229話 勉強合宿 その2
皆がお茶等を片付け、勉強道具を出している間、俺はラウちゃんをトイレに繋がっている一階の廊下へと連れ出した。
「くどぉ〜」
「ちょっと、ちゃんと立って!?」
連れ出したは良いが、すぐに倒れそうにふらつくラウちゃん。
俺と同じかそれ以上の身長があるラウちゃんをしょうがなく両手で肩を支えることになった。
「『魔乳天使と微乳悪魔のリリィハート』……でしょ?」
「っ!?」
俺からその言葉を聞いた瞬間、ギンっと目が見開き、俺の瞳を見返した。
ふらついて力が入っていなかった体勢も今はしっかりと地に足をつけていた。
「コ、コスプレ……OKもらったのか……?」
俺が掴んでいた肩を返すようにして逆に俺の肩を両手で掴んでくる。
「いや、まだ。でも今日はメンバー揃ってるでしょ?」
「ん」
「だからこの合宿で皆を誘うんだ。俺だけで話すより、ラウちゃんも一緒に説得したほうが伝わると思って」
「ほう……確かにそちらのほうが……確実かも」
今回、皆を誘った理由は勉強の他にもコスプレの件を話そうと思ったからだ。
正直あの変態的な衣装は俺だけで誘うには難しいと感じた。だからラウちゃんも一緒にいたほうが良いと思い、今回は誘った。
いつも授業で寝ている彼女の成績も心配だしね……。
「うん。だからさ、今だけでも勉強頑張ってみようよ。眠たいかもしれないけど」
「……どうしよう」
「人が頑張ってる姿ってさ、意外と見てるもんだよ。ラウちゃんが勉強頑張ってるところ見せたら、皆もYESって言いやすくなると思う」
「ん〜…………わかった」
少しだけ考えた様子を見せたが、コスプレのためと思うと良い返事をくれた。
その返事を聞いて俺は軽く息を吐いた。
勉強なんてなんのためにやるのか。
そんなこと考えながら勉強をしている人はほとんどいないだろう。
将来良い大学に入り、良い企業に就職してたくさんお金を稼ぐため。もしくは人を助けたいと思って医者を目指したり。陸のように医者の家系ということもあるかもしれない。
ただ、勉強を頑張る意義というのは、早い内から感じられる人はいないだろう。
焔村さんだって女優としてずっと生きていくなら正直どこまで学力が必要なのか、ということもある。
俺はルーシーが頭が良いと聞いていたから、いつかそれに並び立とうと思って頑張ってきたが、今ではテストで点数を取る快感のためだったり、ルーティンになっているので勉強をしているという感じだ。
そういった勉強をする理由が今のラウちゃんにはないと思われる。優先順位が限りなく低いのだ。
何よりもコスプレが大事だと前に話した時にわかっている。
だからそれを少し勉強に繋げることができれば、留年はしないだろう。
「なら、コスプレのために少しだけ勉強頑張ってみようよ」
「ん……」
頭を動かさず、喉の奥から出した一文字だけで返事をくれた。
話したい事を話し終えた俺はラウちゃんとリビングへと戻った。
◇ ◇ ◇
「んん〜〜〜〜。わからねえ……」
テーブルに広げたノートの上で計算式を書きなぐるも、それが合っているかどうかわらかず唸り続ける家永。
坊主頭をカリカリと掻きながらじっと下を見つめていた。
「家永くん、どこわからない?」
「ほ、宝条さんっ!?」
ルーシーに声をかけられた家永があまりにも驚きすぎて、声が裏返っていた。
「わからないところあるんだよね? 私で良かったら!」
「ぜぜぜぜぜ、ぜひ! こ、ここの教科書の問題を復習してるんだけどわかんなくて……」
ルーシーが後ろから家永に近づき、教科書を見せてもらう。
その時、ルーシーが近すぎたせいか家永の顔が赤くなり、鼻をヒクヒクさせていた。
ルーシーは問題を見るとすぐに答えが分かったようで、つらつらと家永に説明してあげていた。
家永は聞いてはいたが、ぼうっとした表情だったのであれでは頭に入っているのかは微妙なところだ。
