213話 焔村火恋の恋の味 その1

 どの服を着ていこうか悩む。


 クローゼットに並べられた大量の服を眺めながら、私は今日のコーディネートを決めあぐねていた。


 この大女優になる予定の私と食事に行けるだなんて、あいつも今頃喜んでいることだろう。

 最初は拒否はされたが、私の美貌に押し負けたと言っても良い。そうに違いない。


「あいつって、どんな服が好みなのかしら……」


 堕とすつもりなら、攻めた服装をするしかない。

 私は一つの服を手にとり、着替えてみた。


「せ、攻めすぎかしら……? いや、これくらいはしないと」


 体のラインがはっきりと出る淡い紫色のオフショルニット。

 そして下はぴったりとした黒のミニスカ。


 誰かに見られて面倒くさいことにならないよう、キャスケットにサングラスも必要だ。靴はレザーのブーツで良いだろう。


 私は等身大の鏡で自分をチェックする。


 うん、これで行こう。

 

 

「あら、火恋ちゃん。今日はどうしたの。そんなに可愛い服装して」

「ママ……別に良いでしょ。こういう日もあるの」


 カバンを持って外に出ようとしたら、ママにそう指摘された。

 今日はあいつと食事に行くなんてことは言っていない。言ったら面倒くさいことを言われそうだからだ。


「そうなの。――じゃあデート頑張ってきなさいね」

「はぁぁぁっ!? な、なに言ってるのママ!」


 意味がわからない。なぜデートだとわかるのか。


「カマをかけてみたんだけど、本当なのね」

「……っ! バカぁっ!」



 私は顔が赤くなり、そのまますぐに家を出た。



「ふふ。あの子ったら可愛くなっちゃって。相手はあの子かしら……」



 家の中で母がそう呟いている気がした。




 ◇ ◇ ◇




「こんにちはっ!」


 焔村さんが大きい声で挨拶をしてくれた。ただ、少し裏返っていた。

 その様子から緊張が伺えた。


「えっと……今日はよろしくね」

「あ……うん。よろしく」


 明らかにぎこちない。俺もぎこちないけど。


 服についてはよくわからないが、焔村さんの肩が凄い出ている。

 さすがは女優なだけあって体型を維持しているのかスタイルもなかなかだ。

 ぴったりとした服によって体のラインがよく見えた。



「ほ、ほら。これ……」



 すると、焔村さんがスマホをカバンから取り出し、俺へと渡してきてくれた。

 そういやそういう条件で食事をすることになったんだっけ。



「あ……うん。ありがとう」



 ただ、これだけでは俺は彼女を信用していない。

 気を悪くするかもしれないが、今日は必要なことなのだ。


「焔村さん。他にも何かないか調べさせてもらって良い?」

「し、調べっ!? 他にどこを調べるのよっ」


 スマホを預ければいいと思っていたのか、表情に動揺の色が見えた。


「服とかカバンとか……」

「ま、まぁ良いわ」


 渋々ながらも了承してくれた。


 まずはカバンの中を見せてもらった。

 そこにはメイク道具やハンカチ、小さいボトルに入った香水のようなもの。

 他には財布、ハンドクリーム、家の鍵、ウェットティッシュなど。

 特にボイスレコーダーのようなものはなかった。


「ありがとう。じゃあ回って見てもらえる?」

「回るっ!?」


 彼女の服も確認しないといけない。

 だから一回転してもらい、スカートのポケットも見せてもらった。


 結果、問題はなさそうだった。


「こ、これで満足した?」

「うん。疑ってごめんね。でも……わかるでしょ」

「まぁ……」


 体育倉庫での出来事はまだ記憶に新しい。

 彼女も自分があそこまで言ったことに対して、理解しているはずだ。

 なら、自分が調べられることもしょうがないと思っているはず。



「じゃあ行くわよっ」

「うんっ」



 俺たちは目的地に向かって歩きだした。




 …………




 今日は焔村さんが色々と場所などを指定してくれた。


 俺はそれにただついていくだけなのだが、なぜか焔村さんの距離が近い気がする。

 しかも今日は香水の匂いなのか、学校で彼女と話した時とはまた違った匂いがした。



「きょ、今日は良い天気ね!」

「あ、うん……良い天気だね」



 なんというか、会話がおかしい。

