ごはん殺人事件

@rona_615

第1話

「さて」

 そういって佐米警部は応接間をぐるりと見渡す。ソファに並んで腰掛けているのは、館の主とその妻。ドアの横に立つメイドは身を守るかのごとく盆を両腕で抱えている。被害者の弟は、窓ガラス越しにチラリと警部を見た。

「被害者の文杓さんは、拳大の石がいくつも詰まったような形状の凶器で殴られていました。

 それは、未だに見つかっていません。吹雪のため、この屋敷から出ることはできなかったのにも関わらず、です」

 館の主は、葉巻に手を伸ばしながら、面倒くさそうに返事をする。

「別にどうだって良いじゃないか。石なんぞ、そこらじゅうにあるだろ」

「そう、そうなんです」

 警部は右手の人差し指をぴんと天井に向け、言葉を続ける。

「見つかっても構わないはずの凶器。それなのに、どうして念入りに隠されているのか。

 なにせ、この私が探しても見つからないほどですからね。

 そう考えたとき、ふと気づいたんです。

 隠されているのではなく、なくなっているのかも、と」

 被害者の弟が窓から目を離し、警部に向き直った。

「けれど、あのとき、誰もそんな暇はなかったことは、警部さんも認めたじゃないですか」

「ええ、ただ一つだけ例外がありました。凶器はね、食べられたんです」

 バタンという大きな音が響いた。メイドが盆を取り落としたのだ。

「冷凍ごはんを詰めた袋で、被害者を殴ったんでしょう。解凍してしまえば、それは凶器には見えなくなる」

「じゃあ、あの、レトルトカレーは……」

 主の妻は口元をハンカチで抑える。顔色がロウのように真っ白だ。

「冷凍ごはんを処分するために、提案されたんでしょうね。そして、それができたのは、キッチンを管理している……」

 佐米警部は言葉を切ると、人差し指でぴっとメイドを指した。

「あなたですね」

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