「光流くん〜、良いの〜? ルーシーあんなに近づいてたよ?」
すると家永とルーシーを見ていた俺の隣に座る真空が肘を当てながら耳元で小さく声を出してきた。
「良いのって言われても……普通に勉強教えてるだけだし……」
「坊主ってよく見ると触り心地良さそうだし、ルーシーも案外好きかもよ?」
「えっ、そうなの!? 俺も坊主の方が良いのかな……」
「いや、そこじゃないでしょ」
「え?」
俺は真空が思っていたことと違う発言をしたようだった。
確かに他の男子と距離が近いのは嫌ではあるけど、俺も少しはルーシーのことがわかっているつもりだ。
「ルーシーが頭撫で撫でとかするかもしれないじゃん。嫉妬しない?」
「嫉妬はするかもしれないけど、多分ルーシーってそれだけで人を好きになったりしないと思う。だからいちいち気にしてちゃしょうがないよ」
「つ、つまらんっ!」
真空は俺にもっとあたふたするような態度をとってほしかったのか、そんなことを言う。
俺たちには五年分の想いがある。多分、真空にだって理解できない深いところで俺はルーシーと繋がっている気がしている。
だからそう簡単にルーシーは人を好きになったりしないと思う……そう、信じたい。
「朝比奈さん……喋ってるのはいいけど、こっちも教えてもらっていい?」
「あ、火恋ちゃん。ごめんごめん」
「ひ、光流も樋口さんに休憩あげたら? 目がギンギンになってるよ」
焔村さんがわからないところがあったようで、隣に座っていた真空にそんなことを聞いた。
さらに俺は指摘された通りラウちゃんの方を見ると、眠たいのを我慢してか、無理やり目を開いているようだった。
既に勉強を開始してから二時間が経過している。
一旦休憩しても良いか。
「――で? 火恋ちゃんは、いつ光流くんこと好きになったの?」
そんな時、真空がとんでもないことを焔村さんに耳打ちしていた。
近くにいたので俺はその声が聞こえてしまったのだが、なんてことを言うんだ。
「なにをっ!?」
「今日の夜は恋バナ大会だね。楽しみだな〜」
「あなたの性格が悪いことはもう理解したわ……っ」
焔村さんは顔を赤くしながら、真空を睨んでいた。
でもそれは、本当に嫌っているような目ではない。焔村さんはちゃんと俺がお願いした通りにルーシーたちとは仲良くする気があるようだった。
◇ ◇ ◇
休憩を挟みながら勉強を続けていくとお昼の時間になった。
この別荘には車のガレージの前に少しスペースがあり、そこでバーベキューなどもできるようテーブルセットも用意されていた。
だから今回、お昼は最初からバーベキューをしようと決めていた。
食材は既に設置されてあるどデカい冷蔵庫の中に入っていて、野菜を切りさえすればすぐにでもできる状態。
俺たちは手分けして準備を進め、外でバーベキューを行った。
「うんめ〜っ!! 美少女に焼いてもらう肉がこんなにうまいとは……! 俺は二学期になる前に死ぬかもしれねぇ!」
ルーシーや真空が焼いてくれた肉を頬張り、家永がこれ以上ない幸せを感じていた。
今日は家永がよく叫ぶ。
少し前に真空や冬矢に言われていたのに、もう所構わず自分が思ったことをそのまま発言していた。
これは純粋と捉えるのか、感情を制御できていないと捉えるのか、それとも……。
でも、彼が幸せそうなのは確かだった。
「お前、肉すり替えられてても喜ぶだろ。例えば俺が焼いた肉でも宝条さんがそれを運んだら喜ぶだろ?」
「夢のないことを言うんじゃねぇ! ……でも、喜ぶと思う」
「ほんっと、お前は……」
堀川が確かに夢のないことを話したが、誰が焼いたかわからないのではれば、そのまま受け取るしかないだろう。
それにしても堀川は家永と違って、普段から落ち着いている。
「堀川って、女子に抵抗ないというか、普通に話せるよね」
「ああ、姉がいるからな」
