136話 包帯ガール!

 夕食後、母にDVDを渡してそそくさと二階へと避難した。

 俺がリビングにいるうちに再生されては困るからだ。


 そして次は透流さんからもらった音源データの確認。


 俺はベッドに寝転がりながらスマホを操作。

 データを一つ一つスマホにダウンロードする。


 ダウンロードが完了したあとは、再生ボタンをタップして一曲ずつ聴いていく。



『〜〜〜〜♪』



 こちらもDVDと同じだった。

 自分の歌声を聴いていると物凄い恥ずかしい。


 ノイズが入らない綺麗な音声なだけあって、自分の歌声がかなりクリアに聴こえた。

 観客の声も入ってないのでプロに近い音源のようだ。……プロに編集してもらったんだからそうなのかもしれないけど。


 ただ、あくまで中学生ボイス。

 プロと比べるまでもない歌声だ。

 こんな音源で皆喜ぶのだろうか。少し心配になってくる。



 そうして、四曲を一通り聴いてみるとどこにも問題はなさそうだった。

 さすがは透柳さん。完璧な仕事だった。


 最後にまだ聴いていなかったボーナストラックを再生してみる。



『〜〜〜〜♪』



「うおっ…………」


 やはり何度聴いても素晴らしい演奏。

 四曲のあとにこのプロたちの演奏を聴くと差を感じてしまう。


 歌はなくとも演奏だけでこれだけの実力差を感じるのだ。


 そしてやはり注目すべきは創司さんのバイオリン。

 圧倒的過ぎる演奏。全身に鳥肌が立ってしまうほどの引き込まれてしまう。


 本番のコンサートで聴いたらもっと凄いのだろうと感じた。



 すると、スマホからバイブ音が鳴った。


『藤間一家の演奏じゃねーか!』


 冬矢からのメッセージだった。


『透柳さんが録音してたらしい』

『これもCDに入れちゃうか?』


 俺もそれは少し思ったのだが、関係しているのはしずはだけ。

 それなら……。


『観客のこと考えたらよくわからないと思うから、俺たちだけの秘密にしておこうよ』

『まぁ……それもそうだな』


 ボーナストラックについてはCDが欲しい人たちにわざわざ説明もしないと思うので、いきなりジャズが入っていても理解できないと思う。なら、最初からない方が良いだろう。 


『曲は問題なさそうだった?』

『あぁ、俺は大丈夫だと思うぞ』

『ならあとは陸としずはに確認してみるよ』


 冬矢とのやりとりを終え、陸としずはにもメッセージを送ってみると、問題ないとのことだった。

 その後、透柳さんに問題ないことを連絡をしてCDのコピーサービスに焼き増しの依頼をすることになった。


 すると、そんなやりとりをしている間にもう一件冬矢からメッセージが入った。



『期末テストの次の日、誕生日だろ? お前の家で良いか?』



 そういえばそうだった。

 

『あ〜、ありがとね。ちょっと母さんに聞いてみるよ』

『おう。決まったら教えてくれ』


 今年もちゃんと祝ってくれるようだ。

 去年は去年で大変だったけど、今年はどうなるのだろうか。




 ◇ ◇ ◇




 翌朝。朝食を食べに一階へ降りると、家族皆がニヤニヤしていた。


「光流、DVD見たぞ。凄いじゃないか!」


 父がテーブルでくつろぎながら俺を褒めてくれた。


「ありがとう」


 俺は手で鼻に触れながら少し照れくさい仕草をする。


「あんなに演奏できたのね。驚いちゃった。観客も凄いじゃない。あんなに盛り上げて」


 次は母。朝食を用意しながらこちらも同様に褒めてくれた。


「皆一緒に演奏してくれたから、良い感じになったんだよ」


 一人じゃあんなにできなかった。それよりもリハーサルで終わっていた可能性もあった。


「光流ぅ〜〜。これ友達に見せてもいい?」

「嫌だ。どうせ佐知さんとかでしょ!」


 姉は褒める前に俺にお願いをしてきた。

 姉の友達といえば謎ダンスガールズだ。


「そうだけど……だって光流がすごいの見せたいじゃんっ!」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど……」


