第3話 訓練所送り
しかし、ユウキ兄さんの肩の怪我は、思ったよりも治るのに時間がかかる事が後から分かった。手術を二回して、リハビリをする。元々足と腰は全治六か月と言われていたが、更に一年かかるそうだ。つまり、俺たちのグループ活動は一年半休止する事になる。
それに伴い、シン兄さんとマサト兄さんの留学も一年延びた。ソロ活動の予定のない他四人のメンバーは、しばらくお休みになった。ずっと走り続けてきたから、休みは嬉しいはずなのだが、先の見通しが立たないのは不安だ。いつまで休みなのか、次は何をするのか、何も分からないまま過ごすのは、休んでいても気が休まらない。
「鍛えなさい。それから、曲を作りなさい。作詞でもいいし、本を読むのでもいい。」
リーダーのタケル兄さんが、俺とテツヤ、そしてテツヤと同い年のカズキ兄さんにそう言った。タケル兄さんは、実際に自分の言葉を実行に移している。ちょっと抜けている所もあるが、非常に頭が良くて、その上ストイックな人なのだ。仕事がなくても毎日出社して、ジムで鍛え、作詞や作曲をし、自宅に帰れば読書をしている。ああ、俺にはとても真似できない。
休みが一週間ほど続いた後、会社から出社するようにと連絡があり、会社に集まった。社長じきじきに通達されたのは……。
「君たち四人には、活動休止期間にある場所に行ってもらう事にした。この機に色々勉強してきてもらいたい。」
社長はそこで一度言葉を切った。
「えっと、ある場所とは?」
タケル兄さんが遠慮がちに質問した。すると社長は一呼吸置いてから、
「演劇訓練所だ。」
と言った。
「!」
俺たちは皆、声が出なかった。演劇訓練所。それは、俺たちの業界では「アイドルの墓場」と言われる場所だ。なんてこった!
演劇訓練所は国内に二カ所あり、ミュージカルや舞台、ドラマに出る俳優の為の訓練所である。演劇がやりたくてそこに入る人はもちろんいるが、とても厳しいと有名なところである。
一方、年齢がある程度行って、人気が落ちてきたアイドルが行かされる場所としても有名である。若手に力を入れたい会社が、厄介払いをすると噂される。アイドルがそこに送られ、厳しい訓練に耐え抜けば、俳優として新たなスタートを切れるのだが、その厳しさに負け、訓練所も会社も辞めて芸能界を去る人も少なくない。
「あー。確かに、君たちそれぞれにソロ活動をさせてやりたい気持ちはある。だが、なかなかうちも人手不足でね。君たちの後輩の面倒も見なければならないし。」
ゴホン、と社長は一つ咳払いをし、続けた。
「もちろん、訓練所から戻ってきてからも歌手として、アイドルとして今まで通りに活動してもらうつもりだ。だが、君たちも二十台後半から三十代に差し掛かっている。これからは演技もできた方がいい。実力派アイドルになって、更に大きくなった君たちを見てみたいのだ。というわけで、後はよろしく頼むよ。」
最後はイッセイさんに向かってそう言い、社長は去って行った。
俺たち四人は顔を見合わせた。みんな悲壮感が漂っている。
「ふふ、あは、あははは。」
テツヤが笑い出した。それを見て、皆も何となく笑った。
「あははは。」
「あーはははは。」
「はははは。」
笑うしかない。
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