「そうなんだ! うちと同じだ!」
「ははん。だから九藤は女子とも普通に話せてたわけだ」
「あ〜、そういう考えもあるのか。確かに姉弟に女性がいると、そういうこともあるかもしれない」
「なんで俺は男しか兄弟がいねえんだよっ!!」
堀川の話は的を得ていた。
俺もそこまで女子と話すことに対して抵抗があるわけじゃなかったと思う。
幼少期からも自然と話していたし。姉はもちろん鞠也ちゃんの存在も大きかったかもしれないな。
「はい、光流のお肉だよ〜」
「ありがとう」
そう会話していると、ルーシーが良い感じに焼いてくれたお肉をお皿に乗せてくれた。
俺はそれを箸で掴みタレをつけて口に入れた。
まだ熱々の表面。肉を舌を転がしてハフハフしながら食べると、焼き肉のタレがついた濃厚な味が舌を唸らせた。
すかさずライスをかき込み、濃厚な味と相殺。――頭を使ったあとだからか、より美味しく感じた。
「うめ〜〜〜」
「ふふ。良かった」
ルーシーが天使の笑顔で微笑んだ。
「私のお肉も食べなさい光流っ」
「うおう」
次にしずはが自分が焼いた肉を俺のお皿に乗せてくれた。
俺はその肉を箸で持ち上げると、少しだけ生焼けのように見えた。
どちらかと言えば俺はミディアムからウェルダン派だ。レアはなんだか恐いというか、お肉の中にもたくさんの細菌がいるらしいし、できれば全て死滅させて食べたい。だからたくさん焼いてくれたほうが嬉しいのだ。
「食べないの?」
しずはに凄まれる。同じくルーシーもこちらを見ていた。
そんなに見つめられても……。
「いただきます……」
食べた瞬間、焦げがほとんどない滑らかな食感を感じた。
悪くない味だった。
ただ、やはりレアは恐い。
「美味しい……ありがと」
「ほんと〜?」
「ほんとだって」
しずはが疑ってきたが、レア自体はれっきとした肉の焼き方だ。俺は言葉を濁した。
好みの問題だから、そこはしょうがないよな。
「ちょっと、あんた全然食べてないじゃない。冷えたお肉は美味しくないでしょ」
「ん……食べさせて」
「はぁ〜〜っ!? なんで今日は委員長がいないのよ。いつもあの子がこの子のお世話してるでしょうに」
焔村さんがラウちゃんの隣に座ったせいで、彼女のお世話係になっていた。
ラウちゃんは午前中でほとんど体力を使い果たしたのか、無気力になっており食べる力もないようだった。
彼女はクラスでは委員長である的場さんがいつも気にかけてくれて、特に移動教室の時は声をかけて一緒に行ったりしている。
俺は的場さんとはほとんど会話をしたことがないので、今日という場に呼ぶことは頭になかったが、確かに彼女を率先してお世話してくれるのは的場さんしかいないかもしれなかった。
「俺も面倒見るから、焔村さんも自分のお肉食べて」
「光流……」
誘ったのは俺だ。
コスプレをする承諾をとるという目的はあるが、できるだけ皆には楽しんでもらいたい。
「あと、野菜もちゃんと食べた方良いよ」
「ピピピ、ピーマンは見た目から美味しくないじゃない! 緑だし焼いてタレつけたくらいじゃ美味しくなるわけない!」
好き嫌いがない俺からすると、野菜だけを避ける理由があまり理解できないのだが、肉だけを食べるのは非常にもったいないしバランスが悪い。
野菜とも一緒に食べることでまた違う味も楽しめるのだ。
昼食後は午前と同じように休憩を取りながら勉強をし、夕食はカレーを作ることになった。
なんというか、合宿の定番料理ではある。
人数も多いので、手分けして料理をしたので俺はほとんどすることがなく、座っているだけだった。
その間ラウちゃんはソファで完全に睡眠していた。
夕食後は朝から夕方までみっちりと勉強をしたので、お風呂に入る時間までは自由時間とした。
しずはは用意されていたピアノ部屋へと行き、ラウちゃんは空き部屋を借りてコスプレ衣装を作りに行った。