 天気は良いのだが、わざわざ天気が良いことを話題に出す人は少ない。


 でも、少し彼女が頑張って会話しようとしているような意志を少しだけ感じた。

 まだ俺のことは嫌いだろうに、それを我慢しながら会話しようと頑張っているのだろうか。


 今日は前回、ナンパから助けたお礼という名目だ。

 多分、家でも親にでも言われたのだろう。焔村さんの母親はそんな感じで話していたし、焔村さん自身も色々言ってはいたが、母親の言うことをちゃんと聞くような子に見えた。


 俺だって、今日は彼女と仲良くなって最終的にはルーシーたちに手出しをしないようにさせたい。



「…………」



 会話がうまく続かなかったので、少しの間無言になった。

 だから俺は何か話題を提供するため赤信号の前で考えようとしたのだが――、



「――焔村さん?」



 焔村さんがなぜか止まらない。

 赤信号なのに横断歩道を渡ろうとしていた。


 話が続かないことに上の空になってしまったのか、もしくは別のことを考えていたのか。

 俺には知る由もないが、あと一歩で車道へと足を進めるところまできていた。



「焔村さんっ! 危ないって!」

「きゃっ!?」


 だから俺は焔村さんの腕を強く引っ張って、歩道へと引き戻した。


 その反動で、俺は焔村さんを抱きしめる形になってしまったが、これはどうしようもなかった。

 そして、一言言いたかった。


「危ないよ! ちゃんと前見て! こんな、一緒にいる時に事故なんてダメだよ!」


 少し強めに言ってしまった。

 だって、俺にとって事故というのは、人よりも深く心に刻まれているキーワードで、そして俺の手の届く範囲ではもう事故なんてものが起きてほしくなかったから。


「あっ……あっ……」


 焔村さんは何が起きたのかよくわかっておらず、気が動転したように目が見開いていた。


「ご、ごめん。言い過ぎた」


 すると次の瞬間には、焔村さんはその場に崩れてしまった。


「ほ、焔村さん!?」

「わ、わたし……ご、ごめん、なさい……」


 すると、目に涙を浮かばせはじめ、動けなくなってしまった。


 ずっとこの場にいても、他の歩行者に迷惑だった。

 だから、俺はなんとかして焔村さんを立ち上がらせ、近くにあった公園のベンチへと移動させることにした。




 …………




「――落ち着いた? ほらこれ。コーヒー」



 公園の自販機で缶コーヒーを買い、放心状態でベンチに座っていた焔村さんに渡した。


「うん……」


 俺は焔村さんの隣に腰を下ろし、自分の分の缶コーヒーを開けてそれを喉に通した。


 隣を見ると、焔村さんはまだ缶コーヒーを持ったままで開けようともしなかった。

 何かショックを受けているみたいに、意気消沈していた。



「――私のおじいちゃんね。交通事故で亡くなったの」



 すると、突然焔村さんがそんなことを語りだした。

 彼女がこうなった理由がわかった気がした。


「もうずっと前のことなんだけどね。その現場を見たわけでもないのに子供ながらに恐怖を感じたの」


 つまりトラウマということだろうか。

 こういったことは、自分に起きると思っている人は少ないだろう。


 実際に事故に遭ってしまう人というのは、世の中のごく少ない人。

 でも、一度自分がそんな経験に遭うとしばらく怖くなってしまうのかもしれない。


「自分にそんなことが起きるだなんて思いもしなかった。それで、事故で酷い怪我になって、女優の仕事ができなくなったらって考えて……」


 あぁ、そういうことか。

 彼女は彼女なりに本気で凄い女優を目指している。


 一番の恐怖は事故ではなくて、仕事ができなくなることだったんだ。

 事故というのは最悪、二度と歩けなくなることだってあり得る。

 そうなれば、彼女にとってショックだけでは済まされない。大きな深い傷を残したまま生きていかなければいけなくなるだろう。


「そっか。でも良かった。今焔村さんの体は無事なんだから」

「うん……」

「じゃあ元気出しなよ。今日は食事なんでしょ? 食事って明るくするものだよ。暗いままの食事は良くないよ」


 我ながらなんて強引だと思った。

 暗くなっている人がそう言われてもすぐに切り替えられるわけがない。


「……今日は辞めておこっか。焔村さんの状態も心配だし」

