第2話 やっぱり遊ぶからには賭けの要素がないとなぁ!?
キャラメイク。
それは新規のフルダイブVRではほぼ必ず最初に行うイベントであり、最も重要と言っても過言ではない時間である。
一部例外はあるが、ほとんどのゲームではここで作成したキャラクターをこれからのプレイで使っていくわけなので、プレイヤーは皆、自分の分身作りに苦心する。
GDOではそこは、星々が瞬く真っ暗な宇宙空間だった。
『ようこそ参られました、勇敢なる開拓者よ』
女神のような厳かな声が響いて、ログインで朦朧としていた意識がはっきりしてくる。でも目線だけで、体がない。独特な浮遊感だが、不快ではなかった。
『私は世界を守護する神の一柱。まずは我が呼びかけに応じられたことへの感謝と、訳があるとは言え名乗れぬ非礼、そして姿を見せられぬ無礼への謝罪を。世界を移動した影響で、今のあなたは魂だけの状態です。己の肉体を思い出して、存在を安定させてください』
「何かキャラメイクの時点からすごくしっかりしてる」
αテストではなかった女神のセリフにちょっと感動していると、目の前に1人の男性アバターが、手元にはウィンドウが現われる。ウィンドウにはアバターの作成方法だろう、『フルオート』、『セミオート』、『マニュアル』の3項目が表示されていたが、残念ながら俺はどれにも用はなかった。
「あー、えーっと、アバターだけどさ、何か聞いてたりしない?」
『あなたは……なるほど、あなたが主神の仰せられていた者なのですね』
若干の間の後、目の前にあった男性アバターが消滅し、代わりに──え……?
『それと、主神からの言伝です。「サプライズプレゼントは喜んで貰えましたか?」と』
「富岳院さんさぁ……」
ちょくちょく『ネバーランド』に顔を出している富岳院さんが何か子供達を巻き込んでやってるのはしっていたが、このアバター作ってたのかよ……
踵まで伸びる乳白色の長髪。
髪色とは対称的に茶褐色の肌にボロ布のシャツと短パン。
キラキラとキレイなサファイアブルーの左目と、汚く濁り曇ったアッシュブルーの右目。
パーツパーツを見れば、子供達が見ているアニメのキャラから取ってきたんだなとわかるが、何故闇鍋にした?
俺、こんな濃いアバター使ってこれからGDOやんのかよ……
せめて身長は欲しいが──あ、ダメだ。視点同期したら酔いそう……
「……まあ、別に俺はアバターはあまり気にしない質だけどさ……あぁ、まあ、いっか……」
どうせ選択肢なんてないのだろうし、諦めてしまった方が楽になれるだろう……
『まだ多少の綻びがあれど、肉体を思い出すことができたようですね。次はあなたの血筋、あなたの故郷、そしてあなたの目指す夢を思い出してください』
アバターの見た目を決定して次に進むと、ウィンドウには『種族』、『出生』、『職業』の3つの項目が表示された。
順番に『種族』の項目を選ぶと、新しく4つの項目が現われた。
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・彩人:様々な色を持つ種族。一部ステータスに固定値プラス補正(小)。
黒人族、青人族、黄人族など
獣人程の力はなく、魔人程の親和性もない。でも手札の数は負けないよ。
・獣人:獣の特徴を持った種族。一部ステータスにプラス補正(小)。MPを使用しない技能の習得にプラス補正(中)。MPを使用する技能の習得にマイナス補正(中)。
狐獣族、猫獣族、狼獣族など
物理こそ力。力こそパワー。脳筋?脳まで筋肉って強そうじゃん?