ちなみにお風呂の後でコスプレの話をしようと考えていたので、何をするために部屋を借りるのかは言わないで借りていた。
そうして数時間後、お風呂の時間がやってきた。
◇ ◇ ◇
「風呂すげええー!」
大浴場に入るなり家永が叫ぶとその声がお風呂場の壁に反響した。
既に案内はされているが、実際に中に入るとその凄さを感じる。
「ルーシーの家よりも少し小さめだけど、ここも凄いな……」
「おい、なんか聞き捨てならないことが聞こえたぞ!!」
「あ……」
ルーシーの家のお風呂に入ったことがある話をしてしまった。
つい、二つの家のお風呂を比べるような発言をするなんて俺は……。
「おいおい光流。それは俺も聞いてないなあ。どう言うことか聞かせてくれよ」
「そうだそうだ! なんで冴えないお前が……!」
「冴えないは余計だ」
二人から色々とつつかれたが、とりあえず体を洗ってからに話をすることになった。
「てかさ、金剛お前……本当に男だったんだな……」
俺の話が追求される前、湯船に浸かる時のことだ。
特にタオルなどで前を隠しているわけでもない俺たちは互いのアソコを見ることになった。
「な、なにさ。僕はずっと男だよ!」
恥ずかしそうな様子で急いで前を隠したやまときゅん。
仕草からもう女子並みに可愛い。
「いや、そうなんだけどよ。お前、かなりデカいんだな」
「でっ!?」
そう、これには俺も驚きだった。
やまときゅんの砲台は今風呂に入っている五人の中でも一番大きかった。見比べるまでもなく、一瞬で判別つくほどだった。
華奢な体に可愛い顔からは想像もできないほどの凶器だったのだ。
「俺たちの中で一番男らしいのは金剛だったとはな」
堀川が腕を組みながらやまときゅんを褒める。
「うん。これは男だ」
「光流もなかなかだと思ってたんだけどなあ。上には上がいるもんだ」
「師匠に池橋くんまで……」
俺も周囲と比べると大きいらしいのだが、やまときゅんはその名に恥じないイチモツを持っていた。
そんなもの持っているなら自信満々にしていても良いのに。普段見えないから自信を持ってもしょうがないかもしれないが……。
「それはそれとして、さっきの話はどうなんだよ九藤。宝条さんの家のお風呂を借りたんだよな?」
睨みつけるようにこちらに視線を送る家永。
「いやいや、お風呂はともかく、冬矢だってバンドの練習でルーシーの家には何度も行ってるんだよ?」
「でも風呂は借りてないんだろ?」
「俺は入ったことないな」
「ぬぬ……」
すぐには納得してくれないようだ。
ただ、あの社交界での話はあまり大勢にする話でもない。冬矢に話すのは良いが、家永は知り合ってまだ浅いし口が軽そうなイメージがある。
「理由は言えないけど、入ったことは入ったよ。別にやましいことは全然ないって。普通にお風呂に入っただけなんだから」
大嘘である。
俺が意図したことではないが、やましいことしかなかった。
ルーシー、真空、オリヴィアさん、牧野さん、及川さん五人の裸を見た挙句、最後には俺の俺が反応してしまい、ルーシーのお尻にタオル越しとは言え当たってしまっていた。
正直あのお風呂の出来事は、忘れたくても忘れられないくらいだ。
女性の裸を最後に見たのは小学生の時に鞠也ちゃんとその母とお風呂に入った時以来だ。いや、あの時もできるだけ目を瞑っていたし、ほぼ見ていないと言っても良い。
でもルーシーの家のお風呂での出来事はちょっと刺激的過ぎて、すぐに忘れられるわけもない。
「本当か〜? まさか一緒にお風呂入ったりしてないだろうな〜?」
「入ってないって! ほんと信じてよ」
「まあ、ここで聞いたところで入ったかどうかなんてわからないよな」
すると堀川が少し俺に理解を示すように話を終わらせようとしてくれた。
「潤太、そんなに気になるなら直接宝条さんに聞いてみたらどうだ?」
お前なんてことを!
