第14話 王家派の救世主(アシュフォード視点)



 ヴォルティス侯爵家周辺をうろついていた不審者が地下に集結した。連れてこられたのは十人の男性で、年齢はバラバラだった。

 

 しかし共通点としては、レジスのようにボロボロの影の薄い服装だった所だ。そして、予想通り彼らは全員、レジスと同じ境遇を語った。

 

「まさかこんなにもロザクに救われた者がいるとはな。ダテウスの野生の勘は正しかったか」

「それだけじゃないぞ、アシュフォード。全員王家派っていうおまけつきだ……ん? 野生の勘?」

「聞き間違いだ。気にするな」


 さらりと流しながら微笑んだ。

 

「……恐らくロザクは暗殺を意図的にしなかったんだな。貴族派を陥れるために。理由こそわからないが、重要なのは王家派を救ったという事実だ」

「暗殺者じゃなくて詐欺師だったって訳だな」

「馬鹿を言うな。あの強さは俺に並ぶ……もしくはそれ以上だ。例えるなら詐欺師じゃなくて救世主だ。失礼なことを言うな」

「そ、それは悪かった」


 詐欺師。確かにやったことだけに焦点を当てればそうなる。だが、ロザクの強さまで兼ね合わせれば、その言葉が相応しくないと言える。


「アシュフォード様。追加に判明したことがございます」

「どうした、ローレン」

「暗殺された日を聞いた所、最も古い者で四年前だそうです。他にも三年前、二年前の者もいます」

「気まぐれではないな。……これだけのことをし続ければ、自分の死体偽装なんて朝飯前だろう」


 ロザクは生きている。確実な証拠が見つかった訳ではないが、状況が裏付けていた。


「ダテウス、ローレン。ここに来た者を全員保護する。この件は口外禁止だ。かん口令を敷く。絶対に漏洩させるな」

「わかった」

「御意」


 レジス同様、彼等もこの屋敷の中で最高機密として扱うことにする。貴族派への牽制に使えることは確かだが、まだその時ではない。


「ローレン、彼等のために衣服と食事を準備してくれ」

「承知しました」


 一段落つけば、ダテウスが興味深そうに隣に立った。


「随分嬉しそうだな……まぁそれもそうか。もやが晴れたようなものだからな」


 ようやく違和感が払拭できた。確かに喜んでいる理由はそれが一つだ。


「でも驚いたな。まさか本当にロザクが女だなんて。おまけにアシュフォードと互角に戦うだなんて化物じゃないか」

「ダテウス、お前ももっと喜んだらどうだ?」

「何で俺が喜ぶんだ。気分が晴れたのはお前だろう」

「言った筈だぞ? 俺は自分より弱い女など興味はないと」


 これ以上ない喜びの笑みを、ダテウス目掛けて見せてやる。


「俺の恋愛対象は“俺より強い女だ”。忘れたのか?」

「お、お前! 正気か!! 相手は暗殺者だぞ!!」

「血で染まっていない救世主だ。ロザクは限りなく白に近い。あれは本当の殺気を知らない目だった」


 今思えば、剣を交えたあの瞬間から、俺は彼女に興味を持っていた。崖の上で素顔を露にした瞬間、目が離せなくなった。そして何よりも、崖から落ちる時に見せた笑顔。今でも鮮明に思い出せる程、俺の脳裏に焼き付いている。どうにかもう一度見たいと思うばかりだ。


「だとしても相手は素性の知れない奴だ。そいつを迎え入れるなんて正気じゃない」

「言葉の使い方に気を付けろダテウス。王家派にとっての功労者に“そいつ”などと使うな」

「うっ。悪かった」 


 鋭い視線で圧をかければダテウスは怯んだ。


「いいじゃありませんかダテウス」

「クリフ!」


 レジスの面倒を見終えたようで、話は大方ローレンから聞いたとのことだった。


「生涯独身でいられるより良いでしょう。今まで女性に見向きもしなかったんですよ、ここは喜ぶところです。水を差してはいけません」

「だ、だけどな」

「言いたいことはわかります。私もありますから。ですが、アシュフォードが頑固なのは貴方もよく知っているでしょう」

「…………」


 チラリとこちらを伺うダテウス。その眼差しは考え直せという念付きのものだった。だが、折れる気など微塵もない。


「はぁ……初恋が来たことを祝福するべきか」

「そうですよ」


 一切表情を変えない俺を見て、ダテウスは説得を諦めた。


「俺はロザクを探しに行く」

「いや、どこにいるかもわからないのに無茶を言うな」

「気配なら覚えている」

「だとしても。目星くらい付けてから出発するべきだ」

「目星ならあるさ」

「えっ」


 死体偽装までして、死んだことにしたロザク。彼女がヴォルティス侯爵家付近にいないことは簡単に予想できる。


「死を浸透させるなら、知り合いがいる場所では危険が伴う。そうなれば、ヴォルティス侯爵領及びコジャンの組織から離れた場所だ。そこから片っ端に潰せば、必ず見つかる」

「意外と考えてたのか……」

「当たり前だ。そう心配するな」


 ふっと笑うと、今度はクリフが口を挟んだ。


「良い機会です。長期休暇だと思って羽を伸ばしてください。まぁ実際は人探しですが」

「……それもそうだな。ようやく命の狙われない日がやって来たんだ。ゆっくり休んでこい」


 命の狙われない日。それは暗殺だけでなく、戦場も意味していた。戦争から帰還した後も休まずだったことを、二人はよく知っている。だからこそ、その厚意をありがたくもらうことにした。


「留守は任せるぞ」

「もちろんだ」

「お任せください」


 休暇をもぎ取ると、必要な仕事だけ済ませて出発することにした。


(ロザク、必ず見つけ出す)

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