アンブロークン・ウェルフェア
LAST STAR
スタート!! 楽な連鎖を止めよう
こんにちはー! LASTSTARです!!
「もし、みなさんは毎日、5キロ必ず歩いてください。それが出来たら毎日、5万円をあげます。――そう言われたら、やりますか?」
読者の皆様、いきなりの問いかけで始まってしまい、申し訳ありません。
しかし、少し考えてから続きを見て頂きたいと思います。
はい。それでは私の回答です。
「んなもん、やるにきまってんだろ!!!! だって、お金欲しいもん!! それに月に150万だぜ? 単行本買って、ゲーム機買っても余裕でお釣り来るやん!!」
うん、なんと私は醜いのでしょうか……。
では、みなさんの回答はどうでしたでしょうか?
多分、大概の方は「やる」と答えかもしれませんが、もしかしたら「いや、嫌だよ」って人もいるかもしれませんね。
それでは「嫌だよ」とおっしゃった方に質問です。
「じゃあ、しょうがないから……毎日、家の中をグルッと一周したら、毎日5万をあげます。これでどうですか?――そう言われたらやりますか?」
これは言うまでも無く、全員がやると答えるのではないでしょうか?
どうでしたでしょうか?
いや、さすがお目が高い! 残り物には福来るってやつですね!
――ん? 何やら聞こえてきますね?
「何? 最初の答えをノーにすれば、楽して五万もらえるって?」
では、その後にこう付け加えて進ぜましょう。
「ああ、そうそう言い忘れていました!! 最初の質問で「嫌だよ」と言った人だけがこの条件です。嫌じゃないって言った人はぁ~残念でしたぁ! ルール通り、毎日5キロ歩いてくださいね! でないと、5万あげませんから!!」
――へっ 今、怒りました?
もし、これが本当だったら私は……胸ぐらを掴んで八倒していたかもしれません。
みなさんはどうでしょうか。
これ、馬鹿げていると思うのですが、福祉の支援。
とりわけ、重度の知的障害を持つ方の支援に当たるうえで大切な考えだと思います。
「んな、わけあるか! どこがやねん! この人でなし!」と聞こえてきそうですが――ここからはある程度、真面目に論理を説明します。
まず第一に、これを支援の一環だとしてとらえます。
つまり、読者の方が利用者さん。私が支援者だとして盤面をみます。
すると、あれよあれよと疑問がわいてきませんか!?
この人(LASTSTAR)はなぜ、利用者(読者)さんをこんなにも歩かせるために、褒美をちらつかせたのでしょうか? 理由が分かりません。
例えば、健康増進やダイエットの為? 糖尿病の運動療法とかも考えられますし、リハビリの為かもしれません。そう、まるで背景が不明なのです。
福祉の支援とは『説明ができる支援』でなくてはなりません。
説明できる支援以外は基本、『支援』とは呼ばないと私は思っています。
では、今回はみなさんが事例の対象なので歩く理由は「健康診断で運動不足なので、5キロは歩く運動療法をしてください」と医師から言われたことがきっかけ。
そして、お金は――国から制度が出ていて、補助金として出る設定にしましょう!
そうすればご本人にも、ご家族様にも説明は出来ますよね。
――てか、なんだ? その制度! ウハウハじゃねぇかって?
たとえ話ですよ、たとえ!
うん、健康も増進出来て、お金も入る。順風満帆……で・す・が!
二つ目の質問では……なんでしたっけ?
なんか、ほざいていましたよね……?
