第46話 叔父様の提案
一週間更新を止めてしまい大変申し訳ございません。本日より更新を再開させていただきます、よろしくお願いいたします。
▽▼▽▼
「エスメラルダ。その名前を貴女が受け入れることです」
「‼」
叔父の真意はすぐにわかった。それは、私が帝国の皇女セレスティアの娘であることを受け入れるという意味だと。
「……そんなことが可能なのですか」
突然現れた娘を、帝国の皇帝ないしは貴族達が認めるとは到底思えない。それをわかっていたようで、叔父様はにこりと微笑んで話し始めた。
「可能です。少なくとも、その黒髪はそれだけの価値と力がありますから。それに、姉様……セレスティアは多くの人に愛された皇女でしたので、間違いなく歓迎されます。もちろん全員という訳ではありませんが、不満を抱くとしてもごくわずかな人間です」
その点は心配しないで欲しい、そう言われているような気がした。叔父様は少し体を乗り出して私を見つめる。
「ですが、エスメラルダ。貴女が受け入れ、帝国としての肩書きを使った場合、一度帝国に来ていただかないといけなくなります」
「それが……不利益、ですね」
「はい」
肩書きを勝手に使わせてもらうのだから、帝国に行くぐらい造作もない。しかし問題はその後だ。一度名乗ったからには、皇女の娘として生きて行かなくてはならなくなる。
「突拍子すぎる提案ですが、一つの案として考えてみてください」
「……ありがとうございます」
すぐに頷けない理由があった。
(この提案を呑めば……きっと私はアシュフォードと共にいられなくなる)
ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚を覚えた。
もちろん、今までも貴族と一介の平民という身分差が存在しており、無理な求婚ではあった。しかし、今度は海を越えた上にお互い他国の貴族となってしまう。
(私は……この先もアシュフォードと一緒にいたい)
案を呑むということは、帝国のための結婚をすることになるだろう。それではアシュフォードと婚約できる望みはかなり薄れてしまう。それに、海を渡ってしまえばそもそもアシュフォードと会うこともできなくなってしまうのだ。
(……私の答えは決まっていたみたいだな)
ふっと笑みをこぼすと、ようやく求婚の答えが出た。考えることはアシュフォードとの未来ばかりで、気が付けば私はすっかり彼を好きになっていたようだ。
(この気持ちは……大切にしたい)
ぎゅっと手を握り締めると、顔を上げて叔父様の方を見つめた。
「叔父様。先程の提案ですが、辞退させてください。私にとって、ここに残って暮らしを続けることは譲れないものです。何よりも、アシュフォードと共にいたいと思っております」
「エスメラルダ、それは――」
バンッ! と勢いよく扉が開いた。振り返ればそこには、アシュフォードと書斎で待機していたルゼフ達が立っていた。アシュフォードは私を見つめると足早にこちらに来た。そしてそのまま跪き、私の手を取って顔を覗き込む。
「それでいいのか、ラルダ」
「アシュフォード……」
「ラルダ、帝国にはご両親がいるだろう。……例え姿はなくとも、面影は残っているはずだ。それを見ずにして切り離していいように、俺は思えない」
「!」
アシュフォードの言葉にはっとさせられる。帝国に残る、両親の面影にも、お墓にも、私には行く意味がある。しかしそれは同時に、エスメラルダの名前を受け入れると同義になってしまうだろう。
「……いいんだ、アシュフォード。確かに両親のことはもっと知りたいし、面影にだって触れたい。だけどそれよりも、アシュフォードといたいんだ」
直球でそう伝えれば、アシュフォードの頬が赤くなり始めた。しかしそれを振り払うように、私の手を強く握り始める。
「ラルダ。俺のことなら気にしないでくれ」
「アシュフォード、何を」
「俺は、たとえ海を越えてでもラルダに求婚しに行く。絶対にだ」
「‼」
力強い言葉に思わず目を見開く。
「俺はずっとラルダの隣に立ちたいと願っていたが、枷になりたいとは思っていない。だから、辞退する理由がここにあるなら、考え直してくれないか」
「アシュフォード」
どこまでも私のことを、私以上に考えてくれる真っすぐな眼差しに、嬉しくて胸が震える。あぁ、この人が好きだと再確認できるほどに、アシュフォードの言葉は温かくて優しかった。
どうするべきか考え直そうとしたその時、叔父様が小さく手を挙げた。
「お話し中すみません。どうやら私が誤解をさせてしまったみたいです」
「え?」
きょとんとしながら叔父様を見つめる。アシュフォードも振り返って、叔父様の方を見ていた。そして、私の手を握ったままソファーに座り直す
「エスメラルダ、帝国に行くとはそのままの意味です。帝国に行って、皇帝に顔を見せる、それだけでいいんです。その後エスメラルダの人生に、過干渉するつもりありません。もちろん、定期的に顔は見たいですが」
「で、ですが。それでは対価になりえません」
「いいんです、それで。姉様は元々君を自由に育てるつもりでした。その意思を、私も皇帝も汲んでいます」
海を渡ってまで母が守りたかったこと、それを無下にしないと叔父様は断言した。
「エスメラルダが、皇女の娘としての権利を使ったって誰も文句は言いませんし、言わせません。それと、言い忘れていたことですが、もしエスメラルダという名前を使うのなら、私の養子になりませんか?」
「養子、ですか?」
「あぁ。それなら降りかかる面倒の大半は払えますからね」
にこりと微笑む叔父様に、私は純粋な疑問を投げかけた。
「あ、あの。それでは私に利益しかありません。私に生じる不利益とは一体……」
「あぁ。もちろん帝国に行くことですよ。厳密に言えば、帝国の皇城に。皇帝は私以上にセレスティアを大切にされており、エスメラルダに会えることを強く願っておられました。恐らく一日では解放されないかと思います。拘束されて、話を聞かされ続けるのは耳が痛いでしょう」
「そ、それで不利益……」
「えぇ。皇帝は話が長いので」
どうやら、私が大きく捉え違いをしてしまったようだ。
(うっ……恥ずかしすぎる)
捉え違いをした上に、どこか先走ってしまったような気がして顔が赤くなってしまうのだった。
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