第39話
「ふむ。動きだけはそこそこだな、阿尻ダイシ」
「あ、あっぶねぇ……」
間一髪だった。
持国天は俺が【葬拳】で殴った右腕をすぐに掴みかかってきたが、捕まったら最後だと思い、ほぼ反射だけで素早く後方へ下がり、再びヤツとの間合いを取った。
敏捷値以外が絶望的な能力差である以上、ヤツの攻撃をもらうことは許されない。
:まったく効いてないな、ありゃ
:傷ひとつ付いてない
:ダメージ0?
:勝ち筋が見えない
:動きだけは勝ってる?
:【霊視】で弱点とか視れないの?
:無理ゲー
:とにかくその空間から出られないか?
:羅刹天の時と同じ戦略で
:ああ、アデス呼ぶヤツか
:もしくは【回帰】で帰っちゃう、とか
実は【霊視】で弱点はすでに視えていた。
しかし内容が「天音サツキ」としか書いてなかったから、そんなことはわかりきっているので、あえて説明する意味もないと思って割愛した。
あとこの空間を出て戦えと言う、視聴者さんのもうひとつの提案。
その方法論も少し頭をよぎりはした。
ただ羅刹天との戦いの時と違って、今は仲間たちが半ば人質みたいな状況になっているから、正直そのやり方は難しいと思っている。
それならいっそ、逆にここへ一回呼び寄せてしまえば……
いや、無理か。
今、仲間たちがいるのは俺対策をされているダンマスのダンジョン。
俺の【回帰】の効果が及んでくれるのかはわからない。
他にあと、試す価値があるとすれば……
「まずはその動き、止めねばならんようだな」
アレコレ考えている間に、持国天は再び行動を開始しようとしていた。
今度は8つの腕がくんずほぐれつしながら、一か所に気を集中し始めている。
くっ! まだ考えがまとまっていないのに!
ダメだ。一旦【霊視】による軌道予測と回避に専念しよう。
直撃さえ喰らわず避け続けてさえいれば、チャンスは必ず訪れる!
「地獄葬」
持国天が新たなスキル名を発した。
同時に集中していた気を何故か自身の真下へと解き放ち、だが視線は俺から外さず、見据えてくる。
……どういうことだ? 特になにも起こらないぞ。
気は【霊視】でずっと注視していた。
だが、まるで何事もなかったかのように、それはただ霧散して静かに無へと帰したようだった。
「ふっふっふ。捕らえたぞ、阿尻ダイシ」
「なっ!?」
くっ! 油断した!
持国天のヤツが気を集中させて下に放ったから、てっきりそれがスキル発動の合図だと錯覚したのが失敗だった。
そう、本当にそこでは何も起こらなかったんだ。
だから【霊視】でその部分を視ていても、特に変化がないのは当たり前。
思い起こせば、ヤツが腕を蠢めかせながら気を練っていたことそれ自体が、そもそもヤツの策略だったんだ。
あの動作は、腕の数をわかりにくくするための動き。
8本あるはずの持国天の腕が、今見ると何故か6本に減っているんだ。
残りの2本はどこへ消えたのか?
「この程度のブラフに騙されてくれるとはな」
「くっ! う、動けねぇ……」
そう。残りの2本は俺の足首を死角から掴み、俺の自由を完全に奪っていた。
:最初のスキル発動も布石だったのか
:アレが先入観になって騙された
:俺も気づかなかったよ
:頭いいじゃねぇか、持国天
:これまでの奴らと次元が違う
:勝てんわ、こりゃ
:ついにご愁傷様か……
:短い間だったけど、楽しかった
:ちーん
:おっさんのこと、忘れないよ
:えー諦めんなよ
:手は本当にないのか?
:もうなりふり構うなよ
:とにかくやれることをやろう!
「さて、それでは真の【地獄葬】をお見せするとしよ……」
「来い、地獄門!!」
もう作戦とかどうでもいい。
四の五の考えるのはもう辞めた。
勝てる見込みがないのなら、せめて俺の最強を持って全力で戦うと決めた!
「ほう、これが……」
奴に【地獄門】の知識があるのはわかっていた。
おそらく、このスキルの効果や仕様も、事前にダンマスからほとんど教えてもらっているのだろう。
だが、それでも構わない。
動きを封じられた俺が取れる最後の手は、もうこれしかないのだから。
:先手必勝!
:相変わらずの禍々しさ
:臭いのはやっぱ効いてないな
:平然としてやがる
:いや、ちょっと嫌そうだぞw
:鼻押さえてんじゃん
:臭いのは臭いんだな
:それだけでもアドバンテージ
:意外に*開いたらイケんじゃね?
:逝けー!! ダイシ!!
俺はいつものように門の裏手にいるから、前方の様子は見えない。
追尾カメラはいい位置で地獄門の正面と持国天を映せる位置に飛んでいるから、視聴者さんにはいつものように全容が見えている。
「なんだ、やっぱこの臭いには抵抗あるのか。案外、滅風全開になれば倒せるんじゃないの……」
「地獄を滅せ、地獄葬!!」
高らかに、今度こそスキルを発動したような力強い持国天の声が響いた。
すると……
おおおおおおんんんんん!!!!
「えっ? ウソ、ちょっと……」
信じられないことが起こった。
「お前の門は泣くのだな。耳障りの悪い断末魔だ」
「ま、マジっすか……」
【地獄葬】とは、そういう能力だったのか。
おそらく、地獄門はソレの直撃を喰らったのだろう。
:あ、ありえねぇ……
コメント欄が絶望で凍り付いている。
俺の脳みそも凍結し、考えることを放棄している。
「おそるるに足らず、地獄門」
門はその本来の力を発揮することなく塵となり、再び俺と持国天は相まみえるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます