第37話
1月1日。
ツバサがネネの家に行きリフトをもらい受け、そのままネネを乗せてマヤの家に寄る。
リフトは落下防止バー付きの3人乗り。多少の傷はあるが目立つ錆もなく状態は良好で、座面は事前にネネの父親が綺麗なものに交換済み。
ここにアズサとマヤも乗せれば総重量は200キロ近くになるが、ネネのベース型金棒を振り回せるツバサならば問題はない。
「あけましておめでとうございます」
「はい、あけましておめでとうございます。みんなにもお年玉どうぞ」
「いいんですか!? ありがとうございます!」
マヤのご両親にお年玉をもらい大喜びのツバサとネネ。ちなみにここにはいないがアズサの分もある。
一方マヤはというと――。
「お、すっ飛んできたーっとと。いきなり飛びつかなくても」
「早く行こう! アレが来る!」
「アレ?」
準備万端の状態でネネに飛びついたマヤは、見ずに家の中を指さす。
その先にいたのは、居間から半身だけ出して、異様なオーラを放ちながらこちらを覗く女性。
「……ついに出たか」
「ある意味出た!」
「あはは、違うよ。あれは姉のシキ」
「「あー」」
その話はマヤから聞いていたので、2人揃って謎の納得。
「父親が言うのもなんだけど、育て方を間違えたというかなんというか……」
「強烈なシスコンだとか?」
「ネネ、深入りはやめておこう」
「んあ、そうだな。失礼しましたー」
ツバサの本音は自分たちもターゲットにされたら大変だというもの。
ともかく、マヤを乗せて次のアズサの家へ。
ご両親に新年のあいさつを終えたところでアズサが登場。
しかし「寒っ!!」と言って即座に踵を返し家に逃げ帰る。
それもそのはずで、今朝は放射冷却の影響もあり、気温はマイナス20度近くまで下がった。
「近年稀にみる冷え込み方だからね」
「アズサー、やめてもいいぞー?」
「――――!!」
「なんだって?」
「意地でも行くってさ。たぶん最大限の厚着に変えるんだと思うよ。いうなれば第四形態だね」
「そこまで行ったら見た目もうダルマになりそうだな……」
そのまま外で待つわけにもいかないので、3人は水月家にお邪魔。
両親はツナギのこともあり、2人よりもお年玉を多くあげるほどマヤを大歓迎。
この良好な雰囲気を、マヤは居候打診のタイミングではないかと考える。
「これは……行ける……?」
「玉砕するの見ててやるよ」
「むー」
結論から言えばマヤは玉砕した。
冬期間、水月家の収入はゼロになる。そのためマヤを同居させられるほどの金銭的余裕がないのだ。
それはそれとしてアズサの準備が整い、ツバサが呼ばれて引き取りに。
「コントで見たことあるぞ、これ……」
ついに現れたアズサ第四形態。
それはまるでコント番組で見る力士の着ぐるみ状態で、歩行すら困難なほどの超絶厚着。しかも顔は目出し帽にゴーグルなので、このままコンビニに入れば通報間違いなしである。
「服だけで結構な重量あるねこれ」
「アタシも持ってみたい。……あー、結構いい鈍器になるなこれ」
「完全にモノ扱いだこれ」
しかし実際にモノ同然に持ち歩きされる側のアズサは、それが分かっているので文句を言う気はなく、淡々とモノとして持ち歩きされるのだった。
アズサの家から目的地の北海道神宮までは空からならば30分程度。
しかし今日は元日なので、地上も空も渋滞中である。
「こんなにいたのかってくらい有翼種族がいっぱいだな」
「ねーツバサ、まわりを回って飛んでる人はなに?」
ツバサのようにホバリングして待つ者もいるが、それとは違い直径1キロほどの円を描き飛ぶ列がある。
「あれは物理飛行の種族。ボクみたいな魔法飛行とは違ってホバリングが大変だから、ああやって円形に飛び続けることで体力を温存してるんだよ」
「初めて知った」
「よく見りゃ確かにハーピーとかセイレーンとかエンジェルとか、物理飛行なのばっかりだな」
「どっちのほうがいいの?」
「うーん、一長一短だけど……そういえばこういう話があるよ――」
魔法飛行と物理飛行の違いは様々あるが、距離を例にすると魔法飛行は1日で札幌から旭川までの約100キロがせいぜいなのに対し、物理飛行は札幌から名古屋までの約900キロをノンストップで飛んだ日本記録がある。
また止まらずに飛行し続けた時間の記録としては、1937年に英国の女性ハーピーが3日と9時間52分飛び続けたが、最後は意識を失い墜落。
女性はかろうじて一命を取り留めたが、この事故が元で24時間以上の飛行を禁止する国際法が作られ、この記録はアンタッチャブルレコードとなった。
「なんて話をしてたら空いたね。降りるよ」
ちなみにスキーのゴンドラをぶら下げて飛んでいたのはツバサしかおらず、周囲の魔法飛行種族は「その手があったか」とひざを打っていた。
降りた後は社務所に許可を取って裏手にリフトを置かせてもらい、参拝へ。
「人多いなー。……ぃよっと」
「おー、見やすい」
ネネはマヤをひょいと持ち上げ肩車。
男性恐怖症を警戒しての行動なのだが、マヤはそれよりも普段とは違う高い視点に興奮している。
一方アズサは今回もツバサの持ちモノ扱い。両者手慣れたものである。
「二礼二拍手一礼……っと。何お願いしたー?」
「初詣は今年のご挨拶と、去年の報告と感謝をする」
「厳格だなーマヤは」
「そういう仕事してる家だからでしょ。そうだ、おみくじ引いていく?」
「「いくー」」
アズサも手を挙げた。
「さてと、まずは部長からどうぞー」
「調子のいい時だけ部長扱いしてる」
「いいじゃんか。んでアズサ、結果は?」
アズサが引いたのは末吉。そして内容は良くも悪くもごく普通。
この結果にツバサが「こんなものだよね」と言えば、コクリと頷くアズサである。
「んじゃ次ツバサ」
「はいはい。えーっと……吉。内容はそれなりで……新しい出会いに感謝せよ、だって」
「新入部員か?」
「休みが明けたらそっちのことも考えないとね」
部の始動が9月と遅かったため現在はアズサたち以外に部員はいないが、4月になれば新1年生の加入もあり得るし、2年生からも手が挙がるかもしれない。
当然アズサたちもそれは分かっているが、旧ダンジョン攻略部の資料が残っていないため、勧誘方法は一から模索しなければならない。
「でもってアタシは……おあっ、マジか!」
「おー大吉! えーと恋愛は……あっ」
「み、見なかったことにしよう」
「アタシの大吉ぃ……」
肝心の恋愛は一言「諦めよ」。
すっかり凹むネネだった。
「最後にマヤだけど……顔を見ただけで結果が想像できる」
「シキが悪い」
「姉のせいにしたぞー」
マヤの結果は凶。
しかし災い転じて福となすということわざもあるように、その内容は4人の中でもかなり良い。
ただし家族の項目だけは「災いの元」と、現在のマヤを象徴するかのような内容。
それだけで凶に匹敵すると想定すると、姉のシキがどれほどマヤにとっての危険人物なのかも想像出来るというもの。
そうして初詣が終われば、ツバサがそれぞれの家に送り届けるのだった。
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