12話 本当の二人目の友達
『君が私に教えてくれた世界は 眩し過ぎて夢みたいだった ♪』
「おいおい……こりゃあ凄いな……」
「とんでもない歌声じゃないか……」
『君への想いが手からこぼれるほど 無数に増えていく まるで星空のような雨 ♪』
「――――」
「こんな感じかなぁ……」
私はできた歌をレコーディングしていた。
歌詞に合わせて既に音楽はついており、それに従って歌った。
歌のコーチのアレックスに、凄そうなスタジオに連れて行かれ、ちゃんとした機材と数名のスタッフに出迎えられた。なんか仰々しかったのでさすがに驚いた。
母同伴で訪れたスタジオは、プロも使うレコーディング施設だそうだ。
そんなところでレコーディングさせてもらえるなんて恐縮だった。たかが中学生のおままごとのような歌なのに。
「リンナ! グッドグッド! 最高だよ! これで録音終了だね! あとは編集するから一ヶ月くらい出来上がるの待っててくれ!」
アレックスが言うリンナ(凛奈)とは私だ。アメリカに来てからは親しい人にしかルーシーと呼ばせなかった。だから、今は家族と家の人、光流だけがルーシーと私を呼んでいる。
録音終了だとアレックスには言われたが、何十回も歌わされてるので、さすがに疲れた。
でも歌い切った。これがどんな感じになるんだろう。多少なり加工もするらしいので、自分で歌ってるよりも良いものに聴こえるのだろうか。
アレックスは褒め上手で、私を気持ちよく歌わせてくれる。収録した時のスタッフさんも優しくて、いつも以上に歌えた気がした。
ともかく曲が出来上がるのを待つことになった。
◇ ◇ ◇
そんな中学三年生のある日。私のクラスに転校生がきた。
この時期に中途半端だと思ったが、親の仕事の関係だそうだ。
しかもその転校生はなんと女の子で日本人だった。クラスに入ってきた時に黒髪だったので目立った。アジア系のどこかだと思ったが、よく見ると日本人という感じがした。
その子は、私の包帯の顔を見ると不思議そうな顔をしたが、私は意を決して喋りかけてみた。
日本語で日本人の子と話してみたかったからだ。
「ルーシー! ご飯食べに行こっ」
一ヶ月後、彼女とは凄く仲良くなった。
ルーシーと呼ばせるまでになっていた。ちょっと早すぎる気もしたが、途中から彼女がグイグイと迫ってくるので、なんだか拒否できなくてしょうがなかった。
めでたく私の、本当の、二人目の友達となったのが彼女。いつか光流にも紹介したい。
彼女がグイグイと迫るようになったのは、光流の話をしてからだ。
目をキラキラと輝かせ『運命的すぎる! 素敵過ぎる! 私、二人のファンになった!』なんて言ってきたりした。
私はそう言われるのが凄く嬉しくて、色々と光流のことを喋ってしまった。光流と会った一週間分と母から聞いた私が寝ている時の光流のことだ。
光流は歩けるようになってから、毎日のように私の病室に来ていたらしい。手を握って一人で私に話しかけていたとか。最初その話を聞いた時、あまりにも嬉しくて泣いてしまった。光流の事になると、いくらでも泣けてしまう体になってしまった。
「真空っ、待って!」
彼女、
学校には食堂もあるが、私はいつもお弁当を持たされていたので、それを持ってどこかで食べていた。
アメリカで通っている学校はとても広くて、庭にはたくさんの芝生や複数のベンチがあった。
真空が転校してきてからは、私にべったりでいつも一緒に昼食をとっている。
「ねぇ、今日ルーシーの歌出来上がるんでしょ?」
「うん、そうらしいよ」
ついに私の歌が今日出来上がるとアレックスから連絡があった。ドキドキする。どうなるんだろう。
真空にも歌のことは既に話していた。
「聴くの楽しみだなぁ〜。光流くんあっちで聴いてくれたらいいねっ!」
「うん……歌ってるの私だって言うのは直接会ってからにしたいから、聴いてくれるかわからないけどね」
日本語と英語での二パターンの収録をしたので、動画配信サイトなどでは、日本語で歌っているとわかるはず。日本人にも多少なりとも伝わるはずだ。
「聴いてくれるよ、きっと! なんて言ったって、二人は運命で繋がってるんだからっ!」
「真空、またそれ……運命好きだよね……」
真空は日本の恋愛少女漫画がかなり好きらしく、恋バナ大好き人間だ。だから私と光流の話も根掘り葉掘り聞かれた。確かに私も光流との運命は感じられずにはいられなかった。
「そりゃ女の子は運命とかに弱いでしょっ。実際ルーシーと光流くんは運命なんだし! 漫画じゃなくて現実、しかも目の前にいるんだから、興奮しないわけがないよっ!」
真空はいつもこうやって楽しく話す。悪い気はしないので良い。
彼女の性格はとても明るくて、どこか光流のような印象を受けた。暗闇に落ちてもずっと照らしてくれる光。それが光流。
そして真空は、暗い空気を青く澄み渡った空で晴々しい気持ちにさせてくれる。そんな感じだろうか。
真空は私から見ても凄い美人だ。長い黒髪はつるんと太陽の光で天使の輪っかができるくらい輝いていて、スタイルもいい。男子生徒とも元気に明るく話すので、モテている感じにも見えていた。
「真空は気になってる人、いないの?」
「ん〜ここにはいないかなぁ。てかまだ来て一ヶ月くらいだし? 全然わからない!」
一ヶ月か。最近友達になった真空の方が、私が目覚めている状態では光流と過ごした時間より長くなってしまった。二人目の友達が一人目の友達と過ごす時間を超えてる。
日本に帰ったらこの時間が逆転することはあるだろうか。真空より光流といる時間、長くなるといいなぁ。
「そういや歌のさ、ジャケット写真的な? あれめっちゃかっこいいよね!」
CDにはしないが、動画サイトに置くサムネイルのためにせっかくだからジャケット写真を撮ろうと言われて撮った。
ちなみに今回は仮面で顔を隠していて、名前は『エルアール』とした。ルーシーの頭文字のLと凛奈の頭文字のR。アルファベット頭文字を合わせただけの名前だ。最初『RINNA』などにしようかとも思ったが、私だと知られるのは怖かったので、絶対にバレない名前にした。
「かっこいいかなぁ? よくわかんない。適当なポーズしてると思うけど」
「ルーシーさぁ、自分のこと全然わかってない! 包帯巻いててもオーラが違うんよ!」
真空も私のことを包帯を巻き続けていても一緒にいてくれた人だ。しかも日本人。光流と同じで変わり者だ。……すごく、すごく嬉しい。
「そうかなぁ。光流にそういうこと色々言われたら嬉しいんだけどね」
「でた〜光流ノロケ! 私が可愛いとかかっこいいって言っても全然響かないんだもんなぁ。早く光流くんに会って、ルーシーの顔がトロトロになってるの見たいな〜」
「もうっ、真空ったら……そんな顔、光流の前でしか見せられるわけないでしょっ」
ちなみに病気はもう治っていて包帯は取れることも真空には言っている。でも先に光流に見せたいと言ったために、真空は素顔を見せないことを承諾してくれている。
こんなに理解してくれる同性の友達は本当に貴重だった。
約一年間、真空との時間も大切にしようと思った。
もっと仲良くなって、できれば、日本に戻っても一緒にいれたらいいな。
真空の進路はまだよくわからなかったが、両親の問題があるなら、私の家で一緒に住んでみたらどうか? なんて提案もしようと思っていた。
日本に戻ったら同い年の友達は光流しかいない。真空もいてくれたら……本当に嬉しいな。
でもこれは私のワガママ。真空はどう思ってくれてるだろうか。
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