁げるだなんて、わたしにとっては天国か地獄かのどちらかしかないじゃない!!
「とにかく!私はルシアンと結婚できませんからっ!」
わたしが強く言うと陛下は渋々といった様子で頷いてくれた。良かった.............これで、一件落着だとホッと胸をなで下ろした次の瞬間、再び陛下が口を開いた。
「ではこうしよう」
「...............はい」
嫌な予感しかしなかった。
「君にはルシアンの婚約者候補としてしばらく過ごしてもらうことにしよう」
「.............はい?」
(いやいや、陛下は何をおっしゃっているのでしょうか?)
いや、別に結婚自体は別にいいんですよ?
わたしも、もう成人してますからね。
でもさ...............なんでこうなったの!?わたしはただ平穏に過ごしたいだけなのに、どうしてこうなるのでしょう?
誰か助けて!!!切実に、そう思った瞬間である。
「レイラちゃん!」
バンッと勢いよく扉を開けて入ってきたのは、王妃様だった。
王妃様はわたしの前までやってくると、目を輝かせてこう言ったのだ。
「レイラちゃん!あなたのおかげで、ルシアンが留学から帰ってきたらすぐに式を挙げることになったわ!」
(.............はいぃぃぃ!?)
いやいやいや、ちょっと待って?なんでそんなことになっているの!?
わたしはただ平和に...............それなのになんでこんな展開になるわけ?!誰か助けてよぉぉおおお!!
.............こうしてわたしは、王妃様によって強制的に『隣国の王子との婚約』を結ばされる羽目になってしまったのである。
そして、隣国からルシアンが帰ってきたその日。わたしは王妃様のご命令により、彼の部屋を訪ねることになってしまった。
(なんでこんなことになってるの............?未だに信じられないわ.............。)
そう思いながらも、恐る恐る扉をノックすると、中から返事があったので、ドアノブを捻って中に入った。
すると、そこにはいつもの笑顔とは違う笑みを浮かべた、ルシアンの姿があったのである。
(ひえっなんか怖いのですが..............!)
そんなわたしの思いとは裏腹に、彼は微笑んでいた。思わず、後ずさりしそうになってしまうほど、その笑顔は怖かったのである。
「お待ちしていましたよ、レイラ」
(お待ちしないで!むしろこちらは帰りたいわ.............)と言いたくなる気持ちを、グッと堪えつつ、なんとか笑みを浮かべることに成功した。偉いぞわたし!
自分で自分を、褒めてあげたいくらいだ。だが、ルシアンの笑みはますます深まるばかりで、怖いことこの上ないのだが..............わたしは気づかないフリをした。
「それで、一体どういったご用件でしょうか?」
わたしが尋ねると彼は笑みを崩さずに答えた。
「おや?お母様から聞いていませんか?」
「いいえ、なんのことだか」
わたしが首を横に振って否定すると、彼はにっこりと笑った。ただし目は笑っていない。
これはあれだ。嫌な予感しかしないぞ.............と思っていると、案の定彼はとんでもないことを口にしたのである。
「それでは、改めてお伝えいたしますね。私と婚約していただきたいのです」
(ですよねー!)と思いつつも、表情だけは取り繕ってみせたわたし。
すると、ルシアンは少し考え込んだ後、再び口を開いたのだった。
「あなたなら、私の婚約者として相応しいでしょうし、きっと私のことをよく理解してくれるはずです」
(いや、わたしは理解は..............)
そう思った瞬間である。ルシアンが、わたしの手をそっと握ったのだ!
(ぎゃぁぁあああああ!)
心の中では絶叫しつつも、表情だけは平静を保つことに成功した。
私今さっきからすごすぎるわと心の中で自画自賛していると、突然彼は言ったのである。
「私と、結婚してくださいませんか?」
ルシアンの言葉を聞いた瞬間、私は頭が真っ白になった。まさか、こんな展開になるとは思ってもみなかったからである。
私が呆然としていると、彼は首を傾げながら尋ねてきた。
「どうかされましたか?」
「いえ..............」
(突然すぎるわ!?)と思いながらも、私はなんとか返事をすることに成功したのである。(誰か助けてください...............)心の中で泣きながら祈っていると、ふと疑問に思った。
しかし、なぜ彼は私と婚約を果たそうとしているのだろう?今まではそんな風に接してきたことなんてなかったのに。
不思議に思った私は、彼に思い切って尋ねてみることにした。
「どうして、今になって私を婚約者にしたいと思ったんですか?」
すると、ルシアンは少し考えた後で答えた。
「それはあなたのことが好きだからですよ」
(好き!?)思わずドキッとしたけれど、すぐに冷静になることにした。
(いや、違う!絶対違う!!)そう思うものの、彼の眼差しには真剣さが滲み出ていて、それが本気で何も言えなくなってしまったのである。どうしよう..............と思っていると、ふふっとルシアンが笑った。
「まあ、お返事はいつでもお聞かせください。」
「え?」
「ではまた後日」
それだけ言うと、彼は部屋から出て行ってしまった。残された私は呆然としていたけれど、次第に正気を取り戻していった。
(いや、とりあえず帰ってくれて良かった..............)ほっとしたのも束の間で今度は王妃様が部屋を訪ねてきてしまったのである。
(なんでぇえぇえ!)と叫びたくなったが我慢した。
王妃様はニコニコしながら尋ねてきた。「ルシアンとはお話できたかしら?」
「................」
(むしろ、婚約者にされそうになりましたよ)
と言えたらばよかったが、さすがにそんなことは口にはできなかった。だって、そんなことを言ったら王妃様に何をされるか分からないし。
「え、ええ...............」とだけ答えると、王妃様は満足げに頷いた。
「良かったわ!」
(良くないわ!!)と思いながらも、口では別のことを言うことにしたのである。(とりあえず話を逸らそう!)そう決めた私は必死に話題を探した結果、一番気になっていたことを尋ねることにした。
「あの..............もし、私が婚約者になったら、お妃教育とかはどうするおつもりですか?」
すると、彼女は満面の笑みを浮かべながら答えたのである。
「そんなの必要ないわ!レイラちゃんはそのままで十分魅力的だもの!」
「...................」
(いや、いやいやいや!そんなわけあるかいっ!!)と思ったが、口にはしなかった。その代わりに、わたしは王妃様にこう言ったのである。
「とりあえず、保留という形にさせていただけませんか?」と尋ねると王妃様は一瞬驚いたような顔をしたものの、すぐに笑顔に戻った。そしてこくりと首を縦に振ると、こう言ってくれたのだった。
「分かったわ」
(やったー!)と心の中でガッツポーズをしながら、私は安堵の息をついたのであった。
その後、王妃様は上機嫌で帰って行ったのだが、私はまだ知らなかった。
王妃様による『レイラちゃんを立派なご令嬢にしてみせる大作戦』が密かに立てられていたことを................。
(どうしてなの!?今までの距離感何だったの!?)
