【一章完結】なぜかヤンデレにだけ好かれる俺が、ヤンデレ女子ばかりのクラスに転入してみたら
友橋かめつ
第1話 転入初日
俺こと相地結斗(あいちゆうと)は何の変哲もない高校二年生だ。
見た目および運動神経は中の中、学力は中の上、友人の数は片手の指が余るほどで、かと言って深く狭くではなく浅く狭い。
芸能人だと誰に似てるかと周りの人間に尋ねてみれば、大抵三枚目の脇役として良い味を出している俳優の名前か、お笑い芸人のツッコミの方の名前が返ってくる。
唯一母親にだけ坂口健太郎に似ていると言われたことがあるが、それを外で口にしようものなら失笑を買うか、ファンには指がつるほどに中指を立てられるだろう。
最悪、刺されるまである。
そんな何の特徴もない平凡な高校生の俺だが、唯一個性と呼べるものがあった。あるいは呪いと呼んでもいいかもしれない。
俺は昔から変な女子に好かれた。
変な、というのは少々濁した表現だったかもしれない。
より正確に言うのなら、病んだ女子に、だ。
普通の女子には全くと言っていいほどモテないが、病んでいる女子――異常な執着や愛情を持った女子にだけはやけにモテた。
あれは高校一年の頃だった。
後ろの席だった女子と仲良くなった。
最初はよかった。楽しく会話していた。
けれど仲良くなるうちに彼女の本性が剥き出しになってきた。
日に日にネガティブ発言が増え、自分を卑下する台詞を次々に吐き、そんなことないよの慰めの言葉をカツアゲしてくるようになった。
持ち前のヒステリックを発揮し、被害妄想を炸裂させ、俺が他の女子と話しているだけで癇癪玉を思う存分爆発させるように。
蓋を開けてみればとんでもないモンスターだった。
今思い返せば初見の段階で地雷だと気づけるはずだった。
スマホの画面はバキバキに割れていたし、サンリオのクロミちゃんのキーホルダーを通学鞄に大量につけていたし、ピンクのモンスターエナジーをストローで飲んでいた。
あと、私服通学可ということもあり、地雷系ファッションと呼ばれる黒系のモノトーンの服を着てきていた。
ヤバそうな女子の要素、数え役満だった。逆になんで気づかなかった?
それまで余裕で彼女いない歴=年齢だったし、新生活の始まりということもあって俺は浮かれに浮かれていたのだろう。目が曇っていたのだ。
その結果、刺されることになった。
お腹を。
それはもうざっくりと。
血まみれになった俺は病院に搬送され、生死の境目を彷徨い、結果的に後遺症なく一命を取り留めたが学校にはいられなくなった。
そして高校二年になる春に別の校区の高校に転校することに。
無事に転入試験を突破し、新学期の始まりと共に新しいクラスに。周りの生徒たちは一年からの顔なじみがいるが、俺にはいない。まっさらな状態だ。
転校生が来るという話は特に伝わっていないのか、クラスメイトたちからの好奇の視線を受けるようなこともなかった。
担任の先生の話が終わると、自己紹介の時間になる。俺は相地という名の通り出席番号が前なので一番目に回ってくる。
席を立つと、皆の方に身体を向ける。
「初めまして。相地結斗と言います。今年になってこの学校に転校してきました」
「相地くんは隣の県の高校に通っていたんですよ」
担任の宇喜多先生が注釈を入れる。彼女は今年で二年目の新米教師だそう。髪が短くて年齢よりも幼い印象を受ける。
周りの生徒たちからは、へえとかほうとか、小指の爪ほどの感嘆の声が漏れる。そういえば見たことないなと思ってたとも。
「皆、相地くんにこの学校のことを教えてあげてくださいね」
陽キャっぽい生徒から、はーい、と声が上がる。それによって、なんとなくこのクラスに受け容れられたような気がした。
「それでは、自己紹介の続きをどうぞ」
恐らく俺の緊張を悟って、ほぐそうとしてくれたのだろう。
良い先生だ。
おかげでその後はよどみなく話すことができた。
好きなものや趣味などを簡潔に述べる。余計なことは言わない。
自己紹介でウケようとか欲を出したら、取り返しのつかない事故を起こす。こういうのは無難に終えるのがコツだ。
話したいことは話し終え、以上です、と告げて着席しようとした時だ。宇喜多先生から疑問の一言が飛んできた。
「オチは?」
「はい?」
「今の自己紹介、オチがありませんでしたよね?」
お、オチ……?
宇喜多先生は笑みと共に俺を見ていた。
「話の最後にはちゃんと面白いことを言って落としましょう」
その瞬間、俺だけでなく、全生徒の背筋に戦慄が走った。
宇喜多先生は確か関西出身と言っていた。
何にでもオチを求める関西人の悪い性が出た。
しかしここで固辞すると空気を壊してしまう恐れがある。俺は必死に頭を絞り、面白いことを言おうとした。
「平凡な俺ですが、一つだけ変わったところがありまして」
「お、いいですね。それでそれで?」
「昔からよく変な人に好かれがちといいますか。そのせいで腹を刺されまして。この学校に転校してきたのもそれが理由なんですよー」
この学校に転校してきた理由――腹を刺されたことを笑い話っぽく話してみたが、周囲の生徒たちは明らかに引いていた。
エピソードの苛烈さに引いているのか、ウケほしさに話を持ったと思われたのか。
いずれにしても妙な間が生まれた。
はは、と俺が誘い笑いを繰り出すと、ようやく引きつった笑い声が漏れてきた。
恐らく白けさせてはいけないと思った誰かが助け船を出してくれたのだろう。
あるいはこの後、自分も話すのだから、空気を凍らせては大変なことになってしまうと危惧しての行動だったのか。
いずれにしても助かった。
ずるずるに滑ったら、転入初日から心が折れるところだった。
宇喜多先生は俺の自己紹介を聞き終えると言った。
「うーん。エピソードトークを話すなら、もっと臨場感が欲しいところですね。
せっかくお腹を刺されたというおいしいエピソードなのですから、そこに向けて序盤から着実な積み上げがあればよりよかったかと」
腹を刺されたエピソードをおいしいと捉えるなよ。気質が芸人すぎるだろ。
宇喜多先生はトークの赤ペン先生を終えると、
「まあいいでしょう。さあ、次の自己紹介、いきましょう」
俺の後ろの席に座る生徒がげっと息をのむのが伝わってきた。
その後、宇喜多先生の無茶振りにより、多数の犠牲者が出ることになった。一人、また一人と滑った生徒の屍が無残にも積み重なっていく。
全員の自己紹介が終わる頃には、宇喜多先生という共通の敵を得たことで、俺たちの間には不思議な絆が生まれていた。
何にせよ自己紹介は終わり、新しい学校での日々が始まる。
先述の腹を刺された経験を経て俺は学んだ。
もう病んでる女子とは関わりを持たないと。
いのちだいじに。ヤバい女子と関わったらいくつ命があっても足りない。今後はまともな人としか付き合いを持たない。
今度こそ絶対に平穏な高校生活を送ってみせる。
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