 なんか粗探しとか面白いことないかとか変な視点で見られそうなんだよな。


「光流のケチ〜!」

「……まぁ、予備のDVDもあるし。それは姉ちゃんにあげるよ。好きに使って」

「ほんと! やったぁ!」


 姉の態度を見て、少しかわいそうな気もしてきたので妥協してあげた。


「でもほんとすごかったよ。あの光流がさ、なんか大人になってきたんだなって……」

「そう? 俺も姉ちゃんの身長はもう超えちゃったしね」


 去年ほどにはもう姉の身長は抜いていた。

 それに関しては本当に実感している。


「いや、精神面的にもね? あんなに大勢だよ? 普通緊張して演奏なんてできないでしょ」

「あれは姉ちゃんだって色々してくれたじゃん。あれなかったら演奏できてなかったかもしれないよ」


 一度目のリハーサルの日の夜。皆がいる前で姉はハグ大会を開催した。

 そのお陰なのか、それより前の皆のお陰なのかわからないけど、俺は乗り越えることができた。


「じゃあ光流はまだまだお姉ちゃんがいないとだめだなぁ〜っ」


 そう言って姉はまだ寝起きの俺のボサボサの頭を両手で頭を撫でることにより、さらにボサボサにしてくる。


「はいはい。ほら、ご飯できてるよ」

「反応悪いなぁ。いっつも美人に囲まれてるから耐性ができてきたな?」

「いや、姉ちゃんは昔からじゃん。最初から耐性はある程度ついてるよ」

「ええー! つまんない!」


 姉以外なら俺だって多少なり反応するよ。

 姉だからこそ、受け入れらてるんじゃないか。


「まぁいっか。とりあえずDVDありがとねっ」

「うん」


 こうして家族でのドタバタ交流を終えて俺は学校へと向かった。




 ◇ ◇ ◇




 学校の授業を終えて放課後になると、CDもDVDも問題ないことを図書室で共有。

 DVDは焼き増しを手伝ってくれる人で分担して約二百八十枚を用意することとなった。


「ねぇ、これどうやって配る?」


 するとそんな会話の中で理沙が質問する。


「今思えば一人一人配ってられないよな……」


 各クラスに届けるというのも大変そうだ。

 分担すればいい話かもしれないが。


「お渡し会でもすれば?」

「それは嫌!」


 朱利の提案を即座に拒否するしずは。

 まぁこの手の話はしずはに同意だ。


「ならやっぱり分担して配ったほうが良いのかなぁ。でも名簿のチェックもしなきゃだし」


 少し難しい表情をしながら理帆が言う。


「やっぱり一纏めに配れたら良いんだろうけど、予定合わなくて取りにこれない人とか出てきそうだよな……」


 陸の指摘通りだ。

 こういうのは絶対に取りに来ない人が出る。予定があろうがなかろうがだ。


「なら、しずは以外の人が代行で手渡しして、期限までに取りに来なかった人には誰かがクラスまで渡しに行くのは?」

「あ〜確かにそれなら、楽かもしれない」


 理沙の提案。これが最善なように思えた。


「じゃあいつにする? 昼休み? それとも放課後?」

「放課後は部活ある人が多いからな〜。昼休みが良いんじゃないか?」

「昼休みだってご飯食べるし、時間そんなにないと思うけどなぁ。その短い時間でさばけるとも思えないし」


 理沙が積極的に意見を出してくれる。

 それに対する冬矢の話だが、放課後は忙しい人が多いイメージ。


 しかしそれに続く陸の意見。昼休みも人によっては時間がないし、俺たちがご飯を食べる時間もなくなってしまう。


 …………どうすれば良いんだ。


 お金をもらう手前、先生たちに手伝ってもらうとかも正直難しそうだし。




「いいわよ。私も手渡し手伝うよ!」



 すると、先ほどまで嫌と言っていたしずはが手渡しに参加するという。


「いいの?」

「別にもうすぐ卒業だし。私がやることで一気に渡せるならそれが一番皆にも迷惑かからないでしょ」

「しずは〜っ! 助かるぅっ」

「ちょっとくっつかないでよ!」


 しずはは妥協してくれたようだ。

 最初に手渡しを提案した朱利がしずはに抱きつこうとするも朱利の顔を手で抑える。


「なら放課後にしようぜ。部活やるやつもしずはがいたら少しくらい寄っていくだろ」

「うん。そうしよう」


 ということで、お渡し会をすることが決まった。


「じゃあどこでやる?」


 次の問題は場所だった。


「少し寒いけど外で良いんじゃない? 玄関外の近くに一つだけ机用意すればいいでしょ」