と、俺が口に出すとバレたようなものなので口に出せはしないが、そんな気持ちで言葉を飲み込んだ。
「バカ聞けるかよ! 九藤と一緒にお風呂入りましたか? なんてそれこそ変態じゃねーか!」
確かに。知り合ってばかりの相手にそんなことを聞く男子など、嫌われて当然だ。
「宝条さんと九藤に何かしらあるのは見ててわかるけどさ、やっぱ羨ましいよなぁ」
「なら、何か本気でやってみなよ。野球でもなんでも。ルーシーだけじゃないけど、そういう姿勢の人ってどこか人目を惹くんだよ多分。俺がそうだって言いたいわけじゃないけど、努力できる人ってかっこいいと思わない?」
ちらりと冬矢を見ながらそんなことを言ってみた。
それは俺が努力できる人が好きだから。
努力できる人は、嬉しいことも辛いことも経験できるし、そういう経験をした人は、人として成長しているように見える。
成績が悪かった理沙たちだってそうだ。
今まで本気で努力なんてことをしてこなかったと言っていた理沙と朱利。
その二人でも、正直受かるとはとても思えない秋皇に受かった。
彼女たちの本気で勉強する姿に、俺だって心を打たれたし、受かったと聞いた時には心の底から嬉しかった。
家永のことはあまり知らないけど、秋皇に受かるくらいだ。彼だって努力することの大切さは知っているはずだ。
「光流の言うことは最もだ。見た目以外で人を惹きつけたいと思うなら、何か一つでも頑張ってみることだな」
冬矢が俺の発言を後押ししてくれる。
彼も俺が尊敬する努力人だ。サッカーの時とは方向性が違うけど、今やバンドの曲作りだって彼がいなくてはできない。
「そっかぁ。俺のことなんて、誰か見てくれるのかなあ」
「そういうことじゃないんじゃないか? 何かを頑張った結果、誰かが見てくれるかもしれないってことだろ。女の為にやるのも良いけど、その結果、自分に視線が向くってこと忘れちゃあな」
堀川はなかなか理解が深い。
今日の勉強だっていつの間にか彼は教える側に回っていたし、地頭が良いんだろう。
「意外と坊主が好きって女も多いぜ? 家永はスケベが前に出過ぎだけど、明るいからその調子で普通に色んな女子と話しかけたら良いと思う」
「俺もお前らみたいに髪伸ばしたいよ……。まあ、このクラスは宝条さんたち以外にも可愛い子多いし、堀川とばっかり話しててもしょうがないよな」
と、言いつつも家永は近くの席の女子とはたまに話したりはしている。
女子と話すのが苦手そうなことを言っておきながらも話す時は話せるのだ。
俺はそこまで心配していない。
ただ、変態的な言葉を教室で言わなければ良いだけ。
「師匠たちの話……為になります! 僕も部活もっと頑張ります!」
「やまときゅん。……そういえば、あの後、どう……?」
やまときゅんが目をキラキラさせながら両腕を上げて、ぞいポーズさせていた。
俺は遠藤さんとのその後が気になった。進展したのだろうか。
「あ……友希ちゃんのことですよね。まだまだそんなに……ですね」
「そっか。でも、やまときゅんなら絶対大丈夫だからさ、自信持って良いと思うよ」
「……はいっ!」
以前一緒にクレープを食べた時にルーシーから遠藤さんのことは聞いている。
実は二人は想い合っていて、おそらく二人のどちらかが勇気を出せば、付き合える関係だと。
やまときゅんはなぜか俺を慕ってれているし、その恋愛を成就させてほしい。
その後、ルーシーたちもお風呂に入るとのことで、そんなに長居せずに風呂からあがった。
今回は男性陣が先にお風呂をいただき、女性陣が後から入ることになっていた。