「い、いやっ!」


 しかし、その暗い表情とは裏腹に帰るという選択肢は彼女にはなかったようだった。

 でも、なぜ……。


「一緒にいて……。今、一人になりたくない」

「家に帰れば家族いるんじゃ……」

「そういうことじゃない。とにかく私を無理やりにでもお店に連れていって」


 女の子のことがよくわからない。

 焔村さんの今の気持ちが全くわからなかった。


 でも、帰ろうとしないなら、もうお店に連れて行くしかない。

 俺は缶コーヒーを飲みきって、それをゴミ箱へと捨てた。


 そうして、焔村さんの体を無理やり立たせた。


「じゃあ行くよ!」

「うん……」


 なんて幸先の悪い食事会なんだ。

 この状態で食事なんてできるわけもないし、彼女だってちゃんと会話ができるだなんて思えない。


 俺はどうすれば良いかわからないまま、歩き出した。

 しかし――、



「え……」



 俺の左手が何かに触れた。

 視線を落としてみると、それは焔村さんの手だった。


「え、いや……これ……」


 つまり、俺は焔村さんに手を繋がれていた。

 ちょっとさすがに手を繋ぐのはマズい。


 だから申し訳ないと思いつつ振りほどこうとしたのだが――、


「ダメっ! このまま……」

「だって……」

「このまま握ってて!」


 少し強い口調になった。

 一応、力を込められるくらいには元気はあるようだった。


 俺はその場でため息をついた。

 そして、条件をつけた。


「……お店までだからね」

「うん……」


 下を向いたままの焔村さんが、その条件に同意した。


 一刻も早くこの手を離さなければいけない。誰かに見られたら困るのだ。

 二人で一緒にいるならまだしも、手まで繋いでいたとなれば、もう言い訳ができない。


 しょうがなく俺はお店まで焔村さんの手を繋いで歩くことにした。




 …………




 焔村さんが指定したのは、あるショッピングモールの中のカフェだった。

 ランチメニューがあり、そこで昼食をとるといった予定らしい。


 その焔村さんと言えば、中に入ってやっと落ち着いてきたのか、暗い表情を少しずつ取り戻していった。



「九藤……さっきはありがとう」



 メニューを選んでから、焔村さんがそんなことを言い出した。

 やっと顔を上げて俺の方を向いてくれた。


「ちゃんとお礼言ってなかったから……」

「どういたしまして」


 ただ、まだまだ暗い。

 うーん。どうしたものか。


 すると、料理が運ばれてきた。

 互いに頼んだのはプレート料理。俺はガパオライスで、焔村さんはロコモコだった。


「――焔村さん、お腹空いてるでしょ?」

「うん」

「じゃあ食べないと」

「そうだね。でも……」


 焔村さんが、カチャリとナイフとフォークを取り出し、プレートに向かった。

 ただ、お腹は空いているはずなのに、口には何も入れたくないような反応だった。


 そこでおれは行動を起こした。


「焔村さんってハンバーグ好きなの?」

「あ、うん。だからロコモコにしたの……」

「じゃあいただきまーす!」

「はぁっ!?」


 俺はフォークで焔村さんのロコモコの上に乗っているハンバーグをぶっ刺して、自分のプレートへと移動させた。

 すると、焔村さんの表情が一変。少し怒ったような口調になった。


「だって、食べたくなさそうだったから」

「そ、そういうことじゃないでしょ! それは私のハンバーグじゃん!」


 先ほどまで覇気のなかった焔村さんが、俺に鋭い視線を向けてハンバーグを取り返そうとしてくる。


「食べないなら勿体ないよ。俺が食べてあげる。ソースが乗ったご飯だけでも美味しいよ?」


 現在、焔村さんのプレートの上にはハンバーグソースがかかったライスと添えられているサラダ。

 メインであるハンバーグがないとかなり寂しいプレートになっていた。


「ちょっと! 寄越しなさいよ! それ私のじゃない!」

「だめ。だって、食べないんでしょ?」

「食べる! 食べるから返しなさい! このっ! ……あ」


 俺は焔村さんのプレートにハンバーグを返してあげた。

 すると、焔村さんは怒りが収まったようで、目が点になっていた。


 そして、俺とハンバーグを交互に見ると――、


「ふ、ふふふっ。ふふふふっ」


