いつもと逆の異世界転移

狐付き

災難の始まり

 アンテーノ王国の王の間で、突然床が光った。

 何ごとかと兵などが集まると、そこにはひとりの少年が立っていた。


「俺、勇者! 召喚されにやって来たぜ!」


 よくわからぬことをほざく。召喚されにやって来たという言葉がまずおかしい。ちゃんと学んだのだろうか。

 完全に怪しい。だがセキュリティの高い王の間でこんな登場ができる相手だ。どんな力を持っているかわからないため、下手に刺激をするわけにはいかない。


「あんたが王様かい? 魔王、倒すよ!」

「ま、魔王とはなんだ?」


 王は混乱する。突然なにかを倒すと言われても困る。

 そこで宰相が耳打ちをする。


「陛下、魔王というのは下々のものが楽しむ物語に出てくる、悪いもののことです」

「ほう、では勇者というのはそれを倒すものということか?」

「おっしゃる通りで」


 王は少し考える。建国より250年。様々な戦はあったが、魔王とされるなにがしと戦ったという話は聞いたことがなく、またそのような存在も確認されていなかった。


「貴公がどこからきたかわからぬが、あいにくそのようなものはいない」

「えっ? じゃあ魔物は? 魔族とかもいないの?」

「よくわからぬが、いない」


 勇者と名乗る少年は頭を抱える。どうやら思っていたのと違ったらしい。

 しかしすぐ立ち直ると、王へ目を輝かせて訊ねる。


「で、でも魔法はあるんだよな?」

「魔法……なんだ?」

「陛下、魔法というのは下々が楽しむ物語に出てくる、ひとが操る超常的な力のことです」

「なるほど……ないな」

「そんなぁ」


 少年は項垂れる。だがまたすぐ気を取り直すと、どこからか大きい水晶玉のようなものを取り出した。


「これ、魔法の属性がわかる玉! ちょっとこれに手を触れてみて!」


 怪しげな少年が怪しげなものを出してきて、それに触れろという。怪しい。

 だがこのような頭より大きなものを体のどこかに隠していたとは思えない。他になにを隠し持っているかわからぬため、下手に逆らうわけにはいかない。


 とはいえ王にやらせるわけにはいかないため、宰相が恐る恐る触れる。


「あー、いいね。赤く光ったから火属性に適正あり……てか普通に魔法使えそうだ!」


 よくわからぬが、どうやらこの世界でも魔法が使えるらしい。


「魔法が使えるんだから、俺が世の中に魔法を教えればいいんだな!」

「やめてくれ」


 突然そんなものが世に知られてしまったら世界が狂ってしまいそうだ。


「あとは魔物と魔族を召喚して……そうすれば勇者が必要になるな!」

「貴公が魔王か!」


 こうして魔物あふれる世界がまたひとつ誕生した。

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いつもと逆の異世界転移 狐付き @kitsunetsuki

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