第16話 無法地帯:関東甲信越Ⅴ

 シベリアらの方はもうすぐ全員が動けるくらいまでの応急処置を終えたところだ。


「応急処置を終えましたので皆さん早く地上へ向かいましょう。」


 脱出するその時だった。

 建物が大きく揺れ、足を止めた。

 出口に繋がる通路の離れたところの天井から何かが落ちてきた。

 身体はゾンビのように爛れ、頭は継ぎはぎで顔半分に目と鼻が寄っている下半身が蛸の人型怪物:キメラだった。

 そこから見た目からは想像できない速さでこちらに向かってきて部屋に入った途端逃げれる通路を触手で塞がれた。


「ったく、こんな時に!

 外部攻撃防御盾柵電磁パルスシールド展開。私は後方からこの人たちを守りながらサポートする。海斗とシベリアで奴の相手をお願い。」



 キメラは手前に居るシベリアに注意を払い、触手を鞭のように振り回してきた。

 シベリアはそれらすべてを綺麗にかわして光の魔法で胴体に傷をつけた。


 海斗も続いて空中魚雷を発射させ、キメラから水分を奪おうとしていた。

 しかし、傷はすぐに癒えて触手の水分量も減るようには見えない


 アイラも粉塵が内蔵された中型ミサイルバズーカーで援護を行っていた。


 一本の触手が避難者らに向けられる。

 それは外部攻撃防御盾電磁パルスシールドを少しずつ破いていたが

 咄嗟にアイラが護身用の長短剣で切断したので助かった。


「これって、合成樹脂?」


「なるほど。材質自体がゴムだから絶縁して攻撃が効かないのか。」


 ならば高速で物理攻撃を仕掛けるまでと思ったシベリアは避けることを知らず、

 敵の触手や目からのレーザーを剣で払って飛んだ汗の一滴をも半分にするほどの集中力と技量でキメラの周りを飛び回って何度も切裂いた。


 しかし、一瞬の油断によって足を触手に掴まれ全身に巻き付いて身動きが取れなくなっていた。鏑木が前に言っていた冷静さを見失うなという言葉が身に染みた。

 吐息が光化学スモッグで息もしづらい。


 その様子を見て避難者のごく一部の変態が盛り上がっていた。

 更に弱酸性が纏わりついていたらいいなどとこんな状況下で頭にお花が咲いていることを言い放っていた。


「それじゃ、あんた達があの子の代わりに戦ってみれば?」


「も、申し訳ありません。」


 アイラは怒らせるとおっかないことがわかる。それをよく理解しているのはこの場にいない壱星なのだが…


「アイラさん、あれ使っていい?」


「この際だし、効果あるのだから許可するわ。」


 海斗は背中のバックパックから熱を帯びて真っ赤に染まった巨大な大剣:対大型生物及び建造物溶接加工用分断機オーバーヒートを取り出して地面をスライド移動する。

 これは主に鉄、コンクリ、オリハルコン、異変鉱石、凝結氷山などの密度と硬度の高いものを切るもので合成樹脂程度に使うものでもない。

 むしろ蒸発してしまう。加えて二酸化炭素を多く発生させたり熱効率が悪いなどもあって大抵は使わないものだ。


 近づく触手は触れる前に溶けてレーザーも無意味。

 キメラは宇宙人が持たせたと思われる空気中の酸素と水素、そして魔法で生み出された水を機械に集中させて超圧でコンクリをえぐる程の水を左手から放水してきた。


「させるか!」


「はあああぁぁっ!!」


 海斗はスーツの力と自身の筋力で踏ん張り、アイラがキメラの左手を攻撃して弱まったおかげで水を裂くことができた。

 そしてその勢いのまま前に大きく踏み込んで胴体を上下に切断した。


「今だ。シベリアさん!!」


 シベリアは緩んだ触手を切り裂き高く飛び、天井を強く蹴った。


「閃光剣。」


 キメラを真っ二つに斬り倒した。


 シベリア達は壱星らを心配しながらも戻ってくることを信じて避難者と共に脱出した。

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