家永は女子の後に入れたら最高だったのにと変態発言をしていたが、だからこそ女性陣は後の方にしたのかもしれないと思った。
◇ ◇ ◇
「おっふろ〜っ!」
真空が大きな胸をばいんと揺らしながら、一番に浴室へと突入した。
「絶対バーベキューで髪も体も臭くなってる! 早く洗って浸かろうっ」
バーベキューを友達とこんなに大勢できるなんて、昔じゃ考えられない出来事だ。
しかも今回はいつものメンバー以外にも四人も加わってのこと。
嬉しい。楽しい。
自分のお家の別荘にこんなにも人が集まるなんて。
だからか、みんなに喜んでもらおうとたくさんお肉を焼きまくってしまった。
男性陣もいたので、ちゃんとお肉を食べてくれたのは良かったけど、少しだけ反省だ。
「本当に旅館というか、ホテルというか。すごいお風呂ね」
「すっごーい! 私こんなの初めて!」
火恋ちゃんと友希ちゃんが真空に続いて浴室に入ると驚きの声をあげた。
「ほら、ラウラちゃんも」
「んー」
常時眠そうだったラウラちゃん。
モデルさんみたいに背が高く、スマートな体型。私よりも外国人顔で本当に綺麗だ。
無気力さがなければ完璧に見えるが、このアンバランスさがどこか彼女を放ってはおけないような気にさせる。
「勉強してピアノしてクタクタだよ……」
「どうせ、寝る前までにまたやるんでしょ?」
「まあね。まだ時間はあるけど、やれることは全部やりたいから」
「私は次のコンクールは少し先だからあんたみたいにないけど。ぶっ倒れないようにしなさいよ」
「わかってる。今まで倒れたことないし大丈夫」
しずはと深月ちゃんがピアノの話をしながら浴室へと足を踏み入れた。
二人共素敵な体型をしているが、やっぱりしずはの体型は凄い。私と同じくらいの大きさを持っていて、かつスラリとした体型。
身長も高すぎずちょうど良いくらいだし、純日本人としていちばんモテやすいのがしずはみたいな子なんだろうとは思う。
「ちょっとルーシー。ジロジロ見すぎじゃない?」
「あ、バレた? 良い体だなって」
本当にジロジロ見ていたらしずはに指摘されてしまった。
「てかあんたに言われると褒め言葉に思えないんだよね。どう見ても私よりも良い体してるじゃん」
「そ、そうかな?」
「下着の付き合いは学校の更衣室であっても裸の付き合いは初めてだしね。見ちゃうのはわかるけど。それにしても肌の色素的にもムカつくほど綺麗でムカつく」
「ムカつくって二回言った!?」
確かに私は母親の血のせいか、色白さが他の皆よりも特に目立つ。
でも、しずはだって色白だと思う。
「今日海行きたかったな〜」
すると先に体を洗い出した真空がそんなことを呟いた。
「海まで入ったら本当に疲れて勉強どころじゃなくなってたと思うよ」
「そうだけどさ〜」
「明日終わってから行く予定なんだから良いじゃん」
別荘の前には海が広がっている。
今日だって結構な晴天だった。だから海に行きたいという話は出ていたのだが、メインは勉強だ。
料理も使用人たちを呼ばずに自分たちですると決めていたので、そういった疲れもあるだろう。
なので、勉強に支障がでないよう海へ行くことは我慢して、明日にすることにしていた。
といっても海に入るにはまだ気温が低い。
水着になって入ったら凍えてしまうだろう。だからほんの少し足を入れるだけだ。
そうして私たちは全員体を洗ってから浴槽へと入った。
七人全員が入れる大きさだ。
「ん……。日焼け跡……良いかも知れない。でも、今回は流石に無理か……冬を目指して……でも冬だと……」
私の横でラウラちゃんが友希ちゃんを見ながら変な呟きをしていた。
陸上部でいつも外で練習しているからか、日焼け跡が凄い。
