第36話
「下剤を盛りに行ったら、面白いものを見てしまったよ」
学園2日目。学園へ向かう馬車の中で、ニコラウスが楽しそうに笑う。
「まぁ、何がありましたの?」
クラウディアが聞くと、ニコラウスはパンッと両手を叩いてから、大袈裟に両腕を広げる。
「王太子のベッドの中に、裸のカミラ・リンデルがいました!」
ニコラウスの台詞に、クラウディアは驚いて目を見開く。
今のカミラは13才だ。そういう事が出来ない年齢ではない。
だがしかし、クラウディアが本当に驚いた理由はそこでは無い。
「それでは、もう王家には嫁げませんわね」
王家で托卵などあってはならない。その為に、嫁ぐ条件は純潔である。
それは側妃でも変わらない。
唯一の例外は、公妾だろうか。しかし公妾はあくまでも公妾だ。
子供を産んでも、その子は王族に名を連ねる事は出来ない。
抜け道はある。
平民のメイドなどを買収し、初夜に破瓜の代役をさせるのだ。
当然それだけが目的なので、服も脱がずに前戯も無く痛いだけだし、間違っても子種が貰える事も無い。
夜中にこっそり部屋を訪れ、そして証拠を残したら部屋を去る。
しかしそれでも誤魔化しようが無いのが今回の例だ。
カミラは王宮の王太子の部屋で、事に及んでいる。もう純潔で無い事を、大勢の人間に知られているのだ。
相手が王太子だから良い……というわけでは無い。
この後、婚姻するまで王太子以外を相手にしないとは限らないからだ。
「カミラが王家に嫁げないのは
残念そうにクラウディアが言うと、ニコラウスは口の端をだけを器用に持ち上げた。
「大丈夫。メイド長と取り替えておいたよ。王家の馭者のフリをして、
褒めて! と尻尾を振る犬のように、ニコラウスは頭を下げて顔を近付ける。クラウディアの肩に顔を埋めるようにしてきたのだ。
その髪を優しく撫でながら、メイド長って今いくつだったかしら? とクラウディアは考えていた。
「ワタクシは昨夜、確かに一人で自室におりました!」
朝、王太子を起こしに来たメイドと侍従に発見されたメイド長は、服を着る事も許されず、裸のまま床に座らされていた。
メイドだけならば何とかなったかもしれないが、王太子が年頃になったので、メイドが色仕掛けをしないように見張りとして侍従が必ず同行するようになったのだ。
事後のベッドを見て、発見した侍従と呼ばれた近衛兵が馬鹿にしたように笑う。
「これだけ証拠を残しておいて、何を言っている」
「しかも発見時には繋がっていたのだ。可哀想に、メイドは寝込んでいる」
笑われても、なじられても、メイド長には意味が解らなかった。
「あのメイド長って、ディディが王宮にあがっても、メイド長だったよね」
頭を撫でられながら、ニコラウスが静かに言葉を紡ぐ。下を向いているので、クラウディアにはその表情は見えない。
「えぇ、多分そうね。3年後に、メイド長になって10年と言っていたから」
新参者の王太子妃の言う事など聞けない、とクラウディアの世話を必要最低限にしたのが、このメイド長だ。
それなのに側妃カミラが召し上げられると、王太子の寵妃だと、有り得ないほどの贅沢をさせていた。
「解雇になるくらいで済めば良いよね。鞭打ちかな、縛り首かな。ディディを10年虐めた罪は償って貰わないとね」
微かに肩が震えているのは、笑っているから? 怒っているから?
その表情を確認する度胸は、クラウディアには無い。
この日、王太子も第二王子も学園には来なかった。
さぞ王宮内は、大変な事になっているのだろう。
若いメイドならば、解雇してしばらく様子見をし、妊娠していなければそのまま放置で良かった。口止めの為に、騎士の妻にする事も出来たのに。
「メイド長が王太子妃とか、良いかもよ」
あははははは、と声をあげて笑っているのは、ニコラウスから話を聞いたマティアスだ。
今のメイド長は仕事一筋の未婚であり、それなりの家柄の貴族令嬢だった。
今までに培った横の繋がりもあるので、おいそれと処分も出来ない。
「これからは、王太子の閨教育係にでもするのかな?」
笑いを引っ込めたマティアスは、真面目な顔で自分の予想を話す。
通常、高級娼婦か若い未亡人が選ばれる閨教育係。王太子には既に居るはずだし、第二王子にもそろそろ選ばれるはずだ。
メイド長を辞めさせて、それが閨教育係に任命されたら、何かがあったと公言するようなものだろう。
表沙汰にしない為に、元メイド長の閨教育係の存在は隠され、監禁状態で王太子の相手をさせられるに違いない。
「仕事の為に監禁。どこかで聞いた話だね」
マティアスは、ニコラウスの復讐を正しく理解したようである。
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