「俺はそれで良いよ」

「俺も問題ない」

「私も〜」


 理沙が提案してくれた意見だったが、今度はすぐに決まった。


「じゃあ、あとは手分けして焼き増しするだけだな」

「おっけー♪」


 そうして、DVD関連のことが決まり、あとは焼き増しと透柳さんから連絡を待つだけとなった。




 ◇ ◇ ◇




 数日後、DVDの焼き増しも終わり、透柳さんからも家にCDが届いたから時間ある時に取りに来てくれと連絡がきた。


 モノが揃ったので、後は手渡し会をするだけとなった。



 そんな十一月二十日。


 ちょうど昼休みの時にエルアールの新曲が動画サイトにアップされた。



 曲名は『包帯ガール!』だった……。



 俺は曲名を見た瞬間、確信した。


 サムネイルの姿と歌詞のフレーズからエルアールは彼女ではないかと今までも思ってはいたが、ここにきて『包帯』というキーワードを使うあたり。結びつく人はやはり一人しかいなかった。



 あぁ、あぁ……、



 ――ルーシーだ。



 絶対にルーシーだ。



「ははは……っ」



 あまりにも嬉しくて、自然とニヤついてしまった。

 ニヤついてはいたが、それと同時に我慢しないとまた涙が出そうになってしまっていた。


「光流、どうしたのよ」


 教室で千彩都としずはと一緒に弁当を食べていたのだが、俺が一人で不思議な笑いをしていたことが気になったのか、千彩都がそう聞いてきた。


「いや……なんでもないよ」

「うそつけ〜。いきなり変な笑い方するとか絶対何かあるじゃん」


 まぁ、その通りなんですが。


「エルアールの新曲アップされてたからさ」

「あぁ! そうなんだ。私も見てみよ〜」


 そう言うと千彩都がスマホを操作し始める。同時にしずはもスマホを操作し始めた。


「『包帯ガール!』かぁ」

「包帯……ね」


 千彩都が曲名を見て呟く。

 一方しずはは、ルーシーが包帯を巻いていることを俺からの情報で知っているために、そこに反応したように見えた。


 そうして、俺たちは弁当を食べる手を置いて耳にイヤホンを装着する。

 周囲のクラスメイトも俺たちと同じような話をしている声がちらほらと聞こえてきた。

 皆もチェックが早いようだ。



『包帯ガール!』の動画をタップすると曲が流れ始めた。



 スタートは激しいドラムからだった。その次にギターやベースやキーボードの音が一斉に流れ合流する。

 この時点で明るそうなロックな曲だとわかった。



『嫌な自分を隠してた白い布 ♪』



 包帯とタイトルにつけているだけあって、それが中心になっているような歌詞だった。

 ただ、その中にも一部暗い歌詞も差し込まれていて。


『私を暗闇に落とすダークサイド ♪』


 ただロックな曲調が、歌詞を暗くさせないような印象を持たせてくれる。

 相変わらずというか、聴きやすくて力強い声だ。


『星空のような雨』も『Only Photo』も耳が擦り切れるほど聴いた。

 だから相変わらず……と言っても良いよな?


 そうしてサビになると、一気に明るくロックになった。


『私は包帯ガール! 包帯ガール! ♪』


 今まで抑えていた声を一気に解放。

 まさに包帯から解放されたような、そんな印象を受けたサビだった。


 凄いかっこいい……。



「…………」



 俺たちはしばらく無言で『包帯ガール!』を聴き入ったあとイヤホンを外した。


「めっちゃかっこよかった! 今回のは凄い明るい曲だったね! てかこの人、自由さがあって他の歌手と違うよね」

「え? どういうこと?」


 俺も千彩都と同じ明るい印象を受けた曲だとは思ったが、自由さがあると話す。

 言い方的にこの曲が自由だと言っているのではないように聞こえた。


「考えてみてよ。一曲目は疾走感のあるJポップでしょ? で、二曲目はゆっくりなバラード。それで今回の三曲目はロックだよ? 普通こんなに幅広いジャンルの曲を歌う歌手っている?」

「そう言われればそこまでいないかも……」


 アーティストにはそのアーティスト特有のジャンルがある。

 だから曲のジャンルをバラバラにするというのは、中々見ないような気がした。


「次はアイドルっぽいような曲も作ったりしてねっ」

「アイドル!?」


 ルーシーがアイドルに?

