第20話:※センシティブな内容が含まれます
アッペルマン公爵家で開かれていた子供達のお茶会。
そこには未来の夫が居るのだから、参加するのは当然だと令嬢は思っていた。だから母親に確認もせず、アッペルマン公爵邸へと向かった。
突撃した公爵家では、いつもと違って誰も相手にしてくれなかった。
家主の子供達が参加の許可を出さないのだから、使用人が席を用意する事は絶対に無い。
それは当然の事である。
主人が拒否するのだから、使用人がもてなすはずもない。
しかし今まで令嬢の周りには、自分より高い身分の子供が居なかったのだろう。
他家で傍若無人に振る舞っても、それが当たり前であるかのように許されていた。
令嬢の中では、自分がアッペルマン公爵家に嫁いで女主人になるのは決定事項だった。
なぜなら公爵家に嫁いで、完璧な公爵夫人となれるのは自分しか居ないからだ。
だから勘違いした令嬢達がいい気にならないように、常に婚約者の当然の権利として他の令嬢達を排除した。
「貴女程度の爵位で、公爵家の女主人になれるとでも?」
同年代には伯爵の令嬢ばかりで、公爵家も侯爵家も居なかった。
それなのに、なぜかアッペルマン公爵家から婚約の申し込みは来なかった。
「私に
周りにちやほやされていた令嬢は、自分が公爵家令息と同等だと、いや、嫁いでやるのだから自分の方が上だ、と思い込むようになっていた。
「アッペルマン公爵家から、正式に抗議が来たわ」
あのお茶会から数日後、令嬢は信じられない事を母親から言われた。
アッペルマン公爵家が「呼んでもいないのに押し掛け、使用人に暴行した」と苦情を言ってきたのだ。
「将来の女主人として、使用人を教育するのは当然の事でしょう!?」
令嬢が母親へと反論する。
しかし母親は令嬢から視線を逸らし、溜め息を吐き出した。
「その件も、公爵夫人から正式に否定されたわ」
「え?」
母親からの注意説明を、令嬢は呆けた表情で聞いていた。いや、聞き流していた。
「私を
夜。自室のベッドの上で令嬢は暴れていた。
羽根枕を掴んで振り回し、羽毛布団はベッドの下へ蹴り落とされている。
「そうだわ! あの生意気そうな妹を誘拐して、傷物にしてやるのよ! そして優しい私が寄り添って慰めれば良いわ!」
あーははは、と高笑いしながら令嬢はベッドの上に立ち上がる。
「私は公爵夫人になるのよぉ!」
そう言いながら、今度はベッドが軋む程に跳ね回った。
令嬢が癇癪を起こして暴れるのはいつもの事なのか、結構大きな音や声がしても、使用人が飛んで来る事は無かった。
だから窓からの侵入者に驚いて令嬢が悲鳴を上げても、誰も助けには来なかった。
「なぜ、貴族の女どもは皆、同じ事を考えるんだ?」
黒い影が低い声で問い掛ける。
「
ベッドの上で仁王立ちし、侵入者は令嬢を見下ろす。
猿轡をされ、四肢をベッドに拘束された令嬢は、怯えた表情で自分よりも遥かに小さい侵入者を見上げている。
「本当はね、ここまでするつもりは無かったんだ。ちょっと脅して庭にでも放置すれば、醜聞を恐れた侯爵が
黒い侵入者は、赤い瞳で令嬢を見る。
「でも、私の大切な人を傷付けるつもりみたいだからね」
言いながら、令嬢の大きく開かれた足の間に膝を突く。
「自業自得って言葉、知ってる?」
令嬢の声にならない、くぐもった悲鳴が部屋に響いた。
ある日、醜聞が貴族の間に広がった。
侯爵家のまだ年若い令嬢が、自室で誰だか判らない相手に純潔を散らしてしまったのだという。
男性使用人は勿論、女性の使用人達も全員、令嬢の部屋以外の場所に居た事が証明されていた。
外から無理矢理侵入した形跡も無く、本人は否定しているが、令嬢本人が男を招き入れたと判断された。
「今、令嬢は、辺境の修道院か、純潔を気にしない下位貴族か、高位でも後妻かの選択を迫られているらしいよ」
マティアスが口の端を持ち上げて笑う。
「まぁ、お相手お疲れ様です。ニコラウス卿」
クラウディアが横に座るニコラウスへ笑顔を向ける。
本当に
「いやいや。何か誤解してるよね? 違うからね? 令嬢を犯したのは、そういう
ニコラウスが慌てて手でいかがわしい形を表す。
「愛人を囲えない未亡人御用達の、そういう張り型!」
説明を聞いて、更にクラウディアの表情が歪む。擬音を付けるなら「うえぇ」だろうか。
「うん、とりあえずありがとう。きちんと
マティアスは本当に感謝しているようだが、肝心のクラウディアからの評価は下がってしまった可哀想なニコラウスだった。
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