雪遊び 雪まつり 雪ミク

第35話

 期間の詰まった学期末テストを終えた、12月22日。


「諸君、素晴らしいことに我がクラスは期末テストで1人も赤点を出すことなくこの日を迎えられた。

 これはひとえに諸君らの勤勉さゆえである」

「もりもっちそれなにキャラ?」

「女軍曹じゃね?」

「結構似合ってて草」

「言うな。恥ずかしくなってきた」


 森本先生は毎回、長期休み前のホームルームでよく分からないキャラになる。

 そして毎回、途中で恥ずかしくなって元に戻る。

 なぜこのようなことをするのかは森本先生の過去に関わってくるのだが、それはまた別の話。


「えーともかくだ、お前らは憂いなく晴れやかな気持ちで冬休みに入れるわけだ。

 んが! 浮ついた気持ちでいると思わぬ事故や病気にかかることもある。

 お前らだって病院で正月を迎えたくはないだろう。だから今一度気を引き締めて、全員無事に3学期を迎えられるよう心すること」

「「「はーい」」」


 そして森本先生の発言からも分かるように、今回アズサはなんと1教科も赤点を取らずに済んだ。

 帰り際、そんなアズサの元に集まる部員一同。


「いやーマジでアズサが赤点を取らずに済む日が来るとは思わなかったよ」

「アズサ以上に喜んでたもんな、ツバサ」

「アズサ相変わらずこれだから、そもそも喜べない」


 マヤの言う相変わらずとは、例の魔法版ホットカーペットを椅子に敷いてもなお変わらない第三形態のことである。

 クラスメイトが椅子を触って「あっつ!」と驚く程度には熱を持っているのだが、それでアズサの全身を温められるかと言えば、そうではなかった。

 この装備で温まるのはせいぜいお腹辺りまでで、足先や顔は相変わらず冷たいままなのだ。


「そういやマヤ、ダンジョンから帰ったときにアズサにいいものがあるって言ってたけど、結局何だったの?」

「間に合わなかったけど、今度は着る魔法版ホットカーペット」

「!?」


 思わず万歳するアズサ。


「だけどこの熱さを着たら火傷するだろ」

「スライムは火傷しないから平気だよ。っていうか状態異常はほとんど効かないんじゃないかな」

「特異体質だからか?」

「いや、スライムだから。忘れがちだけど、ボクたちのイメージするスライムとアズサたち亜人スライムって別物だからね」

「あーそっちか」


 状態異常がどれほど無効化できるかは実際に受けてみなければ分からないが、少なくとも毒薬を飲んでも平気なのは間違いない。

 そしてこれは亜人スライム全体に言えること。イメージとは裏腹にたくましい種族なのだ、スライムは。


 そんな話をしていると、一度出て行った森本先生が戻ってきた。


「いたいた。念のためなんだが、もし冬休み中にもダンジョンに潜るんだったら、事前に私に連絡をよこしてくれ」

「その場合は場所と人数と日数でいい?」

「ああ、それでいい。それから帰る前に部室に寄って日誌を持って帰って、次の登校日には必ず持ってくること。長期休みの時は必ずな。

 あとは……そんなところかな。追加があったら水月か竜崎に連絡を入れるよ」

「分かりました」


 ツバサの返事で、森本先生は忙しそうに教室を出て行った。


「それじゃあ部室に寄ってから帰ろう」

「あー冬休み。どうすっかなぁ……」

「宿題めんどい」

「それなー」


 部室に来た4人は、あとは日誌を持って帰るだけではあるのだが、何となくそのままお喋り。


「もりもっちはあー言ってたけど、冬休み中ってダンジョン潜るか?」

「ボクは家の手伝いが忙しくてそれどころじゃないね」

「マヤも年末年始くそ忙しい」

「だよな。アタシも除雪依頼が本格的に増えるからそんな余裕微塵もねーや」

「そしてアズサは生きるので忙しい」


 頷くアズサ。

 と、そのタイミングでマヤのスマホが鳴った。

 電話の主はマヤの母親だったのだが、会話の途中からマヤの顔色が変わり始める。


「――うん。切るね」

「えーっと、顔色悪いけど大丈夫?」

「ダメかもしれない。ネネ、冬休み中だけでいいからネネの家にマヤを置いてくださいませませ」

「え? な、なんでそうなんの??」


 萎れるマヤ。

 ということでその理由を聞いたのだが、ツバサもネネも大爆笑。


「あはは!! そりゃ災難だ!!」

「マヤには悪いけど、そんなマンガみたいなお姉さんいるんだ!」

「ぶー……」


 そう、冬休み中にマヤの姉の【シキ】が帰ってくるのだ。

 この姉、いわゆる”アレな姉”であり、姉妹関係でなければとっくに警察沙汰になっているほどの妹好き。

 そのためマヤからすれば男性以上に避けたい人物であり、来年から実家に戻ってくると聞いたその日には、本気でネネの家に居候する計画を立てたほどである。


「可能か不可能かで言えば可能だけどよ」

「じゃあ今すぐ!」

「いや待て待て。うちは男所帯だぞ? しかも父親はガテン系で兄はオラオラ系で弟は女好き。アタシですら相手すんのは疲れるんだからな」


 光景を想像しただけで震えてくるマヤ。


「…………じゃあツバサ!」

「弟がいるよ」

「あうっ……かくなる上はアズサ!」

「確かお兄さんが帰ってくるんだっけ?」


 コクリと頷くアズサ。

 そしてマヤは力なく倒れ、「人生オワタ」と古のネット用語をつぶやくのだった。


 ちなみに。


「んでよ、24と25に用事のあるやつ、いる?」

「どうしてッ……どうしてそんな心のない言葉を吐けるのかッ!」

「いや……アタシもだから」


 声を荒げたのはマヤだった。


「男っ気ゼロだよね、ボクたち」

「なのにあまり悲しくないこの複雑な心」

「「分かる」」


 アズサも頷く。

 なんだかんだと言いつつ、そこは年頃の女子高生なのだった。




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