第48話 救出作戦



 実行日の夜。潜入するのは、私とルゼフ、アシュフォードとローレンさんの四名となった。クリフさんとコルク子爵は、叔父様と共に王城に向かっていった。ダテウスは不在のヴォルティス侯爵家を守る役目だそうだ。


 アシュフォードとローレンさんが先行してオブタリア公爵邸へと向かっていた。ルゼフと並びながら向かう最中、驚くことがあった。


「……意外だ」

「何がです?」

「ルゼフが気配を消せるのが」

「あぁ、これでも裏路地に店を構えてますからね。ある程度の心得はありますよ」


 芸術家には必要のない技術だが、確かに身につけておいて損はないだろう。


(到着したな)


 オブタリア公爵邸は厳重な警備が敷かれており、門に騎士が二名、屋敷に行くまでも複数名巡回していた。


「ここからは請け負う」


 裏口に回ると正門に比べて護衛は少なかった。門番らしき者が一名いるものの、そこから屋敷にかけては騎士が見当たらなかった。


「ラルダ、ここからどうする」

「まずあいつを処理する。そうすれば、そのまま屋敷に入ることができる」

「処理……気を失わせればいいのか」

「あぁ、そうだが」

「わかった」

「えっ、アシュフォード……!」


 私の仕事を、アシュフォードが一瞬にして奪った。止める間もなく裏口の門番は意識を失った。


「ルゼフ、ローレンさん急ごう」


 あの門番を処理した以上、ここからは時間との勝負だ。

 アシュフォードを回収しながら、全員でそのまま屋敷に入り込む。公爵家なだけあって、使用人の行き来が多い。人気のない部屋に入り込めたが、スティーブがどこにいるかわからなかった。


 アシュフォードは少し考えると、一言予想を立てた。


「客人は丁重にもてなされているか、地下に収監されているかのどちらかな」

「それなら二手にわかれるか」

「そうしよう」


 スティーブの顔がわかる私とルゼフが分かれることになった。


「まぁ、こうなりますよね」

「よろしくお願いします、ルゼフさん」

「お願いします。俺は慣れていないので」


 ルゼフにはローレンさんが付くことになり、私とアシュフォードが共に行動することになった。


「俺とラルダは地下へ向かう。二人は屋敷内を捜索してくれ」

「わかりました。ご武運を」


 ローレンさんがアシュフォードに小さく頭を下げた。ルゼフの無事を祈る目線を送ると、ぐっと親指を立てられたので安心して良さそうだ。


まずは私とアシュフォードが先に地下へと向かった。


「随分簡単に潜入できたな」

「潜入した面子が強いだけだと思う。そもそも気配を消すだなんて、常人はしないから。オブタリア公爵邸の警備は厳重なのは間違いない」

「それもそうか」


 納得するアシュフォードの背後をついて行きながら、地下へ到着した。地下にも見回り騎士が二人いたものの、今度は一人ずつ手をかけて気絶させた。


「ラ、ラルダ。何してるんだ」

「何って。牢獄を見て回るなら変装は必須だろう」

「……それなら俺が着る。ラルダはローブを着てくれ」

「私も着るぞ? 安心しろ、変装もそこそこ上手いからな。問題ない」

「俺が問題あるんだ。……他の男が着た服など着るな」

「……そ、そうか」


 ガシッとアシュフォードに両肩を掴まれると、ようやく理解ができた。確かに、求婚された状態で他の男の服を着るのはいただけない。


「……意外に似合うか?」

「アシュフォードは何を着ても似合うだろう、顔がいいから。ただ、髪色は隠せ。それは目立つ」

「……ありがとう、ラルダ」


 門番は看守のような役割をしていたからか、帽子も被っていた。なるべくその帽子の中に髪が入りきるよう近付いた。


 綺麗にしまいきると、アシュフォードに頬に触れられた。


「……絶対、指一本傷付けさせない」

「お互いにだな」

「!」


 一瞬驚いたアシュフォードだったが、そのまま嬉しそうに微笑んだ。

 私だってアシュフォードを守りたいという気持ちは同じだ。


 約束し合うと、早速牢を見ていった。 


 地下には牢獄が存在しており、そこには何人か収監されていた。


「ひっ、看守だ」

「お、お許しを……」


 アシュフォードの服装を見る限り、彼らにとって看守は良い存在ではなさそうだった。


「……いるとしたら最奥だろうな」


 アシュフォードの呟きに頷く。サルヴァドールにとっても、貴族派にとっても、スティーブは重要な存在だ。

 

 裏切ったことがわかったとしても、王家派に圧をかける材料にできる。


 二人で暗く長い道を進むと、ようやく突き当たりにたどり着いた。


「スティーブ……!!」

「……彼か」

「あぁ」


 奥の牢の中にスティーブがいることがわかった。今すぐにでも駆け寄りたい衝動を我慢した。牢の前に近付くと、はっきりと顔を見ることができた。


 所々傷つけられた顔は、恐らくサルヴァドールによって暴力を受けた痕だと容易に推測できた。


「スティーブ」

「……誰だ?」


 ローブを被ったまま、檻へと近付く。すると、スティーブはこちらを見つめて目を細めた。顔がわかったからか、今度は目を大きく見開いた。


「ラルダ君、何故君がここに……!!」

「助けに来たんだ」

「どうして」

「仲間を助けるのに理由はいらない」

「……だが」

「言いたいことがたくさんあるのはわかる。私だってあるんだから。今はとにかく、一緒にここから出よう」


 少し考え込むスティーブだが、ぐっと目をつむるとこちらを見つめた。


「すまない、面倒をかけて」

「何を言うんだ。気にしないでくれ」

 

 ふっと微笑むと、アシュフォードに頼んで牢の鍵を開けてもらった。動けそうかわからなかったので、さっと近付いて容態を確認する。


「問題ない、一人で歩ける分には動ける」

「良かった」


 安堵の息をこぼした瞬間、こちらに向かう足音が聞こえた。


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