#43‐1 開戦、ひよこさんぐみ


 生徒たちが一同に集まる。

 巨大な屋外スタジアム。それが、今日の『舞台』だ。


「宣誓! 私達はスポーツマンシップに則り——」

「正々堂々と戦うことを、誓います!」


 壇上。二人の代表者が叫び、下に並んだ生徒たちからは拍手が響く。

 そうして、校長が一歩前に出て、手を振り上げて——宣言した。


「——武闘大会・二日目、本戦。開幕です!」


    *


「ついに、始まったわね……」

 開会式後、選手控室にて。

 騒がしい中で、僕らはいそいそと準備をしていた。一回戦から試合である。


「えーと、今回は全八チームのトーナメント戦ですね。カロンさんたちとは、順当に行けば準決勝で当たりますよ」

 アリアの案内に、僕は息をつく。

「んぅー……一回戦の相手はどんな感じかな」

「冒険者学校のひよこさんぐみ」

「幼稚舎の子たち?」

「割と強めの人たち」

「ネーミングセンスおかしくない?」


 しっかりと(防御魔法が織り込まれた特別性で超頑丈なはずの)制服を着てスタジアムに出ようとした僕ら。しかし。

「待ってくださいっ」

 その声に、僕らは振り向いた。

「ローリィ先生!」

 僕らのクラスの担任である、小柄な魔法学教師。

「出る前に、これをつけてください!」

 そう言われて出されたのは。

「……腕輪?」

 赤い石が組み込まれた腕輪だった。

「これを、石が周りから見える位置につけてください」

「へぇ、これが出場者の証明になるのね」

「はいっ。大会での勝敗判定にも使われますし、皆さんの体を守る役割もします」

「多機能なんだね」


 その腕輪をつけると、中で小さく何かが動く音がした。どうやらこれでいいようだ。

「では、皆さんの健闘を祈りますっ。いってらっしゃーい!」

 小さく手を振る先生に、僕も手を振り返した。


    *


 スタジアムに出ると、歓声が僕らを包んだ。

 思わず身が引き締まる僕。その眼前に、三人の男たち。

 司会者が高らかに宣言した。


「第一回戦! チーム・ストレイキャッツ対チーム・ひよこさんぐみ!」


「いやあ、かたや魔法学校の新入りの間でも話題の優等生たち、かたや冒険者学校の精鋭中の精鋭部隊『特A組』所属のエース。ストレイキャッツがどれだけ健闘できるか見ものですな」

 解説の人がまくしたてる中、僕は冷や汗を流す。ストレイキャッツとは僕らのチームのことである。

 というか目の前のムッキムキな人たち、そんなに強いんだ……? こんなにふざけたチーム名なのに!

 眼前で上腕を膨らましてなんかそれっぽいポーズを取ってる三人のマッチョに、僕らは顔を見合わせた。


「あ、私やるわ」

「わたしもやってみる。ソーヤちゃんがわざわざ出るほどの相手じゃないし、アリアちゃんと後ろで控えててね」

 クリスとマーキュリーが前に出る中、それに呼応するかのように男たちは肩を鳴らした。


「随分と舐め腐られたものよ」

「我らもこれで鍛え上げとるんだがなぁ」

「ピヨぉ! ピヨピヨぉ! ピッピヨピぃ!」

 一人だけ様子がおかしくない?


 対面する僕ら。審判らしき男が遠巻きに宣言した。


「用意」

 僕らは互いに拳や武器を構え。


「——開始ッ!」


 その宣言の後、すぐさま爆発が起こった。先に仕掛けたのは——ひよこさんぐみの、大男A。

「先手必勝ッ! 殴打ッ!」

 巨大なハンマーを振りかぶって、クリスとマーキュリーの二人を同時にミンチにしようとする。が。

「このくらい、あたしたちの敵じゃない……わっ!」

 ハンマーを狙いすました一矢。体制を崩した瞬間——マーキュリーが、短い杖を構えていた。

「確かにすっごく魔力が練りやすい。——買って正解だ」

 いつの間に買っていたんだろう。けれど、彼女のスタイルには合っているようだ。

 ずどん、と最小限の範囲で突き刺すように、氷の魔法をぶっ放したマーキュリー。おおよそみぞおちにその一撃を食らった大男は少し弾き飛ばされて、うずくまり動けなくなる。

「……くそう、よくも!」

 あと二人。マトモに喋っていた方の男が槍を振り回して、マーキュリーに突進する。が。

「隙ばっか。脇ががら空きよ。バーカ!」

 脇腹を、クリスに射抜かれ、動かなくなった。


 ……終わった?

 いや、まだだ。あと一人が——背後に。


「ピッピヨピィィィィィ!」

 背後から大きな声。縦に振りかざされる大剣。僕はすっと体の重心を移動させ避ける。……気配の察知が一瞬遅れてたらまずかったな。

「アリア!」

「はいっ!」

 呼ばれた彼女は、攻撃に転じようとする三人目の大男と、目を合わせた。

 瞬間、男は硬直し——脱力した。


「勝負あり! ——勝者、チーム・ストレイキャッツ!」


 スタジアムは再び歓声に包まれた。

「……勝った」

 呟くと、クリスは「やった! やったわ!」とはしゃぎだした。

 解説の人が「なんという大番狂わせ!」などと囃し立てている。観客たちの熱量が、中心にいる僕らに一心に降り注ぐのを感じて。

 手を振った僕に、スタジアムの歓声は更に強くなった。


    *


「楽しかったね!」

 マーキュリーが目を輝かせる。

 観客席最前列。頷く僕に、クリスは「でもまあ? あいつら言うほど強くなかったし?」と粋がる。

「……次は、カロンさんたちですね」

 隣を見ると、アリアが緊張したような面持ちで口にした。僕は思わず息を呑む。

「大丈夫よ。私達は強いもの!」

 軽口を叩くクリス。僕の背筋に冷や汗が伝う。


 ——きっと君には、近々大きな決断を迫られる時が来るだろう。

 ——そのときは、選択肢を見誤らず、己が正しいと思う選択をしてほしい。

 ——君には、その資格がある。その権利がある。

 ——その、義務がある。


 昨日、スミカさんに言われたことが、脳内をリフレインする。

 なにか、とても嫌な予感がする。


 そして、その予感はすぐさま的中することとなる。


「第二回戦! チーム・ウルヴェンハント対チーム・エクスカリバー!」


 魔獣狩り《ウルヴェンハント》。その名を冠したチーム。カロン率いる四人組。

 その姿は、異様だった。


「あの黒い仮面。なんなんでしょうか……?」


 魔法学校の制服は僕らと同じだ。しかし、目の周りを黒い仮面で覆っていた。

 緊張感が漂う中、「用意」と審判が口にして……宣言される。


「——開始!」

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