僕が登山をスタートに選んだのは。

黒羽冥

第1話登山。

僕は今山を登っている。

目的地は初日の出が見える山の頂上。

出発は夕方17時。

既にもう六時間は歩いている。

冷え込むこの時期ではあるが身体は暑くて汗を掻きながら歩いている。

足は棒のようになり身体は痛くダルくて仕方がない。

でも…僕はここで止まる訳にはいかなくて。

そう。

ここにくるまでにあった出来事。

僕は今年の春に、とある会社に入社した22歳。

大学を卒業した僕はやっとの事で小さな会社ではあるが就職することができた。

そして僕と同じくこの春に入社してきた女性に僕は恋をした。

彼女は人当たりもよく、器用で仕事も順調にこなし会社内の評判もいい。

一方の僕はというと。昔から何をしても上手くいかなかった僕はなんとか入社出来たこの会社で仕事も中々覚えられず、しょっちゅう怒られる。

そんな僕はある時一人残業をしていた。

時間は夜二十二時。

要領と段取りが悪い僕はこの時間まで仕事をしていた。

「ああ…これ今日中に本当に終わるかなぁ。」

そう呟きながらも僕は仕事を進めるがどうしてもお腹がすきすぎて作業が進まない。

「お腹空いたな…」

僕は気を紛らわす為に、ふと彼女の机に目をやる。

綺麗に整えられた机。

彼女の仕事が出来るって事を物語る机だったんだ。

それに引替え僕の机は。

まだまだ沢山片付けなきゃいけない書類の山に埋め尽くされていたんだ。

「はぁ…この量。」

僕は溜息をつく。

すると…後方から誰かの声が聞こえてくる。

「太君??」

「えっ!!??」

俺の名前は『ふとし』といった。そう僕の名前を呼んでくれたのは…僕が惚れた同期の女性『花菜かな』さんだった。

「『花菜』さん!!??」

ガタリと音を立て僕は椅子から立ち上がっていた。

僕の目の前には憧れの『花菜』さんが立っている。

「まだ…お仕事終わってなかったんですか?」

「う…うん……新米だから早く仕事覚えたいし皆の希望に応えたくて頑張ってるんだけど…僕要領が悪くて中々終わらなくてさ。」

そう言った僕の書類の山を見て驚きの表情へと変わる彼女。

「えっ!?それって凄い量じゃない?」

「あはは、僕皆から期待されたくて、断る事も出来なくてさ…気がついたら毎日こんな事になっててさ。笑い話でしょ??」

すると彼女は溜息をつく。

「はぁ…本当にいい人すぎだわ!」

「えっ!?」

「皆…入ってきたばかりの貴方に仕事を押し付けすぎよ!?」

「『花菜』さん??」

「これも…これも…これなんかも…入ってきたばかりの私達にはとても簡単にはこなせる仕事ではないよ??」

「えっ!?そうなの??」

「そう…それにこの量はなによ??これじゃあ太君一人でやってたらとても終わる量じゃないわよ!?だってこれ…会社の皆でやっても三日はかかるんじゃない??」

「そう…かなぁ??」

「えっ!?」

彼女は僕を見て驚いている。

「毎日…この仕事の量をしていたら僕いつの間にかこれくらいは…まあいつも十時くらいまではかかってはいたけど終わってたんだよね。」

「そう……なの??」

「うん!」

彼女は呆然と僕を見ている。

「『花菜』さんどうしたの??」

「えっ!?あっ…ああっ!そうだ!『太』君。」

「えっ!?」

「今度の週末さ…一緒に山に登らない??」

「えっ?山??」

「そう…山…私実は登山が趣味でさ…たまに一人でも登るんだけどさ…一緒に登らないかなって。」

僕は彼女に応えるが僕は運動なんてずっとやって来なかった為に体型も山を登れそうには誰もが思えない程だ。

「もちろん!!いくよ!!でも…僕こんな体型だし大丈夫かなぁ??」

「私はきっと『太』君なら大丈夫だと思う!」

僕を信じてくれる彼女に僕は応える。

「うん!!」

僕は、この日彼女の手伝いもあり仕事を終わらせ一緒に帰ったんだ。

こうして僕達の山登り当日。

僕達は計画していた山へと登り始めた。

景色もよく空気もいい…そして彼女はとびきりの笑顔をくれる。

「『太』君って本当に初心者??」

「そうだよ?今日が正真正銘…初登山だよ?」

僕達はこの山の中腹位までは登ってきていた。

この山は中級者向けのコースで彼女も数度登った事があるらしい。

「君とても初めてとは思えないし私元々山岳部だったから結構体力もあるんだよ?そんな私にすいすいついてくるんだもん…本当に凄いよ?」

「そっかなぁ…。」

僕は考えている。

「そうだよ?それに『太』君…あの量の仕事を毎日ずっと続けてきて…そしてあの日も。太君の仕事見てたけど…凄かったなぁ。」

すると彼女はにこりと笑顔を見せてくれる。

「人はやっぱり見かけによらないよね…ギャップって言うのかな…私『太』の事…。」

「えっ!?」

僕はドキドキしてしまう。

「『花菜』さん!」

「えっ!?『太』君??」

「僕が頂上まで辿り着いたらさ……。」

僕達はもうすぐ頂上にたどり着く。

そして丁度…初日の出も登ってきた。

「『花菜』さん!!」

「えっ!?」

「頂上…だよ。しかも初日の出…上ってきたみたい。」

「うん………。」

その時…僕たちを突然吹いた風が包む。

「僕と………………………………」

「うん…………いや………はい。」

僕達だけに聞こえていた言葉。

こうして僕達はここから『スタート』をきったんだ。

お読み下さりありがとうございました。

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僕が登山をスタートに選んだのは。 黒羽冥 @kuroha-mei

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