第18話 追いかける英雄(アシュフォード視点)
目を覚ませば、何故か紐で縛られていた。
「……ラルダ?」
(気配が消えた)
念のため呼びかけるも反応はない。自分を置いて出かけたのかと考えたい所だが、だとすればここまで紐で縛ることはないだろう。
「警戒されたのか……求婚したのに」
求婚の答えが縄で縛るとは、相手にされていないことは確かだった。しかし落ち込むことはなく、急いで縄をほどいた。
「……あぁ。やっぱり飲むんじゃなかったな」
恐らくラルダに睡眠薬を飲まされたが、通常であればここまで効くことはなかった。昨日飲んだ酒が、邪魔をしたようだ。頭の痛みを引きずりながら、今いる部屋から出た。
「物置部屋……」
どうやら物置と一緒に置かれていたようで、扱いの雑さに笑いがこみ上げてくる。
(俺をこんなに粗雑に扱えるのは、ラルダくらいか)
家の中を見渡せば、来た時と雰囲気が変わっている。家主がいなくなったことで静かになっていた。窓から見える空の色は夕焼けで、自分が半日以上眠っていたことを把握する。
「これは急ぐ必要があるな」
そう判断すると、素早く荷物を手にして愛馬が待つ場所へと向かった。
(ハンクは帰ったか)
木に繋がれていた愛馬の紐を取ると、道の様子を確かめた。
(……足跡はハンクと来た町からは逆に伸びているな)
ラルダの痕跡を見つけると、馬に乗って走り出した。彼女を見つける道中、一つの悩みが生まれた。
(どうすれば警戒を失くせる?)
元々は暗殺者と標的と言う、敵同士といって過言ではない。俺はラルダを王家派の功労者としてありがたいと思っているが、それが伝わっていないのは問題だろう。
(何にせよ、話し合いたい)
いきなりの求婚は混乱を生んだだろうと反省をし始めた。
(ラルダに会えたことが嬉しすぎて、気持ちが先行してしまったな)
まずはお互いの事情を話さない限りは、俺の気持ちが伝わることがない気がした。ラルダの反応はすこぶる悪かったのだ。
(求婚して二つ返事をもらえるとは思わなかったが、まさかあんな怪訝な顔をされるとは)
また彼女の表情が忘れられないものになってしまった。
「……ふっ」
笑いをこぼしながら、追跡に力を入れるのだった。
(さすがラルダ。適度に偽の痕跡を作るとは)
痕跡があってもラルダがいないことは気配で分かった。小さな村なら、たどり着いた瞬間にわかる。リセイユ村から二つの村を無視すると、そのまま三つ目の村まで進む。野宿することも選択肢にあったが、その間にもラルダとの距離は離れるだろう。
(まぁ、一日くらい寝ずとも何の問題もない)
戦場でも、夜に寝ないことはあった。あの時は張りつめていた空気だったが、今は惹かれた女性を追うという気分のいいものだ。全く苦ではなかった。
「ここだ……!」
真っ暗な中、道を進む。空が明るくなってきた頃、一つの村にたどり着いた。
この村も痕跡だけかと思い、無視して進もうとしたが、ラルダの気配を感じ取った。
急いで村の中に入ると、そのままラルダの気配を探した。
「見つけた」
なにやら揉め事か、男たちに絡まれているのを遠目で発見する。
「すまない、ここにいてくれ」
愛馬にそう告げると、全速力でラルダの元へと向かった。
「渡すとは一言も言ってないぞ?」
「おいおい、痛い目にはあいたくないだろう?」
「奪えるのなら奪ってみたらどうだ?」
「ははっ!」
そう言って、男たちがラルダに襲い掛かろうとした。その瞬間、俺の体は反射的に動いた。
「ラルダ、屈め!」
「!?」
男達に突っ込むと、そのまま腹に拳を食らわせた。気を失う程度に調整しておいたが、少し加減は失敗したかもしれない。
「これで問題な――‼」
もう大丈夫だ。そう言おうとした瞬間、首筋に鈍い衝撃が走った。
その瞬間、意識を手放すことになった。
頬が何かに触れられている気がする。
ゆっくりと目を開ければ、そこには愛馬がいた。
「……見に来てくれたのか」
そう言いながらどうにか起き上がる。
「……くっ。良い衝撃だったな」
さすがは元暗殺者であり、俺と互角の実力を持つ女性。受けた攻撃は中々に強いものだった。
「背中を見せたのは失敗だったか」
ふっと笑いながらそう口にするものの、守ったことには一つも後悔が浮かばなかった。
「……まだそんなに経っていないはずだ。急ぐぞ」
そう愛馬に伝えると、心配そうに頬をつつかれる。
(そういえばこいつの前で倒れたことはなかったな)
不安げな雰囲気の理由がわかると、楽しそうに笑って見せた。
「いい女だろ? あんなに魅力の多い人はそういない。必ず捕まえないとな」
愛馬の頭を撫でながら立ち上がると、そのまま勢いよく乗る。そして颯爽とモース村を離れるのだった。
(次はどこに向かうんだ、ラルダ)
ラルダの痕跡を辿って追うことは簡単だ。しかし、それではまた逃げられるだろう。
一度立ち止まって、ラルダの向かいそうな場所を推測し始めた。
「モース村……だがこのまま進めば貴族派の領地になる。」
死を偽装している手前、貴族派には近付かないだろう。
「だとすれば……港町か」
当てをつけたところで、再び馬を走らせるのだった。
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