150話 ルーシーの友達
リムジンはルーシーのお家のものではあったが、なぜかジェントルマンを気取ってしまい、先に乗り込んだ。
そしてルーシーの手をとって中に優しく引き込んだ。
改めて車内の中を見ようとすると――、
「真空……」
「……ッ!? ルーシーっ!!!」
ルーシーが友達と思われる子の名前を呼ぶと、その友達が急にルーシーに抱き着いた。
「ルーシーっ……ルーシーっ!! 顔が……顔が……っ!! 私、わたし……っ」
この反応で理解した。
大切な友達とも言える人にも素顔は見せていなかったのだ。
俺に見せるまで、ほとんどの人には見せてこなかったことがここで確信に変わった。
多分、完全に治ったのも少し前だったに違いない。
でも、俺のためにずっと包帯をしたままでいてくれたんだ。
「よしよし……」
ルーシーが優しい表情で友達の頭を撫でた。
どちらかというと、ルーシーは撫でられる側の方が似合っている気がしていたが、こうやって慈母のように優しくしているルーシーも良いなと思った。
………俺も撫でられたいんだが。
「こんなに……綺麗で……可愛くてっ……本当に……良かった、良かったよ……ルーシー……」
「待たせてごめんね。私、こんな顔だったんだ……」
その友達がルーシーの顔を手で触れていくと、肌を確認しながら大泣きしていた。
俺だってそこまでむにむにしていないのに、この友達はめちゃめちゃ触っている。
女の子同士だからこんなことができるのかもしれない。
「こんなの……私なんか目じゃないよっ……ルーシーの方が百万倍かわいいっ……!!」
「そんなことない……真空の方がずっと、ずっとかわいいよ……」
お互いに相手のことを褒めて抱き合っていたところを微笑みながら見ていたのだが、ふと、視線を運転席方面に移動させてみた。
すると、そこには――、
「冬矢……なんでここに……」
なぜか車内には冬矢がいた。
まだ状況が整理できていないが、恐らくはあのおばあちゃんの付き添いをしたあと、ここまで来てくれたということだろうか。
「あれ……知らない人……」
すると冬矢の存在に気づいたルーシーがそう呟いた。
「あぁ、氷室さんって人に車に乗って待つように言われてさ」
「わざわざ来てくれたんだ……」
「そりゃお前のこと心配で様子見に来てやったんだよ……」
「お前も面倒見がいいな……ありがとな」
あの時の俺の状態は酷いものだったからな。俺が冬矢でも心配で様子を見に行っていたかもしれない。
ともかく冬矢の行動は俺を気遣ってのことだ。嬉しい限りだ。
そうして、俺は冬矢をルーシーに紹介することにした。
「ルーシー、俺の友達の
「どうも……って、めちゃめちゃ美人じゃねーかっ!!! お前前世でどんな徳積んだらこんなに美人な二人と知り合えるんだよ……あ、池橋冬矢です。よろしく」
するとルーシーの顔をはっきりと見た冬矢が目を見開いて驚いた。
「えっ……片方は俺知り合いじゃ……」
冬矢はルーシーの友達の方も俺の知り合いだと勘違いしていたようだが、そっちは知らない。
ルーシーとしかやりとりしていない話はしていたはずだが……。
ともかく冬矢がそう挨拶するとルーシーは向き直って挨拶を返した。
「はじめまして。
冬矢とは全く正反対で、ルーシーは丁寧な言葉遣いをして挨拶した。
「はーっ……こんな良い子を三十分も待たせてさぁ……バチが当たればいいのにっ」
そうは言うが、これは場を和ませるような冗談だ。
俺がどうしようもなかったことは彼も知っているのだから。
「てかっ、ルーシーの顔見るなぁぁぁっ!!!」
「真空っ!?」
すると突然ルーシーの友達が冬矢に殴りかかった。
さすがに俺も驚いたが、俺とルーシーが会っている間にこの二人に何かあったんだろうか。
「どういう状況……?」
「私が知りたい……」
一応ルーシーに聞いてみるもわかるはずもなかった。
「おっ、おい! やめろっ! 痛いっ、痛いって……! 初対面なのにっ! こ、このっ、暴力女っ!!」
「うるさいっ!! お前にはまだルーシーの綺麗な顔を見るには早いっ!! 見れないように目を潰してやるっ!!」
二人はリムジンの座席で取っ組み合いになり、冬矢はとにかく防御に徹した。
さすがに女子に手を挙げるようなことはしないようだ。
◇ ◇ ◇
「ひとまずこれでよし……お前、包帯とるなよ」
「へいへい……わーったよ」
しばらくの格闘のあと、現在の冬矢の視界が潰されていた。
それもルーシーの友達が予備の包帯を要求し、その包帯を冬矢に巻いて視界を塞いだのだ。
まだ状況が掴めないが、ルーシーは友達を紹介してくれた。
「光流……こちら、私の友達の
「はじめまして、光流くんっ! もうルーシーからずっと話聞いてて、会いたかったんだっ! その様子を見るに、良い感じになったみたいだねっ」
第一印象。
驚くほどの美人だった。
艶のある長い黒髪は髪を伸ばしていた時のしずはのようで、けど性格はかなり明るくこの天真爛漫さは千彩都に通ずるところがあった。
目は大きくぱっちり二重に長いまつげ。女性らしく整った顔立ちはまさに清楚美人。
正直この顔から、あの強い口調が飛び出すとは思えないほどだ。
比べるのもお門違いかもしれないが、この朝比奈さんは中学一の美人だと言われているしずはにも引けを取らないくらいの美人だと感じた。
「朝比奈さん、はじめまして。
