14話 前向き
ルーシーが真空のことで、前向きに話を両親に検討してもらっていた頃……。
「真空……さすがにそれは相手にも申し訳ないだろ……俺達の目の届かない所でなんて……」
「まぁ……そうなるよね。わかってたけど……」
真空は父に否定的な意見を言われていた。
その言葉でいつも元気な真空も、暗い顔を見せた。しかし、それも一瞬だった。彼女の凄いところは元気だけではない、切り替えの早さでもあった。
「でも、ちゃんと話をしたらお父さんも……お母さんもわかってくれるはず!」
夕食のテーブルの上。両親、そして小学生の弟がいる中で真空は意見を飛ばしていた。
「その宝条さんと一度お話してみてからでしょうね。あなたと仲良くしている話は前から聞いているけど、私達はまだ何もその子のこと知らないし、ご両親のことも知らない。まずは互いに歩み寄ることからじゃないかしら?」
真空の父とは違い、母は否定から入らなかった。
「お姉ちゃん、どこか行っちゃうの〜?」
そんな中、真空の可愛い弟が離れ離れになるかもしれないことが気になりだしたようだった。
「ええと。まだわからないけどね。でも、お姉ちゃんの人生で多分凄い大切なことなんだ。真来斗も、もう少し大きくなったらわかってくると思う。でも離れててもちゃんと電話とかするからね」
じっと真空を見る真来斗。いつも可愛がってきた弟。確かに両親と弟とも離れ離れになるのは、寂しいかもしれない。でもこれまでにない心の衝撃、多分逃しちゃいけないタイミングが今あると感じていた。
「うん……ぼくお姉ちゃん応援する。だって、お姉ちゃん最近すごい楽しそうなんだもん。それってそのお友達のおかげなんでしょ? なら大事にしたほういいよ」
小学生ながら人の気持ちがわかるとても良い子に育った。
その言葉を聞いて私は少し目に涙が溜まった。
「まきとぉ〜〜っ! 大好きっ!!!」
私は隣の椅子に座る弟をギュッと抱きしめた。そのせいで真来斗が握っていた箸が床に落ちてしまった。
「お姉ちゃん、ちょっとぉ……痛いよぉ。箸も落ちちゃったじゃん……」
「ごめんごめん〜〜っ! だって真来斗がこんなにも優しいんだもんっ」
そんな二人の様子を、温かい目で見つめていた両親。
父もはぁ〜っとため息を吐きながら、なんだかさっきよりも柔らかい雰囲気になっていた。
「――真空、お前が大切にしている友達、今度うちに呼びなさい。そこからでも遅くない。まだ時間はあるんだから」
「お父さん……ありがとう。ちゃんと近いうちに連れてくるから……」
ルーシーの家族については、ルーシーから聞いていて、凄く温かい家族だと言っていた。
でもうちの家族だって負けてないと思う――そう感じた。
「あとドラムについてだがな。俺は問題ないぞ。真空が初めて自分から興味を持ったことだ。どれが欲しいのか調べて教えなさい。ただ、この家は防音じゃないから練習するわけにはいかない。練習場所は考えてほしい」
そうか、練習場所も必要なのか。ドラムをやりたいってことは自分の中ではあったけど、練習場所まで考えていなかった。確かに家では大きな音出せないよね。
「わかった。お父さん、本当にありがとう。ルーシーとのことはまた言うね」
◇ ◇ ◇
翌日、学校のお昼休み。昨日と同じベンチで私と真空は互いの家で話していた事を話した。
「とりあえずお互いの親は前向きに考えてくれたってことだよね!?」
真空が私達が両親に話した結果を完結に述べてくれる。
「うん。多分そうなる。真空の話からも互いのお家に挨拶するところからだと思う」
私の両親も真空の両親もとにかく前向きに受け取ってくれたようだった。
うちの場合は最初からワガママを聞いてくれるような体勢ではあったけど。
「あー、ほんとよかったぁ〜。ほんとお父さんに言う時緊張した!」
「真空、ありがとうね。家族まで巻き込んじゃって……」
真空の人生を変えかねないことを私はしようとしている。もし本当に一緒に暮らすことになったら、どんなことがあってもちゃんと責任をとらなくてはいけない。
「なーに言ってるの。今までしたいことなんかなかった私を動かしてくれたのはルーシーだよ? 家族のことは私に任せておいてっ!」
真空はいつも私の後ろ向きな話を前向きに変えてくれる。そういう所はどこか光流に似ている。
多分私は自分とは反対のこういう性格の人が好きになるんだろう。真空も……光流も……。
「うん……本当にありがとう。真空と友達になれて、私本当に嬉しいよ」
「ふふっ。私もだよ……」
このあと、私達は互いの家にいつ行くのかを話し合った。
週末の休みが良いんじゃないかという話になり、互いの家に持ち帰って家族に相談することにした。
そんな中、歌のコーチのアレックスからメッセージが入った。
ちょうど週末、日曜日に私の曲を動画サイトにアップするという話だった。
「じゃあその日はどちらかの家で食事してる頃だねっ。どんな感じで皆から反応くるか楽しみだな〜」
「そこ真空が楽しみなの? 真空は褒めてくれるけど、こんな中学生の歌なんてそこまで聴かれないと思うけど……」
光流の為に作って、日本に向けて届ける為に歌を作った。英語版は完全に付属だけど。
自分がどう評価されるかは正直どうでも良かった。いつか何かの時に光流にこの歌を、気持ちを届けたい。それだけ。
「ほんとにルーシーは自分のことわかってないなぁ……。私の反応見てわからなかった〜? 私みたいに発狂してファンになる人絶対出てくるって」
それはそれで怖い。真空だからいいけど知らない人に発狂までされるのはちょっと怖い。せめて静かに発狂してほしい。
「そうかなぁ……そういうの変なコメントとかつきそうで怖いから私は見ない。真空が良いコメントだけ拾って私に教えて?」
もし暴言とかそういうの言われたら小学生の時のトラウマを思い出してしまうかもしれない。
今は光流、真空の存在。そしてアメリカの学校で仲良く話してくれるクラスメイトのおかげでそういうトラウマは身を潜めている。
「わかったよぉ。ルーシーのこと全部教えてもらったから、そこらへんはわかってる。私に任せなさい。クソコメは私が全て通報してデリートしてやる!」
なんならチャンネルのログイン情報教えようかな。真空にネガティブコメントは全部消してほしい。
いや……普通にかなり面倒くさい労力になりそうだ……やめておこう。
◇ ◇ ◇
家に帰ると、両親に土日どちらか真空を家に呼んでも良いかを聞いた。
父は土曜なら大丈夫との回答だった。なので真空には土曜日なら大丈夫だとメッセージで伝えた。
すると逆に真空は日曜日に時間をとってくれるらしく、その日に決まった。
土日どちらも互いの家に行くことになって忙しい感じはするが、こう大事なことを進めるにあたってスピード感があることは嬉しいことだった。
私は一つだけお願いごとをするのに真空にメッセージをした。
「私の顔、包帯巻いたままで失礼かもしれないけど、大丈夫かな……」
「大丈夫! その辺は私が予めうまく言っておく! 失礼なこと言ったらお父さんでもパンチしてやるんだからっ!」
真空はあんなに良い子だ。だから家族も良い人なはず……。
――そして、真空を私のお家に招待する土曜日がくる。
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