第30話

15話。前回、クラウディアがヒルデガルドより先に亡くなったと書いてありました!

実際には、ヒルデガルドが先です。

(そうでないと話に矛盾が)

直しました。すみません。

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 鬱陶しい王太子からの手紙は未だに届いていたが、正式な物では無いので全て未開封で送り返していた。

 学園内では、王太子がルードルフに接触しようとしていたが、側近になりたい他の生徒達が王太子に群がるので、すぐに気付けて逃げおおせていた。


「婿探しの令嬢ばかりが寄って来る」

 学園が休みの日の午後のお茶会で、ルードルフが珍しく愚痴っていた。

「あぁ、次男ですものね」

 クラウディアが苦笑する。

 母方のエルランデル侯爵家の後継者資格を、ルードルフが有していると知っている人間は少ないだろう。


 学園内でのルードルフの立ち位置は、王太子が側近に望んでいる公爵家次男というところだろうか。

 ぜひ婿養子に!と思う高位貴族が居て当然である。



 だがしかし、本来の立場は大分違う。

 現在のエルランデル侯爵家当主資格保持者はヒルデガルドでは有るが、領地の管理運営をしているのはエルランデル侯爵家の優秀な家令である。

 ヒルデガルドは表には出ず、名前だけの当主でお飾りにすらなっていない。

 その為に、ルードルフは成人したら、即当主となる。

 マティアスよりも先に、当主となるのである。


「社交デビューは16才からといえ、本格的に社交するのは学園卒業後が普通だし、18才で成人してエルランデル侯爵様になったら、求婚者が増えて大変そうね」

 うふふ、と意地悪くクラウディアが笑う。


 当主になれば婿を探している令嬢は寄って来なくなるだろうが、今度は学園内だけでなく、行き遅れと言われる年齢の未婚女性や、政略を狙った一回り近くも年下の令嬢の親からの求婚も増えるだろう。


「後ろには実家のアッペルマン公爵家がいて、公爵家次期当主の妻は隣国の公爵家で、長女はヘルストランド侯爵家に嫁ぐのだから、そりゃもう金貨の服を着ているね(*)」

 ニコラウスまでもが笑顔でルードルフをからかう。

「僕、もうヨーゼフと結婚したい」

 ヨーゼフとは、エルランデル侯爵領の管理運営をしている家令ヨーゼフ・ヴィレーン伯爵である。

 机に突っ伏したルードルフが嘆くのに、クラウディアとニコラウスは声を出して笑った。




 ルードルフの冗談混じりの台詞がほぼ現実のものとなったのは、クラウディアの学園入学直前である。

 本格的な領地運営の講師としてやって来た家令に、ルードルフが一目惚れをしたのだ。

 相手はルードルフよりも5才年上の才女、パウリーナ・ヴィレーン伯爵令嬢である。


「結婚は親の承認があれば、16才から出来るのよね」

 ヒルデガルドのその一言で、まだ学生なのにルードルフのが決まった。

 さすがに婚約期間無しなのは駄目だろうと、ルードルフの17才の誕生日に結婚する事が決まっている。



「式は領地で行いましょうね」

 結婚式の打ち合わせを行うヒルデガルドは、本人達以上に舞い上がっている。

「ルーとパウリーナの子供、絶対に可愛いわ」

 異様に盛り上がるヒルデガルドを見て、イェスタフとマティアスは苦笑するだけで止めようとはしない。


 そこまでヒルデガルドが喜んでいる理由を知っているからだ。

 前回は叶わなかった、ルードルフの結婚。

 死んだ子供の年齢を数える母親を、傍で見守る方もさぞかし辛かっただろう。

 クラウディアの前では気丈に振舞っていたヒルデガルドだったが、その命の短さに嘆きの深さがうかがえた。



「ねぇ、パウリーナ様が持つブーケは黄色い薔薇で良いと思う?」

 まだ何ヶ月も先の結婚式に使う花嫁のブーケ。

 それを今、庭に咲いている花で作ろうとしているクラウディアがいた。

「枯れた薔薇のブーケを花嫁に持たせるの?」

 ニコラウスが言うと、「そうよね、枯れるわよね」と少し冷静になる。


 花壇から離れたクラウディアは、お茶の準備がしてある四阿あずまやへと向かった。

 席に座り、淹れたての温かい紅茶を一口飲み、ほぅと息を吐き出す。

 それから隣に座るニコラウスへと笑顔を向けた。



「来年は私の婚約にルーチャの結婚、そろそろマーチャからの嬉しい報告も有りそうよね」

 楽しそうに笑うクラウディアも、実はヒルデガルドに負けず劣らず浮かれている。

 幸せそうなクラウディアを、眩しいものを見るように目を細めてニコラウスは見つめる。


 あの日見た、諦めたように笑うクラウディアの哀しい笑顔。

 美しかったけれど、二度と見たくないとニコラウスは思う。

 今の幸せな笑顔を守ろう、そう心に誓った。




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*金貨の服を着ている=鴨が葱背負ってる(この国の諺みたいなものだと思ってください

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