32話 お風呂

 私と真空はお風呂に入る為に、浴室へ向かう。


「これ、パジャマとして寝る時に使っていいって。うちにいる間は毎日新しいもの用意してくれるから安心して」

「わあ〜、これシルク!? すっべすべじゃん!」


 真空が受け取ったシルクの高級パジャマを広げる。

 かなりすべすべの素材でシワがつかないようになっている。


「じゃあ、脱ごっか」


 そうして、今着ていた服を一枚一枚脱いでいく。

 お風呂に一緒に入りはするが、真空にはまだ申し訳ないけど、クリスマスまでは顔を明かせない。そのために顔は包帯したままになる。


「ええと、真空? そんなにじーっと見られても……」

「ふむふむ……素晴らしい……」


 真空は私が下着姿になると、まじまじと体を下から上まで舐めるように見てきた。

 さすがに同じ女子とはいえ、そこまで見られると恥ずかしくなってくる。


「真空も早く脱ぎなよ……」

「ルーシーのスタイルは本当に凄いね……身長といい、この肌といい……」

「きゃっ!?」


 真空が突然、私の背中をなぞるように指を滑らせてきた。


「ちょっとおっ!? 」

「女同士なんだから減るもんじゃないでしょ〜?」


 いや、そうかもしれないけど。こういう風に触られたことないし、びっくりするでしょ。


「真空だって、すべすべぷにぷにだし……良いもの持ってるくせに。私より大きいじゃん」


 私は下着姿になった真空の胸を指差す。私も多少なりあるが、真空ほどではない。その大人の部分が羨ましい。


「いいでしょ〜っ。でもルーシーのお母さん大きいからルーシーもすぐ大きくなるよ」

「それお母さんも同じこと言ってた……」


 考えても大きくなるものじゃないから、文句を言ってもしょうがない。

 そして、お互いに下着を脱いでいく。


「……ちょっと」

「ルーシーのはそんな感じになってるんだ」


 何を見ての感想なのかわからないけど、あっちのことだとわかる。


「真空だって……いや、いい」

「なに? 私のも気になる〜?」


 やはり胸の大きさは自信の大きさなのだろうか。そう思えてきてしまう。


「まずは軽く体を流してお湯に浸かろっか」

「うんっ」


 そうして、簡単に髪をゴムでまとめたあと、二人で浴室に入る。


 湯気が立ち込める浴室は、お手伝いさんによってお湯が溜められていた。

 さらに、テーブルにはジュースとコップも用意してあり、近くには小さな冷蔵庫・冷凍庫も設置されてある。ちなみにそこにはアイスが入っている。


 互いにシャワーでさっと体を流し、まずは檜風呂に浸かる。


「うっわあ〜。なにこれ最高過ぎて寝ちゃいそう……」

「私も久しぶりに入ったけど、十歳の頃に入った時よりも気持ちいいって感じるかも……」


 さらに檜風呂の中には、ジェットバスになっているエリアもある。

 二人そこに並び、頭を置ける窪みに頭を置いて横になる。


「あああああああ……さいこ〜」

「ほんと気持ちいい〜」


 二人揃ってボコボコと背中に泡を浴びながら天井を見上げてリラックスする。


「明後日、良い感じになるといいね……」

「うん。まだ夢なんじゃないかって思ってる……」


 あれからもう五年になる。成長した光流はどんな姿なんだろう。

 最初になんて話そう。やっぱりごめんからだよね。いや、ありがとう、かな……。それとも、メリークリスマス? ……なんか変だ。考えがまとまらない。


「お風呂って、なんか色々考えちゃうよね」

「わかる……」


 しばらく浴槽に浸かった後に頭や体を洗っていく。顔は後で洗うことにする。

 最初から浴室に用意されていたシャンプーやボディーソープ。しばらくは真空と一緒の匂いになるだろう。


「真空、好きなシャンプーとか自由にここに置いていいからね?」

「ありがとっ」


 体を洗ったあとは、今度は大理石のほうの浴槽に入る。こちらも同じくジェットバス付きだ。


「あ〜。こっちはこっちでいいかも……」

「うん。ちょっと温度が違うね。こっちは少し熱めかも。長居するなら檜風呂のほうが良いね」


 少しお湯に浸かってから、二人で椅子に座る。

 この椅子は特注品で、サウナで整えるように大きく長い椅子になっている。


 私はジュースをコップに注いで、小型冷凍庫からアイスを出して真空にも渡す。


「もお〜〜、なにこれ最高すぎるんですけど! 私、来年からここに住むの!? もう自分の家に帰れなくなっちゃうよ」

「ふふっ。いつまでもいて良いんだからね。あ、このアイスすっごい美味しい。ハーゴンダットだよね」


 普通のバニラ味だが、とても美味しい。アメリカにもあるけどあまり食べていなかった。久しぶりの味だった。


「あら、二人で一緒に入っていたのね」


 するとそこに母がやってきた。大きなお風呂場なので、五人……もしかすると十人くらいは一緒に入れるだろう。


「わっ……ルーシーのお母さん。体綺麗〜」

「ふふ。ありがとうね」


 母が椅子で横になっている真空の体をじっと見つめた。


「真空ちゃん。あなただって素敵な体よ」

「あはは……恐縮です……」


 母はその主張の大きい胸を隠すこと無く、堂々とモデルのように歩いてくる。

 そして、体をお湯で流して浴槽に入った。


「真空ちゃん、お風呂どうかしら?」

「最高すぎてとろけました!! こんなの日本の旅館にもあんまりないレベルだと思います!」

「嬉しいわ。こだわった甲斐があったわね」


 母は満足そうに笑って、私達と同じようにジェットバスでリラックスした。

 それから、私達と一緒に椅子に座り、三人が横に並ぶ。


 私と真空は十分に寛いだので、母を残して一緒にお風呂を出た。



 ◇ ◇ ◇



 お風呂から上がって、髪を乾かしたりした後、真空が一時的に部屋に戻っている間に顔を洗った。

 化粧水などをつけて新しい包帯を巻き直して、準備万端になった。


 真空を私の部屋に呼んで、一緒に寝る時間がやってきた。


「今日だけで本当に楽しいっ。ルーシーのお家も凄すぎるけど、こうやってルーシーと寝る所まで一緒なのが嬉しい」 

「私も。本当に楽しい一日だった。これからあっちに戻るまで続くんだね」


 友達とお泊り。楽しすぎてずっと心が高揚していた。


「結局クリスマスプレゼント、何にしたの?」

「あ〜、ええと。ちょっと言いづらいと言いますか……」


 子供っぽいものだと思うけど、でも結局アレにした。この再会するタイミングでは、アレしか光流に対して恩返しできるプレゼントがないと思ったのだ。


「いいじゃん。教えてよ〜」


 私は同じ毛布の中、真空の耳元に近づいてコソコソと耳打ちする。


「えええっ!? それ、大丈夫なの? 変な要求とかされるかもよ?」

「それは、それで、覚悟してる……いいんだ」

「ルーシーの覚悟凄いなあ。そういうのは、付き合ってから渡すプレゼントじゃないかな?」

「そうなんだけどね……」


 確かにそうだ。でも、今できる最大限のプレゼント。


「結局、私の意見が通ったってことか〜」

「真空のそれが、私にとって良い影響なのか、悪い影響なのか、私にはわからないよ……」

「ちょっと、責任を私に押し付けないでよ? あれは冗談で言ったやつなんだからっ」


 しばらくベッドの中で色々と話したあと、私達はぐっすりと就寝した。


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