 焔村さんが笑いはじめた。

 何がおかしかったのかわからないが、俺はただ彼女を怒らせて感情を引き出したかった。

 暗い表情よりも、いつものように怒ったくらいの方が彼女らしいと思ったからだ。


「なんだよ。ハンバーグ元に戻しただろ」

「だって……だって……」


 よくわからないが、彼女のツボに入ったらしい。

 まぁ、結果オーライだ。


「食べないなら、次は本当にもらうからね。ちゃんと食べなよ」

「わかったわよ。食べるからもうとらないで。でも、ほしいなら少しくらいはあげても……」

「ん、なに……?」

「っ……なんでもないっ!」


 焔村さんはそんなことを言いながら、ロコモコに手をつけはじめた。

 表情は元に戻っていた。

 少し口角も上がっていて、美味しそうにハンバーグを口に入れていた。


「九藤って、面白いのね」

「なんだよそれ」


 いきなりそう言われた。

 どちらかと言えば、面白いのはお前だろ。子供みたいに口にハンバーグのソースがついてるぞ。


「口にひき肉がついてるわよ」

「はぁっ!?」


 俺の口にもガパオライスのひき肉がついていたらしい。

 全然気づかなかった。


「焔村さんの口にもずっとソースついてるよ」

「気付いた時に言いなさいよっ! バカっ!」


 この方が焔村さんらしい。

 ふぅ、ひとまず良かった。


 でも既に気疲れしてきた。


 まぁ、食事が終わったら解散だろうし、良いか。

 今日の様子では、さすがにコスプレのことは話すなんて無理そうだ。次の機会にしよう。




 ◇ ◇ ◇




「はぁ……」


 あるショッピングモールの入口でため息をついていた女性がいた。

 まだあどけない表情を残す童顔寄りの顔立ち。ツンとした雰囲気はいつも通りだが、今日に至ってはそのツン度が増す日だった。


「おう〜、深月! 待たせたか?」


 若林深月の名前を呼んでそこに走ってきたのは彼女とは対象的に既に大人びた顔立ちになってきている男性。

 男なのに髪を長く保ち少しちゃらついてそうな雰囲気。

 中学の頃はサッカーで日焼けしていたが、今では焼けることが珍しく肌も白くなっていた人物だ。


「冬矢……あんたね。私を待たせるってどういうつもり?」

「すまんすまん。今日は俺の奢りだから許してくれよ」


 その人物は池橋冬矢。

 深月の少し怒った表情に両手を重ねて謝罪をする。


 二人で出かけるというのに、初っ端から険悪な雰囲気になりつつあった。

 ただ、この雰囲気もいつものこと。冬矢が遅れようが遅れまいが、大体こんな雰囲気でデートが始まる。


 デートと言っても良いのか。

 深月自身はそんなことを認めてはいないが、冬矢と出かける時だけはなぜかいつもよりお洒落に気を遣っていた。


「そうよ。私を曲作りに手伝わせるくらいなんだから、そのくらいして当たり前」

「ありがとうな。近くに深月がいてくれて助かってる」


 そう、今日はデートという名目ではなく、真空への誕生日曲を作る過程において、深月へのお礼も兼ねて食事をするという体だった。

 だから今日の食事が終わったあとは、冬矢の家で深月のアドバイスの下、二人で一緒に作曲をする予定だ。


 ただ、珍しいのは深月の大好きなキャラである『ちるかわ』が関係ないデートだったこと。

 これまでは何かと深月の好きそうなコラボカフェやグッズを調べて誘ってはいたが、今回はそうではなかった。


「まぁいいわ。とりあえずお腹減った。早く行くわよ」

「はいよ。お嬢様」

「そういうの嫌いって知ってるよね? 次言ったらヒールで足潰すわよ」

「はは。じゃあそうしてもらおうかな」

「この変態ドM!」

「ありがとうございますっ!」


 冬矢はどちらかといえばSだ。今までの女性関係からも自然とそうなってきた。

 ただ、深月に対してだけはなぜかその立場が逆転し、冬矢自身も居心地が良かった。



 そして、まずは昼食と取ろうとあるお店に入ったのだが――、



「うそ、だろ……」



 冬矢と深月が入ったカフェのようなお店。

 その視線の先には、光流と焔村火恋が二人一緒に食事をとっていたのだ。


「あいつ、俺にまだ何も言ってなかったじゃねえか」


 焔村火恋のことを相談してはいたが、今回に限っては光流は冬矢に相談することを忘れていた。