・魔人:魔の特徴を持った種族。一部ステータスにプラス・マイナス補正(中)。MPを使用しない技能の習得にマイナス補正(中)。MPを使用する技能の習得にプラス補正(中)。
森魔族、械魔族、血魔族など
魔法こそが神の与えたもうた芸術。最後は知を深めた者が生き残るのさ。
・ハーフ:2つの異なる種族の特徴を半々ずつ受け継いだ種族。ハーフ限定種族も選択できる。
光人族、竜獣族、巨魔族など
先祖の偉大な血を2つも流しているんだ、誇りにかけてなおさら負けられないよね。
────────────────
実を言えば、ここから先は事前にホームページで情報が公開されていた。それだけ組み合わせが多いということであり、そして考える時間は与えられていた。
先にこの4つを説明すると、彩人が見た目普通の人間の種族で、様々な色というのは髪のメッシュだったり爪の色だったりに影響してくる。
なお、目の色、髪色、肌の色はアバター作成で自由に選べるので、種族で選ぶ色はステータス補正の違いだったりアクセサリー程度にしか差がない。
獣人は純血だと二足歩行した人に近い獣といった感じで、ハーフだと獣耳獣尻尾を生やした獣に近い人となる。
ちなみに獣人と別の獣人のハーフでも獣に近い人の見た目になるが、獣耳獣尻尾が短く中途半端な感じになる。ハーフはα時には用意していなかったから、どういう仕組みになっているかは俺もよくわからない。
魔人はファンタジー種族の集まりであり、項目の例に挙がっているのはそれぞれエルフ、オートマタ、ヴァンパイアである。この辺りはイメージしてくれ、としか言えない。
ホームページで見たとき、彩人、獣人、魔人という項目はαの時と同じままだから油断して、中身は2倍くらいに候補が増えていて驚いたな……
「さて、それじゃあ事前に決めたように──」
俺が選ぶのは魔人の1つで小魔族だ。背丈が小さくすばしっこいのが特徴のこの種族はHP、DEF、MNTがマイナス10%される代わりに、DEX、AGIにプラス10%の補正が入る。つまりは紙耐久だから頑張って避けてねという類である。
「──あれ?背丈がさらに低くなった?」
種族を設定すると、目の前のアバターがさらに縮んだ。どうやら種族によって身長制限があったようで、さっきまでは『ネバーランド』の俺よりやや高いぐらいだったのが、やや低いまでになってしまった。
…………気にしたら負けである。俺はこうすると決めたのだ。まあ視点酔いがあったら仕方なく、仕方なく変えても──酔わないなぁ……
「……続いて出生は──」
────────────────
・出生
準男爵:初期所持金4000Cre、全ステータス+9、『英雄の子孫』
男爵 :初期所持金5000Cre、全ステータス+8
子爵 :初期所持金6500Cre、全ステータス+6
伯爵 :初期所持金8000Cre、全ステータス+4、『英才教育Ⅰ』
辺境伯:初期所持金10000Cre、全ステータス+3、『英才教育Ⅰ』、『辺境の誇り』
侯爵 :初期所持金12500Cre、全ステータス+1、『英才教育Ⅱ』
公爵 :初期所持金15000Cre、『英才教育Ⅱ』、『王家の血筋』
兵士 :初期所持金3000Cre、全ステータス+12
商人 :初期所持金3000Cre、全ステータス+10、『目利き』
職人 :初期所持金3000Cre、全ステータス+10、『職人の業』
お抱え:初期所持金3000Cre、全ステータス+10、『芸術の才』
裏社会:初期所持金2000Cre、全ステータス+10、『闇に生きる者』
族長 :初期所持金3000Cre、全ステータス+10、『長たる器』
組合 :初期所持金3000Cre、全ステータス+10、『組合員の証』
学者 :初期所持金1000Cre、全ステータス+6、『観察』、『目利き』、『探求者』
狩人 :ゲーム開始時にランダムに素材獲得、全ステータス+10、『解体』
放浪者:初期装備変更、『放浪する者』、『秘められた可能性』
奴隷 :初期の所持金-300000Cre、初期装備変更、『隷属する者』、『秘められた可能性』
孤児 :初期装備変更、『親なき子』、『秘められた可能性』
元名家:初期装備変更、特定の他の出生を指定(出生によるステータス補正と初期所持金、初期技能は受けられない)。『被虐体質』、『秘められた可能性』
────────────────
出生ではゲーム開始時の所持金、ステータス加算、所有技能が変わってくる。
これらの中で明らかに毛色が違うのが下4つだ。
────────────────
技能『放浪する者』
リスポーン地点がランダムになる。
(リスポーン地点は行ったことのない場所、生存不可能領域も含まれます。初期地点は所属開拓地です)
