第7話

 ミーナちゃんのお義兄様たちを冥葬級の入り口まで見送り、再び1Fの大広間に戻り、そのまま奥の出口へ進んだ俺とミーナちゃんとシオンさん。


 初級ダンジョンの時は次の部屋はモンスターハウスだったが、ここ冥葬級ダンジョンはすぐに地下へ降りる螺旋階段があった。


 それぞれの近況を話したり、アイテムボックスから取り出した回復薬を使って俺のMPを補給したりしながら階段を下っていたら、あっという間に地下1階入り口扉前まで辿りついていた。



「開けるよ……」



 少し息を飲み、一見高級そうな扉を開く俺。


 途中、開きつつある重い扉の隙間から、この場の雰囲気に似つかわしくない喧騒が聞こえてきたような気がしていた。



「いらっしゃいませ、阿尻ダイシ様とご同伴のお二方様。お待ちいたしておりました。私はこの部屋の店長を務めております、ハメスメイと申します」



 開ききった扉のすぐ前に、長い髪をオールバックでまとめた細身のスーツみたいな服を着こなした怪しげな男が立っていた。


 挨拶をしながら、深々と頭を下げて丁寧に自己紹介をしてくる。


 ……ハメス、メイ?


 てか、部屋なのに店長ってどういうこと?



 :なんかガヤガヤしてんね、ここ

 :奥に見える内装がすげぇw

 :いやここは……

 :完全に夜店じゃねぇかwww

 :ユニーク系かな?

 :冥王オリジナルっぽいな

 :こんな部屋は見たがことない

 :お、なんかドレスの綺麗なねぇちゃんがいるぞ

 :バニーっぽいのも出てきたw

 :えっ?すっごいイケメンもいるし

 :もの凄く危険な香りがする……


 

「私が来た時とはまったく違う展開ですね……。ユニーク系のハウスなんだろうけど、この手のタイプは初めて……」


「おいおっさん、剣を出せ。この軟弱野郎を叩き斬ってやる」



 さすが脳筋女戦士。


 気にいらないヤツはとりあえず斬っちゃえの精神なんですかね。


 でもまぁ、一応話くらいは聞こうよ。


 もしかしたらグルメハウス的な展開があったりするかもしれないし。


 あ、でもここは冥葬級か。


 あのじいさんが管理してるダンジョンだから、あまり期待はしないほうがよさそうだけど……。



冥王様オーナーからお話は伺っております。さ、こんなところで立ち話もなんですので、どうぞ中へお入りください。あ、お金はいただきませんので、ご安心ください」



 冥王オーナー言うな。


 完全にキャバ〇ラじゃねぇか。


 この部屋の目的が透けて見える。


 おそらく見た目綺麗系のおねぇさんやイケメン男子をそれぞれ指名させ、酒をたらふく飲ませて酔っぱらった隙に俺たちを倒そうとしてるんだろ!


 わかってんだぜ、その程度の策略。


 社畜時代、何度その手に騙されて金を失い続けてきたことか。


 俺ももう37歳だ。


 その程度の謀略に騙されるワケが……。



「あ、あの!私、阿尻ダイシさんの大ファンなんです!よかったら指名……してもらえませんか?あ、ダメならいい、です……」


「この子、指名で」



 いつの間にか店長の横に立って営業を仕掛けてきたバニー姿のかわいこちゃん。


 上目遣いと谷間が魅力的すぎて、騙された。



「ありがとうございます。さすがは阿尻ダイシ様。この店のナンバーワン、ルンちゃんをご指名するとはお目が高い。それでは、ご案内!キャバ狂ルーム、1名様入りまーす」


「いらっしゃいませ~」



 響き渡る女の子たちの「ご来店、ありがとうございます」感に懐かしさを覚える。


 癒しの空間の誘惑。


 抗えない。いくつになっても……。



「ちょっ!ダイシさん!なに1人で勝手に中へ入ろうと……」


「あ、聖女様みーつけた」


「えっ?」


「清楚で気品漂うその雰囲気は、聖女様で間違いないですよね?」


「あ、えっと……」


「ああ!麗しき愛しの聖女様!僕の名前はサクヤ。もしよろしければほんのひと時だけ、僕とホス狂ルームでステキな時間を過ごしませんか?」



 :ねぇミーナちゃんも騙されそうだよ!

 :シオンが筋肉イケメンと意気投合しとる

 :キャバ狂ルームとホス狂ルームwww

 :き、危険すぎる!

 :なにみんなホイホイだまされとんねんw

 :お酒飲む感じ?

 :ミーナちゃんは未成年だったはず

 :おっさんと脳筋女戦士は成年だね

 :いやいやいやいや

 :完全にワナだろ、これ

 :冥王の幻術ルームでは?

 :欲望を駆り立てて、刈り取る感じか!

 :ここヤバすぎワロタ



 わかってる!わかってるんだ!視聴者のみんな!


 ここが絶対に冥王オーナーが仕組んだ罠だということくらい!


 でも、それでも……



「ここに来るまで、大変だったんですよね?私でよければ、ほんの少しかもしれませんけど、癒してあげられると思いますから……」



 なんて甘えた声で、俺の腕を胸トラップしてくるバニーの誘惑に勝てはしない。

 

 きっとミーナちゃんやシオンさんも、自分の性癖突かれて脳みそバグってるんだと思われる。


 冥王オーナーめ……


 伊達に年を食ってるワケではなさそうだ。


 人の弱点を的確に突き、惑わしてくる。


 お、恐るべきじいさんだよ……。



「ほんの少しだけだから……ね?」


「はい!一緒に楽しみましょうね!ダイシお兄ちゃん!」



 守りたい満面の笑顔で、席に着いた俺をドツボにはめてくる冥王オーナーの手先、ルンちゃん。



 可愛すぎて、脳が溶けそうだ。

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