第33話 再会
皆の看病のおかげもあり、数日後には無事に全快した。
陽川さんにノートを貸して貰えたことで欠席分の授業は埋められ、クラス委員の会議も月宮さんが出席してくれたことで事なきを得た。
復調した俺が登校すると月宮さんも陽川さんも喜んでくれた。
「相地くんが元気になって良かった」
「月宮さんが看病してくれたおかげだ」
と俺は素直な気持ちを伝えた。
月宮さんが傍で手を握っていてくれたおかげで悪夢を見ずに済んだ。
おかゆを作ってくれたり、買い出しに行ってきてくれたり、月宮さんがいなければ今回の風邪を乗り切ることはできなかっただろう。
「ねえねえ、あたしは?」
隣の席の陽川さんが自分の顔を指さしながら尋ねてくる。
「もちろん、陽川さんにも助けられた。本当にありがとう」
陽川さんも差し入れを買ってきてくれたり、果物を剥いてくれたりと、弱っていた俺を献身的に支えてくれた。
寒気を覚えた時には、寄り添って暖めてもくれた。
「相地くんのためならこれくらい当然♪」
陽川さんはにっと笑う。
「ちなみに比奈の看病とあたしの看病、どっちの方がよかった?」
「え?」
「あたしの看病の方がよかったよね?」
と喰い気味に尋ねてくる。
「それは別に甲乙つけなくてもいいんじゃないか……?」
「そうだよ、比奈。相地くんを困らせないの」
窘めるように言う月宮さん。
助かった。
月宮さんが大人の対応をしてくれて。
「それに白黒はっきりさせない方が比奈にとってもいいと思う。相地くんは私の看病の方が良かったに決まってるんだから」
違った!
バチクソに煽っとる!
「は? あたしは相地くんにリンゴをあーんで食べさせてあげたし? 寒がる相地くんを身体で暖めてあげたんですけど?」
「ふふ。私はおかゆを食べさせてあげたし、相地くんが寝ている間、ずっと傍にいて手を握っていてあげたよ?」
バチバチに張り合う二人。
戦々恐々としながら傍観していた俺の下に、薄木さんがやってくる。
「……あ、あの。もう回復されたんですか?」
「ああ」
「……よ、よかったです」
安堵の表情を浮かべる薄木さん。
俺は看病してくれてありがとな、と感謝の声を掛けようとして、寸前のところで言葉を喉の奥に押し込めた。
向こうは俺が気づいていないと思っているんだった。
実際はバレバレなのだが。
「すみません。どうしてもそれだけ言いたくて。教室では本来お声がけするべきではないと思ったのですが……」
そう言い残すと、薄木さんはそそくさと退散していった。
ちなみに。
三人とも風邪を引いた俺の傍に長時間いたにも拘わらず、誰一人風邪を移されて体調を崩した者はいなかった。
強すぎる。
ともあれ、俺は元の学校生活に戻ることができた。
放課後、復調祝いも兼ねてクラスの男友達とゲーセンに行って遊んだ。店を出た時にはもう日が沈みかけていた。
店の前で別れ、帰路につこうとする。
最初、月宮さんたちに告白された時はどうなることかと思った。また前の学校の時みたいにバッドエンドに直行するのかと。
でも、違った。
月宮さんも陽川さんも薄木さんも癖のある変わった人ではあるが、誰も俺に対して危害を加えてきたりはしなかった。
むしろ俺が弱った時には寄り添い、支えてくれた。
もっともそれは薄氷の上を歩くような危うさの上に成り立っていて、一つのきっかけで崩壊するものなのかもしれない。
けれど、少なくとも今のところは平穏な学校生活を送れている。
それがこれからもできるだけ長く続けばいい。
「なあ、あの子、めっちゃかわいくね?」
「でも凄い服装だよな。地雷系って言うの?」
近くにいた男子生徒たちが何やら声を潜めて噂していた。
彼らだけじゃない。
駅前にいる人たちの視線は、ある一点に向けられていた。
駅前広場の噴水。
そこに一際目立つ女性がいた。
バキバキに割れたスマホを手にし、地雷系ファッションと呼ばれる黒系のモノトーンの服に身を包んでいる。
アイシャドウによって作られた目と、目の下の涙袋。
一人だけ世界観が違う彼女は、周囲から浮いていた。
俺はその姿に覚えがあった。
いやでもまさか。そんなはずは。
足早に立ち去ろうとして、けれど、その場から離れることができない。靴が地面に縫い付けられたかのように動けない。
地雷系ファッションの女性は、ゆっくりと顔を上げる。
目が合う。
彼女はにいっと粘着質な笑みを口元に浮かべる。
そして小さく呟いた。
みつけた、と。
その瞬間、確信した。
――間違いない……!
噴水の前に立っていた女子。
彼女の名は花園麻里。
かつて俺の腹を刺した――前の学校のクラスメイトだった。
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※女子の名前、花宮→花園に変更しました。
(月宮さんと宮かぶりなことに気づいたため)
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