112話 大所帯のプール
――夏休みになった。
それまでの話を振り返る。
六月には深月の誕生日会、八月にはしずはの誕生日会を行い、俺の誕生日会に来てくれたお礼も兼ねて、冬矢やしずはたちとお家にお邪魔した。
深月の家はお嬢様という感じの綺麗なお家で、うちと同じくらいの家のサイズだった。
深月の母親の
こんなことで喜んでくれる母親も珍しいと思っていたが、深月の今までの性格から考えても友達が多いわけではなかったのは伺えた。深月は母親にとんでもなく愛されてるのだと感じた誕生日会だった。
一方しずはの誕生日会も似たようなメンバーで行った。ただ、新たに
二年生の時に同じクラスになって、何度か遊んだことがあると聞いた。
誕生日プレゼントに悩んだが、しずはの方から欲しいものを言ってきた。
最初は冗談で水着だと言ってきたが、結局メガネを買った。
あらかじめ視力検査だけしてもらって、一緒にフレームを選んだ。
もちろんメガネ姿も似合っていた。
最近も教室でわざと見せつけるようにメガネをかけたりする。それを見たクラスの男子が「メガネ姿の藤間さんやべえ」とヒソヒソ話をしていたりした。
しずはの家で誕生日会をしたが、その日は奇跡的に兄の
そういや俺たちって海で遊んだことがない。学校の授業でのプールはあるけど。
その話を冬矢にしたら海に行こうぜという話になった。
しかし、深月が超絶に嫌がった。
話を聞くと、水着というよりは海で水着になるのが嫌らしかった。
そこで、海ではなく都内のレジャープール施設で遊ぶことになった。
◇ ◇ ◇
八月のある日、俺たちは予定していた都内のプール施設へと遊びに来た。
メンバーは俺、冬矢、開渡、陸、しずは、深月、千彩都、鞠也ちゃん、奏ちゃん。
しずはの友達の神代さん、沼尻さん。そして陸の彼女である山崎さん。
さらに二年生の時に同じクラスだった松崎さんと石井さんと折木さんも参加することになった。
夏休み前からプールに行く話をしていたところ、冬矢が話を広めたからか、大所帯で行くことになっていた。
人が多すぎるので、現地集合とした。
「あっ、きたきた。
陸が彼女の山崎さんに手を振って出迎える。
小学六年生ぶりの山崎さんだった。今日の参加者の中では唯一の他校の生徒だ。
さすがに二年半ほども経過すれば見た目も変わる。山崎さんは美少女になっていた。
小学生の時から髪を伸ばしていたからか現在はロングだ。
「バカっ! 大きな声で名前言うなっ!」
「いてっ」
山崎さんは陸に人前で大声で名前を呼ばれたためか、会ってすぐに頭を叩いた。
仲が良さそうで何よりだ。
「――山崎さん、久しぶり」
「よう、久しぶりだな」
陸が頭を抑えて痛がっている中、俺と冬矢が挨拶する。
「ええと、九藤くんと池橋くんだよね?」
「そうだよ」
久しぶりだからか、山崎さんが確認するように聞いてきた。
「久しぶり……なんかりっくんとバンド組んでるみたいだね。変なことしてたらぶっ叩いていいからね?」
「蓮ちゃん!?」
「あはは……上下関係ができてる」
山崎さんの方が陸を尻に敷いているようだった。
陸はその関係性を嫌がる様子は微塵も見せていないことから、この関係が二人にとって合っているのだろうと感じた。
「到着だー!」
「今日熱すぎだろ……」
「もう……朱利ちゃん今日はこれからだよ?」
一人は元気に。もう一人は既に疲れた様子で。さらにもう一人は心配する様子で。
「折木さん、石井さん、松崎さん……久しぶり」
別クラスになったために、そこから中々交流がない。
松崎さんに関しては、バンドについて協力してくれる話があったが、今は特にお願いすることはなかった。文化祭近くになればお願いすることも増えるだろう。