この技能はワールドマップの踏破率が10%以上になると『旅路の記憶』に変化し、秘められた可能性を開花させる。
運命に翻弄される者は己の命すらも秤に乗せることを強いられた。しかしそれでも前に進むことが出来れば、苦難に見合った才能が目覚めるだろう。
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技能『隷属する者』
獲得キャラ経験値-100%。トレード機能使用不可。取得物強制売却。
この技能は借金を返済すると『奴隷の記憶』に変化し、秘められた可能性を開花させる。
主に命を握られた奴隷は、叛逆の芽を潰すために成長を禁じられた。しかし己の身を買い戻すことが出来れば、苦難に見合った才能が目覚めるだろう。
────────────────
技能『親なき子』
アイテムドロップ率半減。獲得キャラ経験値-50%。
この技能はキャラレベルが30以上になると『孤児の記憶』に変化し、秘められた可能性を開花させる。
教えられるべき常識を知らない無垢な魂は効率を知らない。しかし我流の成長を遂げることができれば、苦難に見合った才能が目覚めるだろう。
────────────────
技能『被虐体質』
初期ヘイト値上昇(極大)。ヘイト上昇量増大(極大)。獲得キャラ経験値-50%。
この技能はマスターした職業数が10以上になると『雌伏の記憶』に変化し、秘められた可能性を開花させる。
凶運に愛されたその者の前には、大小様々な困難が待ち受けているだろう。しかしその全てを己が力で乗り越えられれば、苦難に見合った才能が目覚めるだろう。
────────────────
技能『秘められた可能性』
今はまだ埋もれる才能の片鱗。目覚める時をただ静かに待っている。
────────────────
これらは所謂ギャンブル出生であり、それぞれの条件を満たせば何か強スキルが生えてくるものだと見た。
ぶっちゃけ俺はこういうのが大好きである。よって出生では元名家、フレーバーとして公爵家を選択した。
「いやまあ、この4つ全部ってのも面白そうだけどね……システム的に出来ないだろうし」
ヘイトならどうにかなるやろー、という浅い見積もりである。
『くふっ』
「ん?」
今、何か聞こえた気が……気のせいか。
「最後は職業っと──」
────────────────
・彫刻家志し
彫刻刀や槍鉋などを使う、近接戦闘が得意な職業。重要なのはSTR、AGI、DEX
憧れたのは、命宿る表現力だった。
・美術家志し
筆やパレットなどを使う、魔法戦闘が得意な職業。重要なのはMP、INT、DEX
憧れたのは、非現実な現実だった。
・音楽家志し
楽器や指揮棒などを使う、戦闘支援が得意な職業。重要なのはVIT、INT、DEX
憧れたのは、束ねられた海だった。
・小説家志し
ペンや本などを使う、オールラウンダーな職業。重要なのはHP、VIT、MNT
憧れたのは、記憶に残る一言だった。
────────────────
従来のRPGとは違って、GDOの職業は表現者がベースとなっている。
まあ元々『ネバーランド』の子供達にも遊ばせるつもりだったし、剣やら槍やらは他でもできるから、もうちょい現実に寄せたラインナップとしてみた。
そしてここから俺が選ぶのは音楽家である。無難なのは彫刻家だが、ゴリゴリの近接職っていうのは飽きた。なのであまりやったことのないバッファーをしてみようと思う。
ちなみに俺に楽器の演奏経験はない。
『上手です、体がドンドン安定化しています。最後に、あなたの名前を教えてください』
プレイヤーネーム。これは普段使っているものを。
「ドットレス」
『では改めて開拓者ドットレスよ、ようこそ参られました。あなたを準神天使として任じます。あなたに願うことは滅びた世界の復興です。そのためにあなたへ『具象化』の力を授けます。この力があなたの魂に呼応して、あなただけの形となりましょう』
視界が光に包まれていく。ついに懐かしきGDOの世界だ、満喫するぞ──
『あなたの果てに夢が叶うことを』
────────────────
称号『準神天使』を獲得しました。表示称号に設定します。
称号『平行世界の記憶を持つ者』を獲得しました。
技能『放浪する者』を獲得しました。
技能『秘められた可能性』を獲得しました。
技能『隷属する者』を獲得しました。
技能『秘められた可能性』を獲得しました。
技能『親なき子』を獲得しました。
技能『秘められた可能性』を獲得しました。
────────────────
「……んんっ!?」
ちょっと待って!?今とんでもないものをぶっ込まれた気がするんだけど!?
