第4話
平日夕方のeスポーツカフェは程々に混んでいた。
空きがないわけではなかったので二人は受付表に名前を記入して入場を済ませる。
「絶対に元を取り返す」
PC前に座ると恭弥は活気に満ち溢れた様子でマウスを持つ。利用料で取られた二千円を無駄にするわけにはいかなかった。
「恭弥はまずアカウント作成しないと」
「アカウント?」
「知らないの……よくそれで全国大会優勝とか言ったね。ちょっと貸して」
早々マウスを綾人に奪われる。彼は慣れた手つきで画面を操作し、ゲーム画面を起動する。普通のスポーツと同じくeスポーツにも種目が存在する。二人はFPSゲーム『Vertex』をプレイすることにした。FPSであれば、普段からゲームセンターでやっているため慣れが早いと思ったのだ。
アカウント作成を終え、ゲームをプレイ。最初は個人戦で基本的な操作を覚える。
Vertexの特徴はNPCが複数体いることだ。彼らの攻撃を掻い潜りつつ、敵を殲滅しなければならない。オンライン対戦のため恭弥や綾人以外にもプレイヤーがいた。
始まりの合図があってすぐ恭弥は最初の位置で基本操作を試みる。
移動方法、装填の仕方、ピントの合わせ方など一通りの操作を行った後に移動し始める。
「あっ……」
しかし、移動してすぐ射たれて死んでしまった。死角から現れる一人のプレイヤー。それはNPC。恭弥はゲームの作り物に殺されたことにムッとしながらヘッドホンを外した。横では綾人が華麗な手捌きを見せる。彼はVertexを何度かプレイしたことがあるようだ。
恭弥は綾人の操作と画面を交互に見る。どのようにして彼がうまく相手を否しているのかを確認する。無意識に口笛を吹いてしまっていた。
一ラウンド目が終了。綾人の一人勝ちとなった。恭弥はヘッドホンを付け直し、次のラウンドに臨む。
綾人のやり方を真似て敵を倒していく。先ほどの貧弱なプレイが嘘のように上手くこなしていった。二ラウンド目が終了。綾人と恭弥を含めた三人が残った状態で時間切れとなった。
最終ラウンド。恭弥は先ほどと同じようにプレイしていく。動く途中で綾人と対峙。互いに一歩も譲らない攻防。勝負を制したのは恭弥だった。綾人のプレイを見ながら彼以上の実力を短時間でつけたのだ。そのまま恭弥の一人勝ちとなる。
最終ラウンドを終えて、恭弥と綾人が同率一位となった。
「流石だね。三戦で抜かれるなんて恭弥相手だとやってられないよ」
「こっちは借金返済のために命かけてるからな」
「ねえ、君」
二人で話していると後ろから声がかけられる。見ると同年代と思える可愛らしい女性がこちらを見ていた。
「あんた誰だ?」
そう問いかける恭弥に対して、答えは横にいる綾人から返ってきた。
「ゲキツヨ三銃士のクロウだ」
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