折木さんと石井さんは、ちょっとギャルっぽい女子なのだが、松崎さんはそういうタイプではない。
どちらかと言えば委員長タイプというか、真面目系だ。
あまり交流がなさそうな二人と一人だが、一緒に来たところを見ると仲良くなったらしい。
「みんな久しぶり〜! 誘ってくれてありがとねっ」
「こっちこそ。来てくれてありがとう」
折木さんが明るく挨拶してくれる。
「はは。九藤は相変わらずだね。律儀くんっ」
「なんだよそのあだ名」
「クラス変わったけどさぁ、九藤みたいなやつはなかなかいないよ」
「それって、褒めてるの?」
「褒めてる褒めてる。面白いやつだってね」
「褒めてないだろ……」
どちらともとれない俺への評価。
とりあえず今日来てくれただけても嬉しい。
俺も友達が増えたものだ。
「ひーかーるーっ!」
わかりやすい元気な声が聞こえてきた。
彼女に勝る元気さを出してくる人はなかなかいない。
「鞠也ちゃん……奏ちゃんも」
二人一緒に来たようだ。
「今日はよろしくお願いしますっ」
奏ちゃんはいつもと変わらず礼儀正しい。
ぺこぺこと頭を下げて挨拶してくれた。
「こちらこそ」
自然と頭を撫でたくなるが、我慢した。
その後ろからデカい日除けの帽子を被った人物が歩いてきた。
「やっと着いた〜。今日暑いね」
「うううう」
しずはと深月だった。
大きな帽子を被っていたのは深月。服装もお嬢様っぽくワンピースだ。
一方のしずはは、今日はボーイッシュな感じで、キャップを被っていた。
「お疲れ様。深月……今日はこれからだよ?」
「早く水に浸かりたい……」
干からびた魚のようになっていた。
「おいおい深月〜。お前が楽しみにしてた『ちるかわ』のビーチボール持ってきたんだぞ?」
「はぁっ!? そんなの頼んでないしっ」
冬矢にそう言われて急に元気になった深月。顔が少し赤くなった。
二人の間に何があったのかわからないが、いつも通りだ。
「うわ〜。ほんとに藤間さんいるよ……」
「ガチのガチだ」
「ほんと綺麗な子〜」
折木さんたちがしずはを芸能人を見るような目で見ていた。
演奏家としてはもう芸能人に足を踏み入れてるけど。
「あっ、こんにちは。はじめまして……だよね?」
しずががその目線に気づいたのか、三人に挨拶した。
「藤間さんよろしく〜! 私ら二年の時に九藤とかと一緒のクラスだったんだ〜」
「私が
「私、委員長やったことないんだけど!?」
少し漫才を入れながらお互いに挨拶をした。
残るは四人。
「こんにちはーっ!」
「こんにちは」
おそらく俺が直接話したことがないのはこの二人だけ。
ということは、神代さんと沼尻さんだとわかった。
「菜摘ちゃんに舞香ちゃんっ」
しずはが二人に気づくと、ばっと近づいていって両手を出して二人にハイタッチしていた。
「いや〜人数凄いね」
「……てか女子多くない?」
「そう、だよね。なんでこうなったのか」
沼尻さんの周囲を見渡しての感想。
男子四人に女子十一人。男女比がおかしなことになっている。
「みんなっ。神代菜摘ちゃんに沼尻舞香ちゃんだよ。よろしくね」
「皆さん今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
二人は丁寧に挨拶してくれた。
俺たちは揃ってよろしくと挨拶をした。
「――ごめんごめん遅れたっ」
「まだ時間内だろ。ゆっくりで大丈夫だったのに」
小走りで千彩都と開渡が一緒にやってきた。
「よっしゃ行くぞー!」
「ええ!?」
冬矢がみんなが揃うや否や施設の中に入ろうとする。
「いやいやまだ私たち皆に挨拶してないんだけど!?」
すると千彩都がストップをかけた。