 『ズキュン』とか『ラブリー』とか言っちゃう可能性があるってこと!?


 いやいや、アイドルの音楽も別にそんなあからさまなフレーズだけではないはず。

 でももしそんな曲が出れば色々な人がハートを貫かれそうな曲になりそうだ。


「事務所に所属してないんなら、好きな曲も歌えるだろうしね。だから自由なんじゃないの?」


 すると、しずはが業界側の目線で話してくれた。


「あ〜、そういうこともあるのか」

「そのルー……エルアールもさ、自分の歌いたい曲を作ってるんでしょ。なら色んなジャンルの曲を歌ってみたいと思うのも普通なんじゃないのかな」


 今、どんな状況なのかはわからない。

 でも彼女の状況が、自分の好きなことを自由にしているというのなら、しずはの言う通りなのかもしれない。


 こういう曲が良いんじゃないかと言われてそのまま従うのではなく、自分からこんな曲にしたいですと言って曲を作ってもらうこと。

 今の彼女なら今までできなかったことを目一杯したいようにしているのではないだろうか。


 それを思うと、とても嬉しくなる。


「それにさ。やっぱ最初の曲から思ってたけど、曲の質を考えても絶対後ろにデカい何かがバックにいるような気がするんだけど」


 それは俺も少しだけ思った。

 あのしずはの家の地下スタジオを見た時から、あのような機材がないとレコーディングができないと知った。


 それなら、このエルアールの曲も必ず誰か協力者がいるのだ。


「でも事務所には所属してないって話じゃん」


 千彩都が自分の弁当箱の中のブロッコリーを箸で掴みしずはの弁当箱に移動させながらそう言った。


「もしかしたら無償で協力するからって言って、あとからデビューしたくなったら、一番に声かけてもらえるように恩を売ってるとかさ」


 しずはがそう言いながら自分の弁当箱に入れられたブロッコリーを今度は俺の弁当箱の中に移動させる。


「あ〜、そういう思惑もあるのか。なら透柳さんが言ってたみたいに日本の事務所は太刀打ちできないかもね」


 透柳さんの話では事務所同士で取り合い合戦が始まるかもしれないと話していた。


 そう考えながらも俺はしずはから渡されたブロッコリーを箸で掴んで頬張る。



「…………」



 千彩都としずはがブロッコリーを食べる俺の顔を凝視してくる。


「……光流。食べる前に二つの箸でそれを移動させたことに対して文句言いなさいよ……」


 千彩都が少し引いた顔でそう話す。


「知らないの? ブロッコリーって筋肉に良いんだよ? タンパク質も多いし」

「そういうこと聞いてるんじゃないんだけど……この筋肉バカ」


 もう少しで中学を卒業するくせにブロッコリーすら食べられない千彩都には言われたくない。


「だってさ、光流。よーく考えてみてよ。そのブロッコリーには私とちーちゃんの唾液がついてるんだよ?」

「ブフォっ!?」


 しずはがおかしなことを言ったので、俺は吹き出してしまった。


「あ〜、まさか光流ったら私としーちゃんの唾液目立てだった〜?」

「あっ……やっぱり光流にはそういう癖があったんだ。もしかして女子のリコーダー舐めたいとか思ってるタイプ?」

「舐めたいわけないだろっ! バカっ!!」


 話の方向性が斜め上にいったので俺は少し大きな声を出してしまった。

 するとクラスメイトの数人が俺たちの方を向いた。


「そういうこと考えてる方が変態なんだよ? 俺なんて唾液とか微塵も考えなかったのに」


 俺は小声でそう話した。


「……考えなかったとかなんかムカつくな〜っ。喰らえっブロッコリー爆弾っ!!」

「私のほうれん草爆弾も喰らえっ!!」


 すると俺の言葉が気に食わなかったらしく千彩都からはブロッコリー。しずはからはほうれん草を弁当箱の中にある分全てを俺の弁当箱へと箸で押し込んだ。


 俺の弁当箱の中は緑だらけになってしまった。


「ちなみにほうれん草も筋肉に良いんだよ? ポパイだってほうれん草で強くなるし」


 そう言いながら俺はほうれん草を頬張る。

 筋肉に良い食べ物をくれるなら嬉しい。それに俺には好き嫌いなんて基本的にないし。


「また筋肉かよ……これで脳筋じゃなくて頭が良いってところもムカつく」

