とある銀河の宇宙戦記 「The Galaxy War Chronicles」帝国侵攻編 緒戦

なつきコイン

第1話 緒戦

 銀河標準暦723年

 後に千年戦争と呼ばれるアンタレスドラゴニア帝国とディオスクロイ王国の戦いは、帝国が大銀河中央エリア(エリアC)を縦断するワープ航路を開拓したことによって始まった。


 それまで、エリアCには宇宙空間物質が多すぎるため、ワープ航路を敷設することは不可能とされていた。

 ワープ航路がなければ、エリアCの縦断には、光の速度でも3万年かかる。


 そのため、エリアCを挟んだ位置にある、大銀河の南側(エリアS)を領域とする帝国と、北側(エリアN)を領域とする王国とでは、直接の接点がなく、お互いに侵攻などあり得ないと思われていた。


 それが、帝国によって覆されたのである。


 この日、王国で最もエリアCに近いプロプスでは、いつもと変わらない日常が繰り広げられていた。

 それは、プロプスに常駐する王国軍の駐屯地でも変わらなかった。


 その日常を打ち破るように緊急事態を知らせるサイレンが鳴り響いた。


「何事だ!」

「エリアC方面から未確認艦が接近中!」


「エリアC方面? 連邦方面ではないのか?」


 これより五年前、718年、大銀河の東側(エリアE)に、領域拡大を続ける帝国や貿易に不当に圧力を掛けてくる王国に対抗するため、小国が集まって連邦が成立していた。


「いえ、違います。大銀河中央方面からです」

「だとすれば、海賊か?」


 ――増長した連邦軍が迂回してきた可能性もあるか……。


「未確認艦は何隻確認されている?」

「現在のところ数十隻! ですが、どんどん増えています!」


「増えている? エリアC方面からワープしてきているのか? あり得ないだろう」

「ですが、どこかに隠れて近づける数ではありません」


「兎に角、至急全艦に迎撃態勢をとらせろ」

「了解しました」


 この時、プロプスに駐留していたのは、戦艦2、母艦1、巡洋艦12、駆逐艦80。

 それに対して帝国軍が送り込んできたのは、M35要塞を主軸に戦艦10、母艦10、巡洋艦40、駆逐艦500の大艦隊だった。


 圧倒的な兵力差の前に、プロプス駐留軍は殆ど戦闘をすることなく降伏、軍人の殆どが投降を選んだのだった。

 それというのも、王国ではここ数百年戦争といえる戦いは起きておらず、最近になって連邦が成立し緊張が高まっていたものの、本当に戦争が起きるとは誰も考えていなかったからである。


 プロプスの駐屯地を任されていた指令も、せいぜい、海賊退治で戦闘が行われることはあっても、艦隊戦を余儀なくされるとは思っていなかったのだ。


 それも、相手は要塞を据えた大艦隊だ。

 とてもではないが勝ち目がない。

 要塞相手では、プロプス全土が焼け野原にされてしまう。

 実際にM35要塞にはそれだけの戦力が備わっていた。


 普通、要塞は守備のために据え置かれている物だ。

 だが、帝国のMナンバーの要塞は、元が移民船を改造したものであるため、ワープ航行が可能であった。

 流石に戦艦のようなスピードは出ないが、ワープ航行ができるのと、できないでは天と地ほどの差があった。


 実は、エリアCにワープ航路を開通できたのも、このMナンバーの要塞をつぎ込んだからである。


 ワープ航路を通すには、そこにある障害物を除去しなければならない。

 それを、要塞の大きさと攻撃力で一気に切り拓いていったのだ。


 イメージ的には、今まで、スコップ片手に手作業で道を作っていたところに、大型のブルドーザーを導入したようなものである。


 だが、普通ならそんなことはできない。

 なぜなら燃料代というコストがかかるからだ。


 戦艦でさえ、通常速度のワープ4で飛べば一日で百万Gのコストがかかる。

 高速航行のワープ6なら、ゆうに一億Gを超える。

 要塞ともなれば、その何十倍にもなる。

 普通ならすぐに財政破綻である。


 帝国に何故そんなことができたかというと、それにはちょっとしたカラクリがあった。


 それは、そもそも帝国は希少種であるドラゴンが帝王となり、移民であったドラゴンを中心に発展してきた国であったからだ。


 この世界の主なエネルギー源は魔力であり、ドラゴンは、それを自ら無尽蔵に生み出すことができた。

 つまり、燃料コストはかからないのだ。


 帝国では、多くのヒトがドラゴンからその恩恵を受けて生活していた。

 安価なエネルギーを得られることにより、帝国はその支配地域を急速に拡大していったのだ。


 帝国は、ドラゴンの無尽蔵ともいえる魔力使い、ワープ航路を敷設していった。

 ワープ航路の開通により、エリアCの縦断にかかる日数は、わずか一月となった。


 帝国軍はワープ航路を使い、圧倒的な物量を持って、エリアCにある星を占領していった。


 エリアCには無数の星があったが、ワープ航路がなかったため、それぞれが孤立した小国家でしかなかった。

 そんな小国に、エリアSほぼすべてを治める大国である帝国に抵抗する術は無かった。


 帝国は、エリアCの星を拠点に補給路を確保すると、エリアNを領域とする王国に大軍を持って攻め込んだのだ。


「カサンドラ将軍、プロプス駐留軍が降伏しました」

「そうか」

 ドラゴンである帝国軍将軍カサンドラは、部下の報告に作戦開始後初めて満足げな顔を見せた。


「随分と呆気なかったですね」

「そうだな。だが、まだこれは緒戦だ。本番はこれからだぞ」


「そうですね。次は、どこを攻め落としますか?」

「メブスタだな」


「第三の都市があるアルヘナではないのですか?」

 距離的にはメブスタよりアルヘナの方が圧倒的に近い。そのうえ、戦略的にもアルヘナの方が重要拠点である。

「メブスタを速攻で落として、王都カストルを攻める」

 カサンドラ将軍は地方拠点を無視して、直接王都に急襲する作戦を考えているようだ。


「アルヘナを残したままで大丈夫ですか? 後背を突かれますよ」

「それに備えて、M35要塞はここに残していく」


「成る程、要塞は足も遅いですし、ここからはスピード勝負の速攻ですね」

「そうだ。王都が守りを固める前に、攻撃を仕掛ける。王都を落としてしまえば後はどうとでもなるだろう」


「了解です。それでは急ぎ発進の準備を進めます」

「そうしてくれ」


 こうして、千年戦争の始まりは、帝国軍がほぼ無傷で王国のプロプスを陥落させることで幕を開けたのだった。


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