「家の中を歩いたら5万貰えるようにになっていて? あまつさえ、最初の質問で「やる」って言ってくれた人は知らん。ちゃんと歩かないと5万やらん!」って。
これを聞いたらさすがにクレームもんですよね。何なら、私は癇癪を起します。
「え? なんで癇癪を起すかって? だって、こっちは五キロも苦労して歩いて5万なのに、あいつらは家の中をノロノロ、テクテク歩いて5万なんだぜ? そんなん、ずるいだろ!!」
カネの亡者、LASTSTARはどうやら支援には従わないようです。ハイ。
……とまぁ、かく言う『読者さん』も同じで『従わない』のではないでしょうか。
これは知的障がい者様の支援でも同じです。支援において最低限、統一された支援が大切なのです。
LASTSTARが『A』というのに、C支援員が『B』をやったら、利用者様は混乱します。利用者様だって当然、楽な方が良いに決まっていますから――。
では、今から『読者様のパターン』でこんな最悪な支援がまかり通った時、どんな最悪な方向に転がっていくのか、一番想定しうる最悪の事例をお見せしましょう。
<想定事例:最悪盤>
――ある時、C支援員がLASTSTARに相談を持ち掛けます。
C支援員:『あのさ、最近……『読者様』が家から出てくれないんだよ』
LASTSTAR:『そっか……じゃあ、しょうがない。俺らも大変だし、家の中を周ったら5万にしよう』
C支援員:『そうだな。それが楽だし、報告書には外に出たことにしておこう』
その結果、読者様はお金ではウハウハになったものの、ご家族からクレームが入る。
ご家族様:「最近、『読者様』の体重が急激に増えているんだけど、大丈夫かしら? 報告書には5キロ歩いているって書いているけど、これはうそでしょ?」
C支援員:「ああ、いいえ! なんか、家の中でたくさん歩いていると聞いていますし……えーっと、大丈夫ですよ、きっと!」
そして、なんと半年後の健康診断で『読者様』が「要治療の判定」を受けて入院。
その結果、帰らぬ人に……。翌年には、ご家族が施設を相手取り、訴訟! 損害賠償請求額 1億となる。
さらには第三者委員会が立ち上がり、不正がたくさん暴かれ、施設は閉所。
関わった職員はマスコミのターゲットになり、家族が崩壊。
すべてがチリジリとなって行きましたとさ……。チャンチャン。END。
いや~大変ですね。あはっはっ!
でも、これは作り話だからいいですが、実際なら到底、笑い事ではありません!
先ほども書いた通り、『支援は説明が出来なければ意味がありません』
この事例で言えば、過去の背景が加味された支援がなされていなかった事や支援の継続が困難となり始めた時、複数の支援を講じた経緯がないこと、ご家族に十分な説明がされなかったことが大きな問題です。
さらに言うならば、支援者2名の知識で決められ、組織としての決定がなされていない事やノウハウが明らかに足りて居ないことも明らかな問題です。
もっと大局的に見れば、その施設が何人いたか知りませんが……職員2名で在籍する職員、利用者を路頭に迷わせるという、はた迷惑なことをやらかしたと言う事になります。
では、どうするか。
あくまで、私が支援員であるならばの前提で列挙すると――
まず、『なぜ、この読者様がこの制度を利用することになったのか』、それから『ご家族の意向と読者様の意向はどうなのかを考察、汲み取ること』から始めます。
その上で、施設内のカンファレンス。または上司、同僚(最低3名)で支援方針を提案、協議し、ご家族に「こういう支援を行いますよ~」と許諾を貰います。
仮に、今回のように読者様が癇癪を起してしまい、困難事例(支援が継続できない状況)となった場合はご家族の意向を汲み取りつつ、人を変え、品を変え、それでもだめなら環境を変え、組織を変えて実施していきます。最悪は「これとこれ、それからこれもやりましたが、実施できませんでした」と事実の報告を行います。
んー、ただ、これは少し表現が難しいうえ、読者様はいろんな願望があるでしょうから考察はできないので……。これは、またしても利用者『LASTSTARさん』の出番ですね。
LASTSTAR:「そんな支援、知るかい! 俺は家から出ないぞ!!」
どっかの支援員(?):「あ、そっか……じつはさぁ~有名な出版社さんとコネクションがあるんだけどな~? しっかり体調が完全でない人は見てくれないらしいけど、状況が良くなれば見てくれるらしいんだよね~」
LASTSTAR:「ほぇ!? マジ!?」
どっかの支援員(?):「うん、マジ。ただ、健康的ですって判定が出たからって終わりじゃないよ? 3年はキープしてもらわないと」
LASTSTAR:「3、3年!? そんなにできるか!!」
どっかの支援員(?):「いや、だって……健康的な人しか見ないって言ってるんだよ? 何なら、この話は無かったって事に――」
LASTSTAR:「わ、わかりました!! やります!!」
……とまぁ、極端な例ですが、こんな具合で支援のポイントを変えていきます。
当然のことながらその人にとってのやる気に繋がるポイントは三者三様です。
そして、知的障がいを持つ利用者様にとって我々の言葉は届かない時もあります。
だからこそ、事実に裏付けをされた継続的な支援が必要なのです。その時だけ、「私が関わる時だけ良ければいい」という訳ではありません。
しかし、同時に履き違えないでいただきたい事があります。
統一した支援や継続的な支援は『何時何分、地球が何回回った時までに、○○を必ず、終わらせないといけないんだぁ!! なんでできないんだ。ダメだろう!!』という考えではありません!!