しかし全ては遅く、声を発する前に俺の意識は暗転した。
「……とまあ、そんなことがありまして」
「いやいや待って待って」
ミンストレルが頭を押さえる仕草をする。
「えっと、つまり?」
「まあ、俺のステータスはこんなことになりましたってわけで」
3列に分かれているメニュー画面、その右に表示されている数値の羅列を俺は2人に見せる。
────────────────
名前:ドットレス(Lv:0)
職業:音楽家志し(Lv:0/20 ☆0)
所属:第98開拓地(Lv:0)
称号:準神天使
種族:小魔族
出生:元公爵家
~技能~
『小魔族』(2/2)
『元公爵家』(1/1)
『被虐体質』(1/1)
『放浪する者』(1/1)
『隷属する者』(1/1)
『親なき子』(1/1)
『秘められた可能性』(1/1)
『秘められた可能性』(1/1)
『秘められた可能性』(1/1)
『秘められた可能性』(1/1)
~称号常時効果~
なし。
~装備~
・ボロボロのシャツ(胸装備)∞/∞
・ボロボロの短パン(腰装備)∞/∞
残りSP:0
所持金 -300,000Cre
【※注意※】
・楽器を装備していないためアーツ経験値が取得できません。
・楽器を装備していないため一度に獲得できるジョブ経験値に上限があります。
・キャラレベルとジョブレベルの合計が20以上になるとデスペナルティが発生するようになります。
・拠点発展度が3以上になるとエネミーが拠点を襲撃できるようになります。
・現在表示している称号の上位互換の称号があります。
────────────────
「……これ、プレイできるんすか?」
「ぶっちゃけ分からん。全部あってもいいなとは思ったけど、本当に全部来るとどうするか悩む」
ジャガイモの珍しい呆然とした声に俺は苦笑いして返す。
「まあやってみるわ。成功したら絶対楽しくなりそうだしな」
「あー、ドットレスはギャンブラープレイ好きっすよねぇ」
「うちには理解できないスタイルですわー。βにはなかったものだから余計に手も出しにくいし」
「俺が楽しく感じるように遊んでるだけなんだけどなぁ」
そんなにおかしな考え方だろうか?
「それで、2人は?」
「ドットレスの後はハードルが上がるねぇ」
ミンストレルがケラケラと笑う。
「まあ私はこの目の通り純血の
「おいらは象獣族と猫獣族のハーフっすね。HPがプラス1.3%、DEXがプラス3.8%っす。出生は職人で、職業は美術家っすね。おいらは生産希望っす」
「あー、その微妙な猫耳、象とのハーフなのか……顔は別に普通だな?」
「あ、でも瞳孔はちょっと縦長だし、鼻もちょっと高めっぽい?」
「あとは産毛程度に猫ヒゲもあるっす──2人とも顔が近いっす!」
ミンストレルと2人でジャガイモの顔を覗き込んでいたら、ジャガイモがソワソワし始めたので軽く謝って離れる。
「悪い悪い──他の連中は?」
「研究協力を蹴って普通に他の場所でスタートした面々はいいとして、卒業組は今日の夜からだと。何でも別ゲーのイベントが今日の夜までらしくて、それを完走したらこっちに来るとか」
「ふーん」
「ちなみに研究協力も受けたっぽいっすよ。別に必須じゃないのに、『仲間はずれは嫌だ!』とか言ったらしいっす」
「何だそりゃ」
体が快復して『ネバーランド』から卒業していった顔を思い出して……言いそうだと苦笑い。
「……さて、他に何か喋ることないか?話題は何かあるよな?」
「あんた……いい加減現実逃避は止めなさいな」
「じゃあ話題はあれでどうっすか?」
「それが嫌だから他の話題を探してるんだろが!?」
ジャガイモが森の入り口を指さし、俺はその光景を否定する。
「大人しく原因は自分だと認めて収拾付けてよ。じゃないと迷惑なんだけど」
「わーったよ……」
先程まで青々としていた森の木々だが、少し目を離した内に茶色い斑模様でいっぱいになっていた。
俺は溜め息を吐いて諦めて、改めてキャラメイクでの自分の短慮を呪った。
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