第53話




 ルードルフの結婚式の件は、ヨエル王太子が来ないのならば、国王夫妻だけで良いから! というのをとても丁寧に遠回しに、貴族らしい言い回して王家に手紙を送った。

 それならば王太子も行くよ、という返事が王家側から届き、これで無事終了かと思いきや、ヨエル王太子はやはり馬鹿だった。


あの馬鹿ヨエル王太子阿婆擦れカミラ妃を連れて行くって言うから、私用に新しく招待状をお願いしても良いかしら?」

 王家からの返事が届いた翌日。

 学園で顔を合わせたイサベレが開口1番でそう言った。

 王太子妃教育も終了している淑女の鑑のようなイサベレが、朝の挨拶もせずにいきなりの暴言である。


 おそらく馬車の中で、結婚式の同伴者をカミラ妃にすると言われたのだろう。

 それは色々な意味で有り得ない話である。

「解りました。イサベレ様個人宛にお送りしますわね。エスコートは?」

「従兄弟にお願いしますわ。そしてさすがに、今回の件はかん出来ない、となると思います」

 それは相手の有責での婚約破棄になるのだろう。


 宰相補佐も、やはり普通の父親だったようである。

 前回の記憶が有る為に、モンス第一王子が国王になるのを阻止したのだろうが、まさか前回存在しなかったヨエル第二王子までが同等のバ……愚者だとは思わなかったのだろう。

「王家は骨の髄からのたわけ者? れ者? なのだろうね」

 ニコラウスが言葉を選ぼうと頑張るが、どれも結局は同じ意味である。




 アッペルマン邸へと帰り、そのままクラウディアはニコラウスと共に執務室へと向かった。

 本日、イサベレから聞いた話の報告と、イサベレ用の招待状を頼む為である。

 ノックをしてから数瞬間が有り、中から了承の返事が有る。

「失礼します」

 クラウディアとニコラウスが揃って入室すると、室内にはマティアスとカルロッタが居た。


 先に居た二人に許可を得てから、クラウディアはイサベレの話をする。

 勿論、婚約破棄になるだろう事もしっかりと報告した。

 その時、後ろでガタリと音がする。

 振り返ると、カルロッタがソファから立ち上がっていた。



 いきなり立ち上がった妊娠中の妻を、マティアスが慌てて立ち上がり支える。

 まだ少しお腹が出てきた程度なので、軽く動けてしまうのがあだとなっているようだ。

「ごめんなさい」

 本人もさすがに今の行動は妊婦として駄目だ、と思ったのだろう。素直に謝ってソファに座り直す。


 驚いて一連の動きを眺めていたクラウディアと、カルロッタの目が合った。

 途端にカルロッタの顔が満面の笑みになり、キラキラと音が聞こえそうな程に目を輝かす。

「イサベレ様と言うのは、イサベレ・バリエリーン侯爵令嬢ですわよね? 宰相補佐のご令嬢の」

 カルロッタの勢いに、クラウディアは素直に「はい」と言葉を返した。




 カルロッタが珍しくイェスタフの執務室に居たのは、今回のルードルフの結婚式に参加する義弟の相談の為だった。

 義弟……カルロッタの兄の妻の姉の夫の弟なのだそうだ。

 大分遠い間柄なので、他の人はマティアス達の結婚式には呼んでいないらしい。

 なぜ彼だけを呼んだのか、が今回重要らしい。


 カルロッタは他国の公爵家の令嬢である。

義弟おとうとと言いましても、私と同い年ですの。まだ婚約者もおりませんのよ。彼もお兄様になかなか後継者が生まれなかったから、最初は気を遣っていたのでしょうけど」


 カルロッタはサラリと話しているが、そこまで後継者に気を使わなければいけない家柄など1つしか思い当たらない。

「お義姉様、その義弟? となる方は」

「母国の大公……国王陛下の弟になりますの」

 私にとっては単なる幼馴染なのですわ、とカラカラ笑うカルロッタは、意外と大物なのかもしれない。



 カルロッタの母国では、優秀な者が国を導くべきだと、国王がまだ若いうちに息子に地位を譲る事が多々あるらしい。

 今の国王もまだ30半ばなのだそうだ。

 そしてくだんのカルロッタが義弟と呼ぶ彼は、国王の年の離れた異母弟で24才。

 公爵家二家の子供達や王家の子供達は、王城でよく一緒に遊んでいたらしい。


 そしてカルロッタの兄は公爵家から妹を、王家は姉を妻に迎えたのだという。勿論、その公爵家にも後継者がきちんと居る。

「陛下とおね……王妃陛下は私達とは少し年が離れてたので、お二人が保護者のようでしたわ」

 リセット王国とは違い、王家と高位貴族の仲が良好のようである。



 そして、やっと本題に入った。

 カルロッタもそうだが、王家と公爵家の中でこれ以上結婚してしまっては血が濃くなり過ぎるので、他家の血を入れたいのだが、国内では年齢と家柄が合う者が居ないらしい。


 義弟……というには関係が遠いが……は、結婚式に参列するのを隠れ蓑に、結婚相手を探しに来るようである。

 そしてどうやらカルロッタ的には、イサベレに白羽の矢を立てたようである。



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