 ルーシーたちに言ってはいけないということを守るため、ごっちゃになったのかなぜか他の人にも内緒にしてしまっていた。


「……まぁそういうこともあるでしょ」


 深月はため息をつきながら、二人の姿を遠目で見やる。

 内心。しずはにチクってやろうかしらとも思ってはいるが、深月にも常識はある。

 しずはが傷つくことを深月も望んでいない。だから今回のこともチクったりはしないのが彼女だった。



「て、店員さん。あそこの席でも良いですか?」

「はい。問題ございません」



 冬矢はお店の店員にそう聞き、光流たちから死角となる席に座ることに決めた。




 ◇ ◇ ◇




「てか九藤。あんたって服のセンスないわよね」

「なんだよ。これでも頑張ってるんだけど」


 いきなりディスられた。

 姉のアドバイスの下、最近は服にも気を使いだしたというのに、焔村さんにはそう見えるのだろうか。


「私が見繕ってあげるわ。食事も済んだことだし、服屋に行くわよ」

「はぁ? 食事だけじゃなかったのかよ」

「別に良いじゃない。せっかくこの私が選んであげるって言ってるのよ」

「…………わかったよ」


 焔村さんの露出が多い服装のセンスだと、正直心配にはなるのだが、まぁ仲良くなっていると考えれば良いか。

 それにしてもなんだか言葉遣いが、変わったような……。いや、元々がこんな感じか?


 その後、カフェを出て同じショッピングモール内にあった服屋へと入ることになった。


「――これなんて良いじゃない。着てみなさいよ」

「へいへい」


 意気揚々としている焔村さん。

 また暗くなられても厄介なので、彼女に従うことにした。


 俺は更衣室に入り、焔村さんが選んだ服に着替えた。


「ふーん。なかなか良いじゃない。さすが私ね」

「そうか……?」

「そうよ。私の目に狂いはないわ」


 あまり着たことがないジャンルの服だったので、自分の目には良いのかわからないが、焔村さん的には良いらしい。

 このあと何度か服を持って来られて、着せ替え人形のように何度か着替えをして、焔村さんに見せた。



「――今日は私が買ってあげるわ」

「え? だってこれ結構値段が……」

「お礼って言ったでしょ。それに、私これでもお金持ちなのよ」


 ある程度のお金がもらえるくらいには女優として活躍しているということだろうか。

 そういえば、子役からしていたんだっけ。ということは小さい頃からお金を稼いでいたのか。


 結局、焔村さんにお金を出してもらうことになった。

 なんだか申し訳ない気にもなったが、彼女はルンルンで会計をしていた。

 彼女が良いなら良いだろうと思うことにした。




 ◇ ◇ ◇




「ちょっとあんた近づきすぎ!」

「しょうがないだろ。ここ狭いんだよ!」


 こそこそと小さい声で話し合う深月と冬矢。

 その現場は更衣室の中だった。


 昼食後、光流たちを追って服屋まで来たはいいが、見つかりそうになり目の前にあった更衣室へと二人で飛び込んだ。

 その結果、狭い空間に二人は収まることになった。


 しかもその更衣室とは、光流が使用する二つ隣。

 あまりにも近かった。


「マジでどうなってんだよ……服まで選んでもらってるぞ」

「これは黒ね。ルーシー一筋じゃなかったのね」

「そんなわけねーだろ」


 そもそもルーシーとは付き合ってはいない。

 しかし相思相愛だと冬矢も深月もわかっている。


 だからこの状態は浮気ではないか。そう疑っている。

 特に焔村のほうはとても楽しそうに光流の服を選んでいて、二人の関係を知らない人からすれば彼女に見えてもおかしくなかった。


「まぁ、良い。あとで光流に直接聞くから。それまで誰にも言うなよ」

「……わかってるわよ。どうでも良いけど、曲作らないの?」

「しゃーねえ……帰るか」


 冬矢はもっと光流たちを追いたかったが、深月を呼んだ手前、本来の目的である曲作りをすることを優先した。

 光流のことも優先はしたいが、今日はそこまで緊急性は感じなかった。


 ただ、このあと問い詰めるつもりではあった。


 





 

 ―▽―▽―▽―


この度は本小説をお読みいただきありがとうございます!


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