「いいじゃねえか。あとは更衣室か着替えたあとに挨拶しようぜ」
「……まぁいいけど」
微妙に納得がいっていない顔をした千彩都だったが、ひとまず冬矢の言うことを聞いた。
そうして俺たちは皆プール施設の中に入っていった。
◇ ◇ ◇
「うわ〜藤間さんの体えっぐ!」
「ちょっ……そんなに見ないでよ」
女子更衣室の中では、それぞれが水着に着替える中、折木や石井がしずはのスタイルを凝視していた。
「お腹とか全然出てないのに、胸もあるし……どうなってんの!?」
「胸は何もしてないけど、体はこれでも努力してるんだからね?」
しずはのお腹から胸へと自分の顔を移動させていく折木と石井。
どうしたらこの体型になれるのか。その秘密を知りたいという気持ちが全面に出ていた。
「二人とも私の体見てないで早く着替えなよ。皆もう着替え終わるよ?」
「だってなぁ……?」
「ねぇ……」
まだ離れようとしない二人。そこに。
「しずは先輩にちょっかいかけるやつはこうだーっ!!」
「うぎゃあ!?」
水着に着替え終わった鞠也が石井の胸を後ろから鷲掴みにした。
石井は突然のことに悲鳴を上げる。
「こっちもだーっ!!」
「きゃいん!?」
折木も同じように揉まれ、犬のように叫んだ。
「おらおらおらおら〜〜っ!」
「ちょっ!? やめてっ!?」
鞠也の凶行は止まらない。
しかし――、
「鞠也ちゃん脇腹弱いよ?」
「――へ?」
味方をしたはずのしずはから、弱点を言い渡される。
「へえ〜〜〜〜」
「九藤の親戚だからって手加減しないわよ? 鞠也ちゃん?」
折木が後ろから鞠也を羽交い締めにし、石井が前から鞠也の脇腹をこちょこちょしはじめる。
「あっ!? だめっ!? あはははははっ!?」
鞠也は抵抗できずに身悶えるしかなかった。
「深月……?」
すると、その様子を静かに見ていた深月が前に出た。
「――屋上での恨み晴らしてやるっ!!」
深月も鞠也のこちょこちょに参加しはじめた。
屋上の恨みとは、初めて奏がしずはと交流するために時間を作った昼食会。
その時、鞠也が従姉妹なのに光流の彼女だと嘘をつき、深月の逆鱗に触れた結果。深月が鞠也の脇腹をこちょこちょしたのだ。ただ最後には鞠也も深月の脇腹を攻撃していた。
嘘をついたのは鞠也だが、先にこちょこちょをしたのは深月だった。
そしてそれは、もう終わったはずのことだったのだが――、
「深月先輩っ!? あはっ!? あはははっ! 死ぬっ! 死ぬ死ぬっ!? プール入れなくなっちゃう!」
鞠也は石井と深月による攻撃に、もう瀕死状態だ。
「ふふっ、若林さんおもしろーいっ!」
「もっとやっちゃえっ!」
「あはははっ!? だめっ!? 死んでる! 私もう死んでるからっ!? あははははっ!?」
…………
「はぁ……はぁ……はぁ……」
石井、折木、深月、そして鞠也が更衣室の地べたに座り込み疲れていた。
鞠也の目には笑い転げて出た涙の跡が残っていて、満身創痍だった。
「なんでこうなったんだっけ……」
「まぁ……いっか」
ハイになっていた折木と石井がなぜこうなったのかを忘れていた。
しかし気にしないことにした。
「ま、鞠也ちゃん……っ」
鞠也の果てた様子を見て、奏が恐いものをみるような目で口を押さえていた。
「ほら、皆男子どもが待ってるわよ! 早く行こう!」
千彩都がリーダーシップをとって声をかける。
「かにゃでちゃん……肩貸して……」
「わ、わかった!」
力が抜けた鞠也が奏に助けを求めた。
体格的には鞠也のほうが大きいが、奏は必死に小さい体で肩を貸した。
ー☆ー☆ー☆ー
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