焼けていない部分は意外と白くて、日焼けしなかったら印象が全く違うんだろうなと感じた。
「ほら、火恋ちゃん。言っちゃいなよ。こっちだって面白いネタあるんだから。情報交換しよ」
真空は火恋ちゃんにぴったりとくっついていて何かを聞き出そうとしていた。
確かに私もとっても気になったことだ。
火恋ちゃんを呼んだのは光流だ。しかも火恋ちゃんは光流のことをいつの間にか光流と呼んでいて、彼を見る目がどこか乙女だった。
少し見ればわかる。火恋ちゃんは光流のことが好きなんだって。いや、まだそこまでいっているかは微妙なところ。
でも、最近そう思う出来事があったのだと、言わなくても感じた。
少し前にはなぜか謝ってきたし、もしかするとそのことが関係しているのかも知れない。
私の知らないところで、光流がまた助けてくれていたのだろうか。
もしそうだったら、どこまで彼は私に……。
「あなたね、パーソナルスペースって知ってる? 近い! 近いのよ!」
「女子同士にパーソナルスペースなんてないじゃんっ。ね、ルーシー?」
「考えたことなかった。いつも真空とくっついてるし」
「これだから帰国子女組は……」
光流とだって、くっつく機会は結構あった。
さすがに私も男の子との距離感がおかしいとは思ってはいるが、五年前のあの時から彼の温もりがずっと欲しかった。
やっと再会できた今、それを欲するのは当たり前のことではないだろうか。
「ルーシー。冬矢に変わって言うけどね。光流、ああ見えてモテるよ。ほら、焔村さんだって、樋口さんだっていつの間にかここにいるでしょ? しかも光流が呼んだっていうじゃん。そういうこと……」
「ああ見えてというか、私はそうじゃないかってずっと思ってたよ。だって……」
「ほんっと、のっぺらした顔のくせにね」
「藤間さん、まさかあなたも……?」
「そうだよ。悪い?」
「え……え……光流、そんなにモテるんだ……」
火恋ちゃんがしずはも光流のことが好きだって気づいた。
私のことも言わなくても好きだって思われているだろう。
「ほらほら〜。もう皆に気持ちバレてるんだから、光流くんと何があったのか吐いちゃいなよ〜」
「…………ここじゃ無理。布団に入って電気も暗くしなきゃ無理!」
「恥ずかしさを少しでもなくすためか……」
「言葉にしなくていいっ!」
寝る前に火恋ちゃんからの話を聞けることになった。
本当に二人の間にはどんなことがあったのだろう。
私は火恋ちゃんをよく知らないが、彼女は女優をしているという。
つまり芸能人だ。
とっても凄い人。なのにこうやって話すと普通の女の子で可愛い。
女優は生半可な気持ちではできないと思う。だって、色々な人が関わって一つの作品が出来上がる。
その中で迷惑をかけないように、そして素敵な演技をしなくてはいけないはず。
学校ではほとんどわからないが、多分彼女も陰で努力している人なんだ。
だから、光流だって彼女のことを放ってはおけなかったのだろう。
その後、私たちはお風呂から上がって、女子の大部屋へと集まった。
髪を乾かしたりたり、肌のケアをしたあと、コンコンとドアをノックする音が鳴った。
「――ちょっと良いかな?」
光流の声だった。
皆に大丈夫かと聞いてから、光流に入っても良いことを伝えると、一人で私たちの部屋にやってきたようだった。
「今からお願いがあるんだ。少しだけ時間がほしい」
少しだけ、ドキッとしながら、お願いとは何だろうと思考を巡らせた。
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