第3話




 ユリアにくしけずられながら、クラウディアは鏡の中の自分を見つめる。

 白金の髪はサラサラで、子供特有の猫っ毛なのも相まって、リボンも髪飾りも留まらずに落ちそうである。

 瞳の色は母親似の青色で、晴天の青空のような色。兄二人の緑色とは違う。


 着ているワンピースは淡いピンク色で、飾りの細かいボタンに至るまで、王太子の色は一切入っていない。

 せっかく仕立てたのだからと母親のヒルデガルドには言われたが、例の水色のワンピースは断固拒否した。


「そのワンピースを私に着させたら、私は衆人環視の中で脱ぎます」

 背筋を伸ばし、キッパリと言い放つクラウディアを見て、その決意の強さを感じたのか母親の方が折れたのだった。


 そもそも6才の少女が「衆人環視」などという言葉を使っているおかしさには、焦っている大人達は気が付かなかった。

 側に居たユリアだけが「しゅうじんかんし?」と首を傾げていた。



 出発前に一悶着あったものの、正妃主催のお茶会は無事に始まった。

 くらいの高い家から正妃と王太子に挨拶をする。

 前回は1番最初に挨拶をしたクラウディアに王太子が一目惚れをして、挨拶が即終了となってしまった。

 そのまま王太子がクラウディアの手を引いて、用意されていたテーブルへと連れて行ってしまったからだ。


 今回、クラウディアが思っていたとおり、王太子はクラウディアに大して興味を示さなかった。

 無意識なのか意識してなのか、王太子はクラウディアが自分の色をまとっていたからこそ、好意を示してきたのだ。


 それにしても、とクラウディアは会場を見回す。

 今回は、青系を身に着けている子供の多い事、多い事。ワンピースが水色や青色の子供に、小物に青色を取り入れている子も一定数居る。

 まるで前回のクラウディアを見て、知っているかのようである。


「そのようなわけ、ありませんわよね」

 寒色が多く、寒々しい印象になってしまったお茶会会場を眺めながら、クラウディアはポツリと呟いた。




 お茶会から一月後。

 前回ならば朝から公爵邸の中がソワソワと浮足立って、落ち着かなかった記憶がある。なぜなら王太子の婚約者が今日決まるからだ。

 しかし、今回はとても静かだった。


 前回はお茶会の最中に、正妃から母ヒルデガルドへ「もう決まったも同然ね」と言われていた。

 議会の承認待ち状態だったのである。


 今回は正妃と母の間で、そのような会話は交わされていない。

 当然だ。

 王太子がクラウディアに一目惚れしていないのだから。



「洋服の色ひとつで変わってしまう気持ちだったのね」

 一人、中庭にテーブルと椅子を用意してもらい、優雅にお茶とお菓子を楽しんでいたクラウディアは、温かい紅茶を一口飲んでほぅっと息を吐き出した。

 まだ6才のはずなのに、妙な落ち着きと若干の疲れが見えるクラウディアを、使用人達は遠巻きに見ている。


「このようにゆっくり過ごすのは何年ぶりかしら」

 使用人達から距離を取られているのを良い事に、クラウディアは子供らしく振る舞うのをやめていた。




 まったりとしている中庭に、突然荒々しい声が近付いて来た。どうやらクラウディアの名前を呼んでいるようである。

 中庭に居た使用人達が、何事かと声のする方向へ体を向ける。何かあった時に、咄嗟にクラウディアを守れるようにである。

 しかし、声と共に姿を現した人物を見て、皆が体から力を抜く。

 中庭に姿を見せたのは、長兄であるマティアスだった。


「クラウディア! 王太子との婚約はどうなった?!」

 クラウディアの姿を見るなり、マティアスが叫んだ。

 前置きも無くいきなりな質問に、クラウディアは首を傾げる。

 そもそも今回の王太子はクラウディアに興味を示していないのに、なぜ婚約するなどと思ったのか。


「お茶会では儀礼的な挨拶しか交わしておりませんのに、なぜ婚約すると?」

 ティーカップをソーサーに戻しながらクラウディアが問う。

 その子供らしからぬ所作や言葉遣いに、マティアスの目が大きく開かれた。



「ディア。そなたは?」

 マティアスの問いに、今度はクラウディアが眉間に皺を寄せた。

「マティアスお兄様? 何をおっしゃっておりますの?」

 クラウディアが「マーチャ」と呼ばなくても今回は不満には思わないようで、マティアスは空いていた席に座った。


は、ディアの死後、妻と子供達と共に他国へと渡ったのだ。そして子供と孫に囲まれ、天寿を全うしたはずだったのだがのう。……唯一の心残りはディアとルーの事だった」

 まだ12才のはずなのに、今のマティアスは貫禄のある、むしろ老獪と感じるような話し方だった。




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今年も最終日になりました。

来年もよろしくお願いします。


大掃除で体が痛い(笑)

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