28話 返事

 真空にクリスマス、光流に会いに行くことを話し、プレゼントをどうするべきか話した。

 そしてもう一つ話すことがあった。


「ねえ、もしよかったら真空も一緒に年明けまで日本に来ない……?」

「え……」


 真空は目を丸くした。


「もちろん日本での生活は全部うちでサポートする。お母さんにも話してる」

「それ、私が行ってもお邪魔じゃない?」


 真空が気にしているのは、光流のことだろう。

 私が光流に会えた場合、もしかすると、光流と遊ぶことにもなるかもしれない。


「ううん。そんなことない」

「私、光流に真空を紹介したい」


 私に光流以外の本当の友達ができたってこと、光流に伝えたい。


「うーん。ちょっとお母さんに相談してみる」

「いきなりごめんね。これも私の我儘だよね」

「全然。ルーシーの我儘なんて可愛いもんだよ」


 最近は光流に連絡していなかったこともあり、自分の勝手さに嫌気がさしていた。


「ありがとう。お母さんが言ってたけど、来年日本で暮らす練習として行ってみてもいいかもって言ってた」

「確かにそれなら私も興味あるかも……! 来年いきなり行くより、ルーシーの家に慣れていた方が生活は楽かもしれない」

「こっちが誘ってるから飛行機代ももちろんこっち持ち」

「サポートがえげつない……」


 真空は家族に日本行きを話すことになった。




 ♢ ♢ ♢




「ルーシー! 大丈夫だって! なんかもうルーシーのお母さんが連絡くれていたみたいで」

「そうなの!? 嬉しいっ!」


 母が真空の家に日本行きの話を既にしてくれていたようだ。行動が早い。


「ルーシー、光流くんと二人きりになりたい時は言ってね。というか私、空気読んで二人きりにさせちゃうけどっ」

「なんか複雑な気持ち……」

「最初、クリスマスに会う時はとにかく二人きりがいいよ。私はどこかにいるからさっ」

「さすがに日本に連れてきてまで一人にさせられないよ……」


 私の我儘で真空を日本に連れて行く。確かに光流とは二人きりになりたいけど、だからと言って真空を放ってはおけない。


「じゃあ遠くからこっそり覗いてる」

「それはそれで恥ずかしい……いつもの私じゃなくなりそうだし」

「うわ〜楽しみ〜っ」


 本当にどうなってしまうんだろう。

 ちゃんと光流に会えるかな。




 ♢ ♢ ♢




 そして、十二月の一週目が過ぎた頃。

 私に手紙が届いた。


 ちょうど、真空とバンドの練習をした後に母から渡された。

 日本からの手紙。以前と同じく『九藤光流』と書かれた文字が見えた。


「ほら、早く読んでっ」

「うん……」


 私の部屋で真空と二人きりになり、ポツンとローテーブルの上に置かれた手紙が入った封筒。

 真空は以前と同じように目を逸して、内容を読まないようにしてくれていた。


 封筒を開き、中にあった便箋を取り出す。




『ルーシー。誕生日プレゼントとお手紙、本当にありがとう。この五年間で一番嬉しい出来事だった』


「――ッ」


 その一行目だけで、心臓の鼓動が早まった。


『返事がくるかどうか不安だったけど、きた時は驚きすぎて倒れそうになった。それだけ嬉しかった。プレゼントのヘッドホンも毎日つけてるよ』


 五年間も連絡を待たせたんだもんね。

 ヘッドホンもつけてくれて嬉しい。


『ルーシーの歌、聞いたよ。返事に驚いたけど、こっちも驚いた。まさかあのエルアールがルーシーだったなんて。日本でもちょっとSNSのトレンドに上がってたり有名になってたからさ、曲は聴いたことがあったんだ』


「届いてたんだ……っ」


 嬉しい、嬉しい……。曲作って本当に良かった。

 やっぱりアレックス達には感謝してもしきれないほどだ。


『そして、あの限定公開の動画。あれが一番驚いた。そして何よりも嬉しかった』


 あの限定公開の動画で話した内容。それは、私がずっと光流に隠していたことだった。


『奇跡だと思った。俺がルーシーと出会えたことに誇りを持てた。腎臓をあげられて本当に良かったと思った』


「あぁ……っ」


 光流の気持ちが伝わってきて、前に手紙を読んだ時のように目の奥が熱くなり――、



『――二十四日、必ず行く。会いに行く。ルーシーに会いたい。五年間ずっと会いたかった』


『その時にルーシーをちゃんと見たい……そして、教えてほしい……』



「ひぅっ……」


 口元が震え、喉が詰まりそうになり、正しく息が吸えないまま手紙を読み続けた。


『俺が知らない五年間のこと。あの車の中で会話した時のように、今度はあの時以上に楽しくなるくらい話したい』


「うぅっ……ぅっ……私も……はなし、たい……っ」


『だから、約束の日、待ってて。その時まで楽しみにしてる。光流より』


 私はゆっくりと手紙を閉じた。

 顔を天井に向けて、涙が落ちないようにする。しかし、溜まった雫は目の横から零れてしまい、私の肩に落ちていった。


「はぁ〜〜〜っ。ぐすっ……あぁ……」


 長く息を吐きながら、目を擦り、鼻水を啜る。そして、真空の手を握る。


「真空、ありがとう……」


 真空は前と同じようにぴったりと横で寄り添っていてくれて、ずっと体温を感じていた。


「その感じは、クリスマス会ってくれそうだね?」

「うん……」

「良かった、良かった……」


 ゆっくりと真空に向き直り、私は真空を抱き締めた。


「あったかい……」

「よしよし……」


 これも前と同じだった。抱き締めてくれた真空は背中と頭を撫でてくれて。

 真空が一緒にいてくれるなら、何でもできそうだ。そんな気分になる。




 ――そうして日々が過ぎていき、ついに日本へ行く日がやってきた。



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