「千彩都もブロッコリーとほうれん草食べたら成績良くなるかもよ?」

「キィ〜〜〜ッ!」


 千彩都の怒った顔を見れて嬉しい。


「あ、そういえば千彩都も秋皇に決めたの?」

「まぁ、一応ね。冬矢がああ言うし? 開渡も行くって言うし」


 そっか。それなら良かった。

 知り合いはいればいるだけ学校生活は楽しくなりそうなイメージだ。


「成績はどうなの?」

「今のしずはよりちょっと良いくらいだから、少し頑張ればいけると思うんだけど。かいちゃんと一生懸命勉強してるよ」

「そっか。なら良かった」


 開渡も冬矢と同じくらいには成績が良かったはずだ。

 なら、それほど心配しなくても良さそうだ。


「なんか皆で勉強してるみたいだけど、どうなの?」

「深月が最初あんまりうまくいってなかったけど、今は順調に勉強できてると思う」


 千彩都の心配をしずはが説明する。

 確かに深月は最初、自分のやり方で勉強していて意固地になっていた部分があったけど、今はちゃんと聞いてくれている。


「ふーん、深月ね〜。――深月ってやっぱ冬矢のこと好きなのかな?」

「ブフォっ!?」


 今日二回目、吹き出してしまった。

 俺も少しはそういう雰囲気を感じていたけど、千彩都もそう思っていたのか。


「どうなんだろう。確かにそんな雰囲気は感じるけど」

「深月はわかりづらいけど、あれはもう半分以上は好きでしょ」


 俺は正直よくわかっていなかったが、親友のしずはから見れば好意はあるようだった。


「やっぱりそうなんだ!」

「で、冬矢の方はどうなのよ?」


 そっちが問題だよな。


「冬矢のことは私わかんない……」

「俺も正直よくわかんないんだよな。だってあいつ自分の恋愛のことは全く話さないし、どの女子に対しても似たような態度してるように思うんだよな」


 女子に対する気遣いとかもできるのだが、深月以外に対してもしている可能性もある。

 しかし俺たちのコミュニティ以外の冬矢のことはよく知らない。というかあいつが話さないし……俺も聞こうとはしていない。


「まぁそこんとこ昔から変わらないしね。少しは脈ありな気もするけど、あの二人っていっつも喧嘩してるよね」

「そうなんだよね。最近の勉強会では、少し穏やかになったんだけど」

「へ〜。珍しいじゃん」


 そう。千彩都が言う通り珍しいのだ。

 昔から冬矢と深月は喧嘩ばかり。でも別に本気で喧嘩してるわけではなく嫌いという感じでもない。


 クリスマスのプレゼント交換やホワイトデーのお返しも深月が喜ぶものをあげていたし。


「多分だけど、深月にも秋皇合格してほしいんだよ。勉強会が始まってからの冬矢は深月に何か言われても怒らなかったもん」

「ふーん。それは友達として受かってほしいのか、個人的理由で受かってほしいのかは微妙なとこだね」


 ただ、少しだけ感じる。

 冬矢がたまに見せる深月への視線。なんだか他の人よりも少しだけ優しい目をしている気がする。


 あの、図書室で勉強し始めた時もそうだ。深月が怒った時も冬矢は全く怒らず柔らかい目をしていた。


「深月のツンツンした態度がなくなれば、すぐにくっつきそうなイメージもあるけどね」

「でもツンツンしない深月って深月じゃない気もする」

「深月ってツンツンツンツンツンツンデレくらいだもんね」


 それほどデレることは珍しいのだ。


「まぁ、ともかく皆で一緒に秋皇に行けたらいいね」

「そうだね」


 小学生から一緒で、中学高校と一緒。

 中々そういう相手って世の中には少ないのではないだろうか。


 千彩都も部活が始まって疎遠になるかと思ったが、クラスが同じになったらそうでもなくなったし。

 一緒の学校にいるだけで、こういう機会は巡ってくるものだ。


 できれば理沙と朱利も合格させてあげたい。

 俺だって、余裕かましていればどうなるかわからない。


 気合い入れ直して頑張るか。



 俺は放課後の勉強会に向けて気合いを入れて、ブロッコリーとほうれん草を口いっぱいに頬張った。







 ―▽―▽―▽―


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