わたしは、心の中で叫んでいた。というのも、最近ルシアンがよく部屋に訪れるようになったからである。しかも、毎回花束を抱えてやってくるのだ!あまりにも唐突すぎて、どうしたらいいのか分からなくなっていると、それを察したのであろう彼は、くすりと笑った後で言ったのである。
「あなたに似合うと思ったので」
(どう考えても違うよね!?)
心の中でそう思いながらも、口には出さなかった。王妃様の『レイラちゃんを立派なご令嬢にしてみせる大作戦』が本格的に動き出したのは、その日からだった。
毎日のように、花束やプレゼントが届くようになったのである。しかも、それはどれも高そうなものばかりで、王妃様はうっとりとした様子で眺めている始末である。
(これって完全に無駄遣いですよね..............)
と思っていると、それを察した王妃様は笑顔で言ったのである。
「いいのよ〜!レイラちゃんを立派なご令嬢にするための必要経費だから!」
(いや、その必要はないと思うのですが.............)
そう思っていると王妃様は更に続けた。「それに私ね、本当に嬉しいのよ」
「え?」
「ルシアンが、レイラちゃんの話をする時は、すごく楽しそうなんですもの!きっとあの子にとって、レイラちゃんは特別な存在なんだと思うわ」
(興味本位なだけなような.............)と思ったが、口をつぐんだ。
たまってそんなことを言ったら、また王妃様が暴走しそうだと思ったからである。
(でも、このままだとまずいよね..............)この状況は、王妃様が満足すれば終わるのかと思っていたが、どうやら違うみたいだ。毎日送られてくるプレゼントはどれも高価で、到底わたしには手が出せないようなものばかりなのである。
「あ、あの」
「どうしたの?」
「わたし全然似合ってない気がするのですが...............」そうなのだ。今、わたしが身に着けているドレスやアクセサリーは全てルシアンからの贈り物である。最初は嬉しかったのだが、さすがに量が多すぎると困るというかなんというか.............とにかく困ってしまったのだ。
(でもこれを拒否すれば王妃様のやる気に火がついてしまうかもしれないし)
そう考えた結果、わたしは仕方なく受け取ることにしたのである。しかし、それでも王妃様は納得しなかったらしい。今度は、もっと高価なものを贈ると言い始めたのだ。さすがにそれは困ると思ったので、なんとか思いとどまってもらったけれど.............その代わりに、王妃様からプレゼントをされるようになってしまったのである!
(どうしてそうなるの!?ビックリなんだけど!?)そして、今もまたドレスを贈られている最中だったりするのだが..............。
その金額があまりにも多すぎるものだから、怖くなってつい拒否してしまったのである。
すると、王妃様は不服そうに頬を膨らませた。
(そんな顔されても、無理なものは無理だって!)
心の中でそう叫ぶと、わたしは逃げるようにその場から離れたのであった。
それからというもの、王妃様からのプレゼント攻撃はしばらくの間続いたのだが、それを止めてくれた人物がいたのである。
なんとルシアンの妹である、ガーベラだったのだ!彼女はわたしの部屋へ訪ねてくると、開口一番に言ったのだ。「母上から話は聞きました」と。
(あちゃーやっぱりガーベラちゃんにもばれたか..............でも、どうやって王妃様を言いくるめたんだろう?)と不思議に思っていると、彼女は微笑みながら続けた。
「私はただレイラ様をお守りしただけですわ」
(えぇー!王妃様に言い返せるとか、すごい.............それに、めちゃくちゃ心優しい子じゃない)
と思っていると、彼女は言った。
「あの程度のことは私にとっては些細なことです」
(いやいやいや!大したことあるから!だって王妃様だよ?一国の女王様だよ!?それを言いくるめるなんて普通はできないって..............!)
そう思っていたのが顔に出ていたのか、彼女は更に続けたのである。
「レイラ様は、お気になさらないでください。どうか肩の力を抜いて、レイラ様のお好きなようにしてくださいね」
その言葉に胸が熱くなった私は思わず泣きそうになってしまったが、ぐっと堪えた。
(本当に優しいわ.............。私、ガーベラちゃんについていきたいくらい!)心の中でそう呟きながら、私は改めて彼女に感謝の気持ちを伝えた。
すると、彼女はにっこりと笑ってくれたのである。その笑顔があまりにも美しくて見惚れていると、突然部屋の扉が開かれた。
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