第12話 広がる訃報(アシュフォード視点)

 



 ロザクの死体を発見してから二週間が経過した。

 あれからクリフは指示通り噂を広めてくれた。新聞社もこの話を取り上げたため、平民にすらロザク死は知れ渡り始めていた。


 おかげで貴族派は今、混乱状態に陥っている

 今まで懇意にしていた凄腕の暗殺者を失ったため、好き勝手出来なくなったのが理由だろう。


「オブタリア公爵も最近は静かにしています。ロザクを失ったことが計算外だったのではないかと思われますね」

「……そうだな」


 てっきり俺は、オブタリア公爵はロザクを失ってもさらに暗殺者を送り込んでくるものだと思っていた。公爵にとっては、ロザクも一つの駒に過ぎない、そう思っていたから。しかし、これに関してはクリフの意見が正しい。オブタリア公爵もロザクなら俺を殺せると踏んでいたようだ。しかし、理解ができないのはロザクの死に際だった。


(それだけ信頼されておきながら、ああも簡単に死ぬのか?)


 普通、依頼を受けた暗殺者ならどんな非道な手を尽くしてでも俺を殺そうとするはずだ。今後のロザクの名誉にだって関わるのだから。

 あっさり過ぎる死に際に、またも違和感を覚えてしまった。


「社交界は英雄の勝利で話題が持ちきりですよ」

「そうか」

「誰もアシュフォードを殺せない。このことで王家派は活気づいています」


 活気づいたとはいえ、まだまだ貴族派と戦うには足りないことくらい、よくわかっていた。

 貴族派がロザクを失うことよりも、王家派がこれまで失ってきたものの方が大きすぎるから。


 山積みの問題を解決するために、次の話に移った。


「クリフ。密偵の件はどうなった」

「ダテウスから報告を受けていたものですね」


 騎士団の訓練を任しているダテウスから、先日ヴォルティス侯爵家周辺をうろつく輩が出始めたと聞いた。


「昨日捕えた人物の身元が確認できました。ラジャンの密偵で間違いありません」

「目的は吐かせたか」

「はい。ロザクの死を確認するためだと」

「なるほどな。処理は」

「済んでおります」


 どうやらラジャンでさえ、ロザクの死は予想外だったようだ。ロザクの死を確認するために、ここ一週間で密偵だけでなく貴族派の刺客もやって来た。刺客の雇い主は、ロザクに暗殺を依頼しようとしていた貴族派の一部だった。

 俺の暗殺が狙いでないからか、ロザクよりも格段に弱い奴らだった。


(俺が相手にするまでもなかった)


 クリフの報告は続きがあった。


「最近密偵や刺客に加え、不審な人物がヴォルティス侯爵家の前に出現するようになったとダテウスから報告がありました」

「不審な人物?」

「はい。何でも、ヴォルティス侯爵家の中を見るだけ見て帰ったり、近付いたかと思えば背を向けるような」

「怖気づいた密偵か」

「可能性はありますが……ダテウス曰く、見た目は一般人で覇気も殺気も感じられない人物ばかりだと」

 

 不審な人物。ヴォルティス侯爵家の正門辺りでうろつく輩のようだ。


「危険でないのなら放っておけ。それもダテウスに一任する」

「わかりました」


 刺客諸々の処理はダテウスに任せておけば問題ない。


 コンコン。


「入れ」


 話に一区切りついたところで、ローレンが書斎を訪れた。


「アシュフォード様。調査報告をしに参りました」

「聞こう」


 ローレンには、ロザクが崖から落ちて以来調査をさせていた。


 先週の報告では、ただロザクが優秀だとわかっただけだった。裏社会でもその評判は確かなもので、同じ闇組織に所属する者も“あいつは必ず殺す。まぁ、英雄には敵わなかったみたいだけどな”と言っていた。ロザクは一人行動だったのか、親交のある人物を見つけられなかったという報告だった。


「結論から述べます。進展がありました」

「進展が……!」


 正直、あの日抱いた違和感は俺に勘違いだったのかもしれないと考えるようになっていたため、ローレンの言葉に口元が緩んだ。


「ロザクをよく知る人物の接触に成功しました。私が報告するよりも、その方から話を聞く方が良いかと思われます」

「……と言うことは連れて来たんだな。案内しろ」


 ローレンの意図を汲み取ると、すぐさま立ち上がって書斎を後にする。クリフと共に、ローレンの案内に続いた。


「応接間か」

「いえ。地下に」

「地下?」


 客人としてもてなすべきだと思ったが、よく考えればロザクの知り合いは裏社会の人物である可能性が高い。ローレンがもてなすに値しないと判断したのだろう。


「実は大人しく同行していただいたわけではないんです」

「裏社会の人間か」

「いえ。ですが、ロザクに関して嗅ぎまわる厄介な刺客として捕え連れて来た……と言うことにしております」

「ということにしている?」


 淡々と事実だけを報告するローレンだが、わかったのは特殊な事情が絡んでいるということだった。理解するよりも先に地下の扉までたどり着く方が先だった。


「回りくどい。結論から言え」

「私も少し理解が追い付きません。どういう意味ですか、ローレン」

「すみません。ですが、お会いすればすぐわかります」

「何?」


 聞き返そうとするのと、扉が開くのは同時だった。そして目の前に現れた人物に、俺とクリフは驚愕する。


「「!?」」


 夢を見ているんじゃないか。思わずそう言いたくなった。


「アシュフォード様! クリフ様!」


 中にいたのは、ロザクに暗殺されたはずの男、レジス・コルクだった。

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