新しいおうち。新しいご主人様!!

 わん!! オリザの住むおうちはいったいどんなところなんだろう? 優しいおじさんの車に乗っているあいだはそんなことばかり考えていた。


 優しいご主人様だと嬉しいな。教えてもらった名前はもう覚えた。いのせんと!! 何度もその名前を思い浮かべているうちに不思議な気持ちになるのはなんでだろう……。


 これから初めて会う人の名前なのに。むねの奥がきゅう、ってなる。オリザはどこか病気なのかなぁ。


「……さっきから黙ったままだけど。オリザくん、車は苦手だったかな」


「ううん、車のお出かけは大好きだけど、わくわくしすぎて胸がくるしいの。とっても嬉しいのに変だよね。治らない病気だったらどうしよう!!」


「ははっ、オリザくん。おじさんは君のお医者さんだからわかるけど心配はいらないよ。いたって健康さ」


「おじさんが私のお医者さん? そうだっけ」


「……覚えていないのも無理はないね。君はしばらく眠っていたから。ああ、そうだ!! おじさんは医者に見えないって良く患者さんからも言われるからね」


「くんくん、そういえばおじさんからは病院のにおいがするかも。私は鼻が効くからすぐにわかるんだよ、すごいでしょう!!」


「オリザくんの優れた能力は知っているよ。そのためにおじさんがいるんだから」


「わ~い、ほめられちゃった!! だけどオリザは犬なんだから鼻が効くのはあたりまえだよ」


 そうだ、私は子犬だからにおいを嗅ぐだけでわかることがとても多い。相手がオリザのことを好きか嫌いか。そんな気持ちが変化するにおいも嗅ぎ取れる。


 優しいおじさんからは病院のにおいだけじゃなく、オリザのことを好きなにおいがする。だけどその好きはお父さんのそれかなぁ。以前にも嗅いだことのあるどこか懐かしいにおいだ。


「さあ、着いたよ。ここがオリザくんの新しい家だ」


 わあっ、とてもすてきな場所かも!! 私は一発で気に入ってしまった。広いお庭は芝生がきれいで走りまわったら気持ちが良さそうだ。んっ、その真ん中にある建物はなんだろう?


「その個室部屋が君の住む場所だよ。中は結構広いから窮屈じゃないんだ」


「窓が開いてるね。ほんとだ!! 中は広~い。部屋の真ん中に置いてあるふかふかのベッドが気持ちよさそう」


「ははっ、私の荷物を全部運び出したからね。息子の奴が空にして引きわたせってうるさかったから大変だったよ」


「ねえねえ、中に入ってもいい? オリザ、ベッドを見たら急に眠くなっちゃった」


「そうか薬の影響だね。それに疲れもあるのかな。息子はまだ帰ってこないから先に部屋で眠るといい」


「ふわ~~い。ふかふかベッドにはやくもぐり込みたいよぉ!!」


「オリザくん、着替えたほうがいいと思うけど。荷物を取ってこようか?」


「ううん、このままの格好がいいの。白いもふもふは私のお気に入りだから!!」


「そうか、その服は君にとってのお守りの毛布みたいなものなんだね……」


「うん、これがいい!!」


「じゃあ、そのままでいいよ。ゆっくりおやすみ。目が覚めたらみんなで食事をしよう。オリザくんの歓迎会だ。ごちそうを用意しておくよ」


 ごちそうと聞いておもわずしっぽを振りたくなったけど、いまは眠さのほうがまさっちゃう。ふああっ、私は大きなあくびをした。


 もぐり込んだベッドの中はとっても暖かだった。毛布から長いコードがコンセントまで伸びている。気持ちいい。すぐに眠りに引き込まれてしまいそうだ……。


 私は必死に目を開けて神様にお祈りをした。


「新しいご主人様が優しい人でありますように。オリザのことをいっぱいなでて可愛がってくれるとうれしいです」


 神様、どうか私のお願いをかなえてください。そうしたらオリザはもっとおりこうさんになります……。


 ご主人様の顔をみたら真っ先に胸に飛び込むんだ。興奮して相手のお顔をぺろぺろしちゃうかも。えへへ、私は子犬だから許してね。わん♡



 次回に続く。

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