魔導騎士ジョシュ−3
井戸を確認すると、しっかりと蓋がされている。
二人で協力して石の蓋を少しずらしてみる事にした。
蓋をずらして出来た隙間から井戸の中を確認すると、底には水面が見える。
水面だけでは水質が分からない。
ジョシュが魔法を使うと杖を構えた。
ジョシュが使った魔法は井戸の中から水を持ち上げた。持ち上げられた水は綺麗な状態で、井戸を使用するのに問題のない水質に見る。
飲む場合は検査をしないと流石に飲む気にはならないが、酷く汚れている訳ではないので、飲めなかったとしても飲料水以外の利用ができそうだ。
中庭には厨房から出てきた扉とは別にもう二つの扉がある。
ジョシュも扉については分からないようなので、開けてみる事にした。
扉を開けると、一つは食堂に繋がっていた。
もう一つの部屋は脱衣所と浴槽になっており、風呂付きの宿だったようだ。
風呂の存在にアレックスは驚き、同じようにジョシュも驚いて声を上げた。
立派な作りだとは思っていたが、風呂までついていると言うことは、元は高めの宿だったようだ。
「王都は上下水道が通っているのに井戸があるのは不思議だったが、浴槽のためだったか」
「上下水道があるんですか?」
「そうだ。王都の上下水道は錬金術師によって整備されている」
ジョシュが王都の水道について詳しく教えてくれる。
水道を個人宅に引き込むには、許可を取って錬金術で作業する必要があるのだという。
普通の一般家庭は共同で使用する水道や噴水が用意されており、そこから水を自宅まで持って帰るようだ。
宿屋は水道を引くよりは井戸を掘ったほうが安上がりだとでも思ったのだろうか?
真相は分からないが、井戸があるのは錬金術をする時に便利だ。
風呂を沸かす方法が不思議だったので調べると、浴槽になっている壁の反対側が厨房になっていて、厨房側に火を焚べる場所があった。
一階部分は厨房に裏口が用意されているくらいで、他に部屋はないようだ。
アレックスとジョシュは二階に上がると、二階は宿泊するための部屋になっていたようで、扉がいくつもある。
扉を開けて部屋の中を確認していく。
部屋は広めで、ガラスが嵌め込まれた窓まである。
二階は同じような部屋が続いており、窓のない雑魚寝部屋のような部屋は無さそうだ。
「泊まるのが高そうな宿ですね」
「再開発しようとするような地区なので、立地はかなり良いからな。元々は高級宿だったのだろう」
建物は三階まであるようで、二人で三階に上がってみる事にした。
三階は従業員用の部屋なのか二階の部屋と打って変わって、汚い訳ではないが小さな部屋が続いている。
従業員用の部屋は途中で終わっており、壁に扉がついてる。
扉を開けると、大きな穴が空いた大きな空間になっていた。
大きな穴は今は板を打ち付けられて閉じられているが、大鳥が泊まるための部屋のように見える。
二人で部屋を確認して回ると、餌箱から餌を置くようの小部屋まで用意されており、寝床や餌の準備をして、穴を閉じている板を外せばすぐに使えそうだった。
大鳥用の部屋には梯子が設置されている。
梯子の先を確認のする為に上がっていくと、扉が設置されている。
アレックスが扉を開けると屋根の上だった。
屋根の上は一部が平らになっていて歩けそうだ。少し外に出てみる。
「チュチュン」
「ホー」
鳴き声がした方向を確認すると、ピュセーマとソフォスが止まり木からアレックスに向かって鳴いていた。
屋根は平面の部分が人が通れる幅はあるが、斜めになっている部分の方が多い。三階より上に位置している為、屋根の上は少し危ないと感じる。
屋上に出る場所を用意しているのは大鳥を誘導したり、止まり木の修理のためかもしれない。
ピュセーマとソフォスに声をかけてから梯子を降りて三階へと戻る。
待っていたジョシュに梯子の上について説明をすると、ジョシュも梯子を登って屋根の上を確認しに行った。
ジョシュは屋根の上から戻ってくると、秘密基地のようで童心に戻って楽しかったと言う。
確かに普段立ち入ることができない場所で中々楽しかった。
全ての部屋を回り終わったことで、椅子もない建物で話をするのはどうかとジョシュが言う。
アレックスもジョシュを立たせたまま話をするのはどうかと思ったので、一度魔法省に戻る事にする。
建物を出るとジョシュが建物を施錠した。
ピュセーマを呼ぶと、ジョシュもソフォスを呼ぶ。戻る事を伝えてからピュセーマに乗ると、魔法省に帰るべく空に飛び上がる。
魔法省に着くと二羽は魔法省の屋上に向けて飛んでいった。
ジョシュの執務室に戻ってくるとソファーに座る。
「それで建物はどうだった?」
「かなり良さそうな建物でした」
「それならあの物件にするかい?」
ジョシュの提案に頷こうとして止まる。
拠点を欲しがっていたのは、錬金術師の国家資格を取った後に活動拠点が欲しかったからであって、今はまだ国家資格を取得していない。
それにアレックスがジョシュに会いに来たのは、貴族だと知ったからだった。簡単に連絡が取れないかもしれないと、面会の予約をしてから面会までの間に国家資格を取ろうと思っていた。
こんなに早く会えると思っていなかったので、国家資格を取ってからジョシュに会いに来た方がよかったかもしれない。
失敗した。
ひとまず錬金術師の国家資格を取ってから、物件を貰うか決める事にしようと、アレックスは考えてジョシュに考えを伝えた。
「アレックスはまだ試験を受けていないのか」
「そうなんです。なので資格を取ってから物件については決めようと思います」
「マーティーに聞いているアレックスの実力なら資格は問題なく突破できるから、先に物件の引き渡し作業を進めておくと良いよ」
問題なく突破できると言うのが不思議で、アレックスはジョシュに錬金術師の国家試験はどのような試験なのか尋ねてみた。
ジョシュは魔導士なのに錬金術師の国家試験について詳しく知っているようで、試験内容について教えてくれた。
筆記は錬金術師なら知っていて当然の事と、実技に関しては十種類の課題が無作為に選ばれるようだ。
実技の課題で出る物を驚いた事にジョシュが全て覚えており、十種類の課題を教えて貰ったがどれも簡単な物だった。
聞いた限りは酷い失敗をしない限りは問題なく国家資格を突破できそうだ。
ジョシュが物件の引き渡しは多少時間がかかるので、先に手続きだけしておくと言いながら紙を出してきた。
確かに試験を落ちる心配がほとんどなさそうだ。
アレックスはジョシュに従って書類に署名していく。
「必要な書類は以上だ。ところでアレックスは魔導士の資格を取る気はないか?」
「私は魔法がそこまで得意ではないですよ?」
「マーティーと一緒に治癒魔法を教わっているのだろ?」
「はい。一緒の治癒魔法士に治療魔法を教わりました」
「錬金術師もそうだが、野良の治癒魔法士は見逃されることが少ない。治癒魔法士の免許だけでも良いが、マーティーから聞いているアレックスの実力なら魔導士の資格を取っておくといい」
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