今、これを見ている読者さんも様々な反応があり、感情があってここにたどり着いているはずです。それと同じで『話せなくても、動けなくても利用者様は人間です』
少しのことで感情が高ぶったり、落ちたり……その表現を行うために殴ってしまったり、噛んでしまったりすることだってあります。でも、それを受け止める強さを支援に当たる皆様には持っていただきたいと思います。
叩くから薬で抑制しようとか、寝ないから眠剤を使おうという考えに至る前に、一度、生活記録を見直して原因を探り、それに対して長期・短期スパンでの支援策を徹底して行っていく。その必要があると私は思います。
うまく行かないから楽に逃げる。それが簡単なのも十分に承知しています。
それでも、大局的に見れば利用者様はこう思うはずです。
「殴れば○○できる」、「噛めば○○してくれる」と。
それは後世の新人が困る事にもつながり、職員が辞めていくことにもつながっていきます。「そんなことない」と聞こえてきそうですが、事実です。
前文でも書きましたが、人は基本、楽をしたい。そう考える人が多いです。
特に、舵が一度でもその方向に切られると次第に加速する傾向が高い。
だって、楽をして稼げるならそれに越したことはありませんから。
そうして、楽をしたい人間はこう考えるのです。
『支援は大変だ。なら支援を楽にしよう』と。
そして、支援を楽な方へ崩す。すると、ベテランは「支援はね、そうじゃない」と言います。でも、一番最初の事例で証明されている通り、楽を覚えたら楽な方が良いんです。
「いや、別に楽なんだから良いっしょ!」
その結果、どうなるか。支援をしっかりする人間としない人間に分断され、ベテランと新人の間で溝が深まる可能性が出てきます。そうなってくるとベテランは仕事に対する魅力や積極的な意欲が落ちていきます。
「あいつら、楽してんのにさ? なんで俺だけ苦労しなきゃならんの?」と。
そして、自分の施設より高い給料の求人を見たら――分かりますよね?
この職場には魅力が無いと判断して、利益を追求して離職します。
残された新人はノウハウも無く、ただ楽な方に逃げて行き、支援に行き詰まる。
しかしながら、頼れるベテランが居ないから支援の方策が練れない。練れてもうまく行かず、行き詰まる。
どうしよう、どうしよう……。こうなってしまったら、もうおしまいです。
立て直しには数十年掛かるでしょう。その事実が残るだけなのです。
今回は私が思う福祉の論理を噛み砕いて書いてみました。
新年が明けて、新年度が数か月先に控える今、皆様の各職場で支援観について考え直す良い機会となることを願って、締めくくらせていただきたいと思います。
最後になりましたが、最前線に身を置くいち福祉職として皆様のご活躍をお祈り申し上げます。ご拝読頂き、ありがとうございました。
アンブロークン・ウェルフェア LAST STAR @LASTSTAR
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