魔導騎士ジョシュ−1

 王都での初めての朝を迎えたアレックスは、起きると出かける準備を始める。

 事情があって髪を伸ばしているので、準備に少し時間がかかる。

 顔を洗って高めの服に着替え、光によって色が若干変わる黒髪の毛を櫛で整え、長い髪の毛を魔道具の髪留めで留める。


 更に魔道具になっているアクセサリーをいくつか装備する。

 今日は兄弟子の知り合いだと言う貴族に会いにいく必要がある。

 相手は貴族なので数日待たされる可能性もあるし、会えたとしても安い服では問題になるかもしれないと、手持ちの中でも高めの服を着ておいた。


 部屋を後にして、朝食をゆっくりと食べる。

 朝食を食べ終わると、丁度いい時間になったので宿を出る事にした。

 宿を出る前に受付で出かけてくる事と、今日の分の宿代を先に払っておいた。

 宿の外に出てピュセーマと名前を呼ぶとすぐに飛んできた。撫でながら朝の挨拶をする。


「ピュセーマ、寝床はどうだった?」

「チュン……チュチュン」


 ピュセーマの反応は今一だ。兄弟子の大雀とは随分と性格が違う為、宿の好みも違ったようだ。

 今日の分の宿代を払ってしまった事を後悔した。

 早めに拠点を探し出すか、もう少し高めの宿に変える必要があるかもしれない。

 幸いながら昨日売れたワイバーンの皮が高かったので、多少贅沢しても問題はないだろう。


 ピュセーマが気に入る寝床を用意するために、早めに拠点を決めた方が良さそうだ。

 拠点を決めるためにも、兄弟子の知り合いに会いにいく事にする。

 鞍を取り付けながら、行政機関が集まっている王城近くに向かうとピュセーマに伝えると、元気よく返事をしてくれた。

 アレックスがピュセーマに乗ると、すぐに空へと飛び立った。


 王城近くは空を飛ぶ者たち用に、錬金術で作られた浮遊石に案内が用意されているようだ。

 案内読んで目的地が魔法省だと分かったので、案内に沿って魔導士が集まる行政機関の魔法省へと向かう。

 ピュセーマに向かう位置を伝えると、案内に沿って飛んでくれた。


 王城近くには大量の浮遊石が浮いており、浮遊石を作る素材は高いのに流石王都だと感心する。

 魔法省は大きな建物で、鳥が止まる為の止まり木も大量に用意されているようだ。

 鞍に括り付けていた魔法鞄を外して、ピュセーマに止まり木で待っているようにお願いする。


 止まり木に止まったところを確認して、魔法省の建物に入る。

 魔法省の中は高級感のある石の上に一部絨毯が引かれ、絨毯の先には木でできた受付が用意されている。

 重厚感のある建物を見回しながら受付へと進む。

 複数ある受付の中で、人が並んでいない受付へと向かう。


「この受付は誰でも使用できますか?」

「勿論です。本日はどのような用事でしょうか?」

「兄弟子から紹介状を貰ってきたのですが、相手が魔導士だと聞いているのです。紹介状を渡して、返事を貰うことは可能でしょうか?」

「しっかりとした紹介状であれば可能です。拝見させて頂いでても?」


 兄弟子から貰った紹介状を魔法鞄から取り出して受付に渡した。

 受付を担当していた人は紹介状を確認すると、目を見開いて驚いている。

 昨日防具屋のハンクに聞いた通り、やはり兄弟子の知り合いは有名人なので驚かれたようだ。

 紹介状が問題無いものなのか心配になるが、受付の判断に任せる事にした。


 受付の人は渡した紹介状を何度も入念に確認した後に、少々お待ちくださいと言うと、奥へと下がっていった。

 待っていると、受付の人は戻ってきた。紹介状をジョシュア・ド・ローウィ卿にお渡ししたので、返事を待っていて欲しいと言われる。

 正直アレックスとしては、兄弟子の紹介状が本物であった事が驚きだ。紹介状が偽物だとは思っていなかったが、有効な物かどうかは怪しいと思っていた。


 紹介状の返事を待っていると、周囲が騒ついて来た事に気づいた。

 何が起きたのだろうと周囲を見回すと、一人の魔導士が理由のようだ。

 魔導士は装飾されたローブを着て、少し明るめの茶髪で、身長と同じくらいの杖を持っている。


 有名な魔導士なのだろうかと見ていると、魔導士は何故かアレックスの方に歩いてくる。

 もしかしてあれが兄弟子の知り合いだという魔導騎士なのかと思っていると、魔導士が目の前で立ち止まって、声をかけてきた。


「君がアレックスかい?」

「はい。もしかして、ジョシュア・ド・ローウィ様ですか?」

「ああ。ジョシュア・ド・ローウィだ。マーティーの弟弟子ならジョシュで構わない」


 ジョシュア卿は本当に兄弟子の知り合いだったようで、兄弟子の名前であるマーティーを親しそうに言う。

 同様にアレックスにも親しそうに話しかけて来た。

 アレックスは兄弟子を疑って悪かったと心の中で思いながら、ジョシュア卿をジョシュと呼ぶのは恐れ多いと伝えるが、ジョシュア卿が気にするなと言う。

 何とかジョシュと呼ぶのを断ろうとするが、複数回ジョシュと呼んで欲しいと請われて、アレックスが折れた。


「それでは失礼ながら、ジョシュと呼ばせて頂きます」

「敬語なども要らんからな。友達のように喋って構わない」

「はい……」


 完全にジョシュの押しの強さに負けて、友達として話す事まで決まってしまった。

 ジョシュは受付にお礼を言った後に、自室になっている魔法省の部屋へと移動するとアレックスに言ってきた。

 ジョシュに連れられて魔法省を移動し始める。

 隣を歩き始めてジョシュが自身より少し背が小さい事に気づく。

 ジョシュは存在感がある為、身長が同じ位か大きいかと思っていたが、どうやら違ったようだ。


 ジョシュについて歩いていくと、受付の横にある木の階段を登って魔法省の奥へと移動する。

 魔法省の奥には働いているであろうローブを着た魔導士が大量に居た。

 魔法省の廊下を歩いていると、魔導士たちがジョシュに丁寧にお辞儀をするのが印象に残った。


 ジョシュの案内で重厚感ある扉の前まで来た。

 どうやら扉の先がジョシュの自室になっているようで、扉を開けて中に入るように言われる。

 部屋の中にあったソファーに座る事を勧められ、勧められたソファーに座った。

 ジョシュが対面のソファーに座ると、改めて自己紹介をしてきた。

 その後に、王都での拠点について話し始めた。


「マーティーから事前に聞いているので、物件の候補はすでに探してある。それをアレックスには選んで貰うだけだ」

「ジョシュア卿にそこまでして頂いているとは、何と言っていいか……」

「敬語になっているぞアレックス。マーティーには世話になったからな。この程度であれば恩返しにもならん」


 驚きすぎて思わずジョシュア卿と言って敬語が出てしまったが、兄弟子は貴族相手に一体何をしたのだろうか?

 知り合ったばかりのジョシュに直接尋ねる訳にも行かない。

 もう少し仲が良くなってから尋ねてみよう。


 更に物件のお金はジョシュが持つとまで言い始めたので、アレックスは慌てて自分で払うと伝えた。

 しかしジョシュは魔導騎士の給与が大量にあるので気にするなと言い始めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る