魔導騎士ジョシュ−4

 アレックスは大雀のアネモスを治癒魔法で治した事を思い出す。

 確かに資格を取っておかないと今後問題になってしまうかもしれない。

 それでも治療魔法士の上位互換の魔導士の資格を取るほどではない気もする。

 ジョシュが魔導士の資格を取るようにともう一度勧めて来た。

 どうするか迷う。


 ジョシュが治癒魔法はどの程度使えるのかと聞いて来た。

 アレックスは治癒魔法の魔法陣は三重まで出すことはできるが、実際に使う場合は安定性を重視して二重までにしているとジョシュに伝えた。

 三重といった瞬間にジョシュの顔から笑顔が一瞬消えた気がするのだが、一瞬の事だったのでアレックスは気のせいだったかもしれない。


 ジョシュが更に魔導士になる為の試験を受けないかと誘ってきた。

 ジョシュは例年試験で出るような問題まで説明してくれた。

 説明を聞いた限りは合格できると感じさせられる物だった。


「魔導士の資格を取ったら何か義務があるんですか?」

「いや、魔導士は魔法省に就職しなければ自由だな。魔導士という名前が国家資格なだけで、治癒魔法以外は魔術師や魔法使いだと名乗れば自由に活動できる」

「それなら治癒魔法士だけでも良いのでは?」

「治療魔法士の資格だけでも良いが、魔導士の資格には多くの優遇措置がある。立ち入り禁止の場所の出入り、国の施設の貸し出し、城の図書館が使えたりとかな。アレックスなら持っていると便利だぞ」


 立ち入り禁止の場所はそこまで気にならないが、施設の貸し出しと、城の図書館は気になる。

 魔導士の国家資格を取る気になってくる。


 ジョシュが王都上空での魔法の制限も緩くなると言い始めた。

 制限とは何だろうか?

 知らない事だったので、ジョシュに王都上空での魔法の制限とは何かと聞き返す。

 ジョシュが驚いた様子で王都に入る時に聞いていないかと逆に聞き返して来た。

 アレックスは王都に来た時に衛兵から聞いた話を思い出すが、衛兵は魔法の制限など話していなかった気がする。


 衛兵から聞いた話をすると、ジョシュが慌てて飛行時の制限について説明してくれた。

 王都上空は防衛上の問題もあって、殆どの魔法の使用が禁止されており、一定上の魔法を使用した場合には騎士が飛んで来てその場で捕まってしまうそうだ。

 魔法の使用は本人だけではなく大鳥も含まれており、最悪大鳥は殺処分になってしまうのだとジョシュが言う。

 魔導士の資格は本人だけでなく、魔導士が乗っている大鳥にも適応されるのだと、ジョシュが教えてくれた。


 ジョシュの説明を受けて、アレックスはピュセーマの為にも魔導士の資格は必要だと考え直した。


「魔導士の資格を取るよ。ピュセーマが魔法を使ってしまうかもしれない」

「やはりピュセーマは飛行の補助以外でも魔法を使えるのか。それならば、魔導士の資格を取った方が良いだろう」

「錬金術師の資格を取りに来たといったから、魔法をそこまで使えないと思われたのかも」

「その可能性は高いな」


 アレックスとピュセーマが、王都上空で魔法を使っていなかったのは運が良かった。

 知らずに魔法を使ってしまったら大変な事になっていた。

 田舎であれば許される問題でも、王都では命取りになるのだと認識して、今後は注意して行動するように心がけよう。


 ジョシュが試験の予定日を聞いて来てくれ、試験は五日後だと言う。

 勉強する暇がほとんど無さそうなので迷っていると、ジョシュが試験について色々と教えてくれた。

 試験は落ちても何度でも受け直すことが可能で、五日後の試験を受けて落ちても一ヶ月に一度試験をやっているので、来月にもう一度受ければ良いようだ。

 ジョシュは更に錬金術師も同じように月に一回の試験で、魔導士の試験とは被らないようになっている筈だと教えてくれた。


 魔導士と錬金術師の資格を両方取る人が多いのかとジョシュに質問すると、同じ試験場を使っているので、試験場の問題だと言う。

 試験場の問題という事に納得した。

 しかしアレックスが両方の資格を取れるなら、兄弟子のマーティーは当然両方の資格を取れそうだが、取ったのかとジョシュに尋ねてみると、当然取っていると言われた。


「両方取るのはかなり珍しい。普通はどちらかだけだ」

「聞いた限りは誰でも取れそうですけど?」

「二人にとってはそうだろな」


 ジョシュに何故か苦笑されてしまった。

 苦笑の理由を考えてみる。故郷の皆でも錬金術は覚えていないので、取るなら魔導士の資格だけになるから、両方の資格を取るのは珍しいのかもしれないと認識を改めた。


 ジョシュが五日後の試験に登録しておくと言うので、アレックスはジョシュにお願いする。

 試験を受ける費用を尋ねると、ジョシュも覚えていないようで首を捻ってから、どうせ大した額ではないと言う。

 アレックスはお金を受け取って貰えなさそうなので、魔法鞄から錬金術で作った腕輪のアクセサリーを取り出し、今日のお礼だと言ってジョシュに渡す事にした。


 ジョシュに腕輪を渡すと、すぐに腕に着けてくれた。

 渡した物は中々の出来で、魔法を使うときに制御や、威力を上げられる能力に特化して付加してある物だ。

 付加された能力について説明すると、ジョシュは想像以上に喜んでくれた。


「これは使いやすそうな魔道具だ」

「ジョシュのような魔導士に向けて作った物だよ」

「本来ならお金を払うところだが、せっかくなので有り難く貰っておこう」


 随分と腕輪を気に入ってくれたようだ。

 ジョシュにはお金ではなく物を渡せばいいと理解した。

 上機嫌な様子のジョシュは試験の登録をしてくると、部屋を出ていった。


 待っていると、ジョシュが紙とよくわからない物を持って部屋に帰ってきた。

 ジョシュは紙に書かれている番号が受験番号で、よく分からない物は魔道具で魔力を登録しておくのだと言う。

 アレックスが魔道具に魔力を登録すると、登録完了らしくジョシュが魔道具を回収した。

 試験会場や集合時間については、受験番号が書かれている紙に当日に必要な情報が書かれていると教えてくれた。


 アレックスは王都の地理がよく分からないので、紙に書かれている試験会場の位置がよく分からず。ジョシュに位置を尋ねる。

 魔法省と産業省の近くにあるとジョシュが教えてくれた。

 アレックスには産業省の位置も分からないのでジョシュに尋ねると、一緒に試験会場を通って産業省に行こうと言われる。


「何で産業省に?」

「錬金術師の試験は産業省の管轄だからだ」

「知らなかったよ」

「私もマーティーと友人でなければ、錬金術師が産業省なのを知らなかったかもしれない。産業省は物作り全般を取り扱っているので、錬金術師には便利な場所のようだ」


 再び部屋を出て、魔法省の玄関から外に出る。

 ジョシュは魔法省を出る途中で、魔力を登録した魔道具を人に渡していた。

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