俺は満面の笑みで挨拶してくれた朝比奈さんに同じく挨拶を返した。
「そーね、すごく仲いいよっ! でもルーシーとはまだ三ヶ月ちょっとくらい。そのうち光流くんに超されちゃうだろうな~っ。てか、真空でいいよっ!」
三ヶ月の付き合い……。
つまり、アメリカで出会ったということだろうか。同じ学校なのかな。
見た目は日本人だし、日本語も普通に上手。
親の仕事の関係でアメリカに住んでいたのかもしれない。
そしてその朝比奈さんは、いきなり真空と呼ぶように言ってくる。
このグイグイさは理沙や朱利にも通ずるところがあると感じた。
「じゃあ……真空、で……」
「よしっ」
この子は人と打ち解けるのがうまいようだ。
でも普通の人なら何でもYESと言ってしまう、それくらいの美人なのだ。
「真空……ええと、その冬矢くんの目隠し取ってもいいよ? 私、光流と真空に顔見せれたから満足してるし……」
ルーシーも冬矢だけ視界を塞がれているおかしな状況に申し訳なくなったのか包帯を外すように言った。
「ほら、その子も言ってるだろ? とってくれよぉ~」
「その態度。なんか取りたくないっ」
「いいよ、気にしないで……」
「ルーシー甘い~~~っ」
結局、冬矢の包帯は外されることになった。
「あ~、すっきりっ」
「余計なこと喋るなよ?」
「へいへ~い」
真空は既に冬矢を調教しているような強い言い方だった。
冬矢も渋々YESしているところを見ると、まだ調教されきれてはいないようだが。
「ねぇ、二人に何があったの? 初対面だよね?」
ルーシーが俺も聞きたいことを聞いてくれた。
「なんか見た目チャラそうだし、喋り方とかムカつくし、最初にルーシーのことルーシーって呼ぼうとしたし、とにかく気に食わないっ!」
「半分はお前の主観じゃねーか!」
「おまえ~~?」
「真空さん……?」
「あ?」
「朝比奈、さん?」
「それでいい……」
やはり調教されているのかもしれない。
冬矢がここまで言いくるめられているなんて珍しい。
「ルーシーって呼び方の件も……もういいかな……」
「えっ!? いいの……?」
「うん……これだって、私の変なエゴだし……いくらでも別の呼び方も……できるし……」
あ、そういうことだったのか。
ルーシーという名前の呼び方は、多分仲の良い人にしか呼ばせていなかったんだろう。
ルーシーの小学校に行った時もそうだった。ルーシーと言っても誰なのか理解されず、宝条凛奈として覚えられていた。
「なになに!? ルールー!? しーちゃん!? るーりん!? きゃ~っ! 光流くんなんて呼ぶの!?」
「お、俺っ!?」
すると真空が新たなルーシーの呼び方を求めてきた。
その中には"しーちゃん"という千彩都がしずはを呼ぶ時に使うあだ名が入っていたので一瞬ビクっとした。
「ええと……るーちゃん、とか?」
俺は困惑する中、しーちゃん以外で適当に呼んでみた。
その呼び名が新鮮過ぎて、自分でも恥ずかしくなる。
「きゃあ~っ!! 聞いた!? ルーシー聞いたっ!? るーちゃんだって!! やばいっやばいよっ!」
「光流っ!?」
真空は一人で盛り上がり、ルーシーは顔を赤くしていた。
俺だって恥ずかしいんだけど……。
でも、顔を赤くしているルーシーはやっぱり可愛かった。
「それで、これからどうする? 今日はクリスマスイブだぜ?」
すると、冬矢がそう切り出した。
「あ……私たち、邪魔だよね……? ほら、冬矢、出るぞっ」
「は、はぁっ!?」
冬矢の発言によって、真空が冬矢を強引にここから連れ出そうとする。
俺とルーシーを二人きりにしてあげようという配慮のようだった。
すると――、
「みんなでっ! できれば、みんなでお祝いしない!?」
ルーシーは皆でクリスマスイブを過ごそうという提案をした。
「うん……俺も、それが良いと思う」
俺からすれば、今日のルーシーの予定もわからなかったので助かった。
だからその提案に同意した。
すると、真空と冬矢が顔を見合わせる。
「ほんとに良いの……?」
「そうだそうだ、俺らなんて邪魔だろ?」
再度、二人が遠回しに二人きりじゃなくて良いのかと聞いてきた。
俺はルーシーの判断に任せたかった。ルーシーがいるなら、二人でも複数でも多分楽しめる。
「私は、ワイワイ楽しい方がいい……」
「俺も、るーち……シーと同じだ」
ルーシーが二人がいても問題ないことを言うと、俺もそれに同意した。
しかし、先ほどルーシーに言ったあだ名が口に残っており、危うく"るーちゃん"と呼びそうになった。
「ふふっ……」
「何笑ってんだよルーシー」
だからあだ名言いかけたことを勘ぐられルーシーに笑われてしまった。
俺は少し顔が赤くなりながらもルーシーにそう返した。
「二人が良いならいいけど」
「俺もそれでいいなら……」
真空と冬矢が眉間に皺を寄せながら『本当に大丈夫か?』という表情をしつつ承諾してくれた。
これにより、四人でクリスマスイブを過ごすことになった。
ただ、冬矢は予定があったはずなのに、そっちには戻らないのだろうか。
それとも俺の下に来ると決めた時には今日の予定は終わりということを相手にも告げたのだろうか。
少しだけ心がモヤモヤしたが、冬矢に聞いても「気にすんな!」と言うだろう。
だからとりあえず今はそれに言及しないことにした。
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